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【ネタバレあり】映画『大怪獣のあとしまつ』感想

あらすじ(公式HPより)

人類を未曽有の恐怖に陥れた大怪獣が、ある日突然、死んだ。
国民は歓喜に沸き、政府は怪獣の死体に「希望」と名付けるなど国全体が安堵に浸る一方で、河川の上に横たわる巨大な死体は腐敗による体温上昇で徐々に膨張が進み、ガス爆発の危機が迫っていることが判明。

大怪獣の死体が爆発し、漏れ出したガスによって周囲が汚染される事態になれば国民は混乱し、国家崩壊にもつながりかねない。終焉へのカウントダウンは始まった。
しかし、首相や大臣らは「大怪獣の死体処理」という
前代未聞の難問を前に、不毛な議論を重ね右往左往を繰り返すばかり・・・。

絶望的な時間との闘いの中、国民の運命を懸けて死体処理という極秘ミッションを任されたのは、
数年前に突然姿を消した過去をもつ首相直轄組織・特務隊の隊員である帯刀アラタだった。そして、この死体処理ミッションには環境大臣の秘書官として、アラタの元恋人である雨音ユキノ(土屋太鳳)も関わっていた。

果たして、アラタは爆発を阻止し、大怪獣の死体をあとしまつできるのか!?
そして彼に託された本当の〈使命〉とは一体―!?

 

注意

・ネタバレがけっこうあります。
・その割にとりとめなく考えた順に書いています。
・否定的な感想が多めです。
・長い。

 

観る前に気にしていたこと

・私に「怪獣映画といえば東宝怪獣やガメラシリーズ」という先入観が強すぎる。
・怪獣映画と相性の悪そうな三木監督。
・インターネット上で「令和のデビルマン」とまで酷評されている状態。

 

結果

・すっごいダメ映画。
・「令和のデビルマン」は言い過ぎ。
・良かったところや「こうしてくれたらなあ……」と思えるところはそこそこある。
・でもすっごいダメ映画。

 

詳細

※登場人物について役名ではなくキャストの名前で表記します。

前半

冒頭、テロップとナレーションで本編までに起こったことをガーッと説明してしまうのは好みが分かれるかも(なにかのオマージュ?)。でも枯野に残る足跡、精緻(この時点では。後述)なSFXで描写されるグロテスクな怪獣の死体、クラス会で「ああ、主人公の土屋太鳳と山田涼介のラブロマンスが絡むタイプの映画なんだな」「山田涼介にはおそらくSFチックな秘密が隠されているな」「というか今の山田涼介ってだいぶイケメンなんだね」とわかりやすく示してくれるなど、わざとらしくはあるけど雰囲気はいい感じ(ゴジラ映画なんてもっと雑だったりクサいことたくさんあるしね)。

――そして始まる(&最後まで続く)政治周りの描写が本当につまらない!!!!!!!!!!!!
さりげないものからここぞというときのキメまで常にクソつまらないジョーク。政争に全力を上げるならまだしもただ単に幼稚な時も多い連中。カメラを意識して不自然に立ち上がり大集合するキショい演出。まあ、ギャグセンスについては作風と言ってしまえばそれまでなので地雷とわかって観に行ったこちらにも非はあると思うけどさ。

あとこのご時世「日本に対し軍事力をちらつかせたり理不尽な要求をする米国」「日本が大変だと責任追及し、奮起していると分け前を要求する手のひらクルクル韓国(国名は明言なしだけど、口調がそうなのと、背景にハングル風の文字が映る)」みたいな描写、ギャグとしても安直&認識が古すぎて……。スクリーンは2009年の2chまとめサイトじゃねーんだぞ。韓国描写に関しては「国名は出してませんけど?」という言い逃れできないレベルの細い逃げ道を作っている姿勢もダサい。もしかして上に挙げた「情けない政治家像」みたいなのも当時のインターネットにおける民主党政権批判から着想を得ている?モロ蓮舫出てくるし。

「ぜってーこいつ悪役だわ」とわからせる濱田岳のキモ演技は素晴らしい。本当に嫌だった。

あと、怪獣の死体にマスクもゴーグルもなしで近づく隊員や政治家という描写、コロナ禍以降の衛生観念も相まって無防備過ぎて引いちゃう。この無防備さに関しては「怪獣の死体から人体に寄生するキノコの胞子が放出されている」という事実が明らかになる後半まで徹底される。「衛生」って言葉知ってる?

 

中盤~後半

荒くれ者の解体スペシャリストであるオダギリジョーが出てくるあたりから結構面白くなる。オダギリジョー自身がめちゃくちゃかっこいいのと、「ダム爆破」という特撮映画らしい見せ場、濱田岳が山田涼介の秘密を探りながら私情をむき出しにして戦況をかき乱す不穏なシナリオで「おっ、もしかしてこの映画、多少巻き返してくるのか?」と思わせてくる。んでその合間に政治シーンが入って最悪の気分になる。あとオダギリが仲間になる描写、あんなに軽くていいの?私怨があるとはいえ自社敷地内でダイナマイトで脅してきた危険人物だぞ。

あとダム作戦の結末の描写が分かりづらかったな。オダギリの決死の追加爆破でダム決壊→死体が水流で動き始める→死体の体内に水が流れ込み、やがて肛門から吹き出す→場面転換。結局どうだったの?→少し待っていると対策会議が始まり、失敗したことがわかる。
位置関係的にケツジェットで移動が妨害されたとも思えない。中盤の見せ場となる大作戦シーンで「作戦の成否を描写する」よりも「脈絡なく下ネタを入れる」を選んだということ?後者をやりたいとしても前者も映せよ。

色恋の要素は思っていたより結構重要だったので、演出こそクドくてキモい(キスのたびにBGMと環境音とライティングをわかりやすくいじるところとか)けど邪魔だとは思わなかったな。ギャグを減らせば三角関係と政争劇をもっと濃厚に出来たのでは……。三角関係の描写が強くなれば濱田岳も更に大暴れ、政治もさらに泥沼かつ重厚に出来たはず。

あと2MBのデータを送るのに十数秒もかけてんじゃねーよ。

 

最後

濱田岳が土屋太鳳を取られたくないがために大暴れした結果、山田涼介がオダギリから受け継いだ作戦も失敗する。2発目のミサイルの爆風に巻き込まれ怪獣の体から落下する山田だが何事もなかったかのように立ち上がると、突然ウルトラマンのような光の巨人に変身する。彼は作中で時々「選ばれしもの」「deus ex machina」などと示唆されていた超人的存在だったのだ。数年前の失踪も「選ばれしもの」に選ばれたから。先日の怪獣の突然死も彼の力によるものだった。彼は怪獣の死体を担ぎ、宇宙へと飛び立つ。土屋太鳳は「ご武運を…!」とつぶやくと、敬礼して愛する彼を見送るのであった。

クソみてえなオチだなとは思ったけれど、ゴジラ映画の理不尽パワーアップの亜種だと思えばまだ許せるかも。またはこれまでさんざんゴジラのパロディを見せつけてきて最後のオチはウルトラマンかよ!という作品全体を通じたボケだったのか。だとしたら全編貫かれた寒いギャグでインパクトが薄められてしまった。しょうもない映画だと気づいてしまっているので、オチがどんなにしょうもなくてもびっくり出来なかった。多少のユーモアを絡めながらもあくまで本筋は政治と怪獣!という態度を貫いて、最後に突然これであればナンセンスすぎて流石に笑ったと思う。

オチの是非については「倒したときに一緒に後始末もやってくれよ」「それが出来なかったにしてもダム決壊のときとかにやっといてくれよ」とは思ったけど、加えて別の視点で怒っているところがある。
deus ex machinaというのは一般的に、作中の状況がどうしようもなくなった最終段階に投入される絶対的な存在/演出のことだ。しかし、あの段階って本当に"最終"か?
一般的な怪獣映画の規模感だと、どうもあれくらいは序の口に感じてしまう。過去の例においては、「蛾のバケモノが東京タワーで羽化」「仙台市が消滅」レベルでさえまだ「そろそろ後半かな?」といったところだ。その段階にさえ至っていないのに作品が収拾を諦めているだけなので爽快感も納得感もない。あの局面を最終段階とする根拠が、作中世界の危機度合いという質的基準ではなく、映画を2時間に収めたらあそこが最後の見せ場になるという量的&メタ的基準なので、観客が置いてけぼりにされている。観客が「ここからどうするんだ…?」と思っているところで監督だけが「あとしまつ」を諦めている映画と言っていい。

終盤の全体的なツッコミどころとしては
・死体について。全体像のCGは滅茶苦茶迫力あるのに表皮のCGしょぼいな?
・携行のロケットランチャーで一発目のミサイル撃ち落としました!?
・変身アイテムが画面暗いままのスマホってなに?
・光の巨人の描写、しょぼいCGの足元だけってなんだよ。完全に描写するかしないかはっきりしてくれ
という感じ。

 

総評

・全てのギャグがクソつまらない。下ネタ、外交ネタ、その他すべて滑りまくり。とくに韓国ネタについてはTV放送とか配信のときにこっそり削除しといたほうが良いと思うくらいアウト。
・一部除き展開と演出が最悪。
・パロディこそあれオマージュはあまり感じない。
・一部除き特撮はかなりいい感じ。とくに序盤の死体の巨大感はすごい。あの映像で政治家たちがことの重大さに気づく、という描写に説得力がある。
オダギリジョーがカッコいい。というか、中盤のダム爆破編だけ妙に面白かった。
・山田涼介もカッコいい。土屋太鳳とキスしたり軍人を組み伏せたりオダギリジョーにぶん殴られたり怪獣に登ったりそもそもウルトラマンだったりとかなり多彩な活躍を見せるので、ファンは無理して見に行くだけの価値はある。
・怪獣映画を観たいなら過去の傑作を、クソ映画が見たいなら過去の駄作を観るべき。