旧譜メインで聴きつつも数はそんなに聴いていない、という感じなので新譜と旧譜それぞれ15作選出。
前提
・自分用の記録を、せっかくだからweb上に公開しているというスタンスです。旧譜についても「そういえばコレ聴いてなかったなー」で今更聴いたような有名作品とかも含みます。
・順位はつけていません。順番はただ単にアルファベット順→数字順→五十音順です。
・アルバムだけでなくEP、スプリットを含みます。
・リイシュー作品は今年まで入手がほぼ不可能なものであったとしても旧譜の枠に入れます。
・Twitterや過去の日記でレビューした作品の場合はその投稿を要約した文章で済ませている場合があります。
2022年新譜
Anatomical Amusuments - Corporal Kaleidoscope
ウクライナ/日本のゴアグラインドバンドCrash Syndromと韓国のブルータルデスメタルバンドFecundationのメンバーによるゴアグラインド/デスメタルプロジェクトによる1st EP。Carcassの3rdスタイルを現代ゴアメタルの流儀でアレンジしつつ更にメロディアスにした意欲作。2019年のCrash Syndrom / FesterdecayのSplitが好きだった人にもおすすめ。
Bjork - Fossora
リリース前の情報でガバ要素ありとの先入観があったが、全体としてはガバも飛び道具にしつつオーガニックでポップで心地よく、でもしっかり低音が主張する絶妙なバランスでまとめられた。どこか室内楽っぽい雰囲気もある。正直Vespertine以降はVolta除きそこまでグッと来なかったんだけど本作はかなり良いです。
Bloodywood - Rakshak
フジロックで来日も果たしたインド・ニューデリーのインディアンフォークメタルバンド1stアルバム(一応2017にカバーアルバムは出している)。インド舞踊音楽とニューメタルをミックスした「売れ線メタル」な志向と、一見それに反したシリアスなテーマ(鬼気迫るPVはどれも必見)がうまく噛み合って力強い躍動感につながっている。多用されるクリーンボイスも発声が明らかにインド音楽のそれで面白い。
The Halo Effect - Days of The Lost
In Flames meets Dark Tranquillityなスーパーバンドの1st。実際の音楽性はReroute to Remain以降のIn FlamesとHaven以降のDark TranquillityをIF成分強めで融合させつつ、Michael Stanneの歌声で一気にDTっぽくまとめた感じの音楽性。「いやどう聴いてもDT寄りだろ」という人もいるかもしれないけど一回voを無視して聴いてみてほしいです。ファストな曲はもちろんのこと、ミドルテンポ楽曲の質の高さが嬉しい。
Megadeth - The Sick, The Dying… And The Dead!
前作Dystopiaのときに高望みしたことが叶ったようなアグレッシヴな作品。冒頭3曲のと最終曲のインパクトがすごい。近年の彼らの作品の中でも特に抜きん出たアルバムではないか。EndgameとDystopiaのいいとこ取りをしてキコ・ルーレイロのメロディセンスで磨き上げられた感じ。
Molecule Plane - Apocrypha
京都出身の作家による電子音楽。電子音楽系のフェスなどのために作られた楽曲のリミックス+新曲1曲からなる変則的な構成のアルバム。分離のいい音でフェティッシュなドローンサウンドのレイヤーが楽しめる。特筆すべきは高音の鋭さで、切れ味感じつつも耳が痛くならない絶妙なラインの音作りが気持ちいい。
Session Victim - Basic Instinct
ドイツのデュオによるハウス・ミュージック5曲。生演奏をフィーチャーしたジャジーなダンス音楽で、とにかく今年聴きたかったハウスミュージックのド真ん中だった。完璧。
Soilwork - Övergivenheten
オーガニックな雰囲気が強化された一方でエクストリーム・メタルの要素をしっかり中核に据えるバランス感覚が更に研ぎ澄まされた一作。メジャーシーンの売れ線エクストリームメタルらしい類型に当てはまらない楽曲も13.Harvest Spineみたいなコテコテのモダンメロデスもしっかりかっこいい隙の無さ。2.Nous Sommes La GuerreのThe Night Flight Orchestraっぽい雰囲気はそんなに好きじゃないので、今後こういう楽曲メインになったら嫌だなーという不安はあるが。
SPOILMAN - HARMONY
日本のジャンク/ノイズロックバンド3rd。過去作よりもいい意味でラフかつ粘着質。ドラムが過去2作より格段に良い。オープニングの1.Cairoはノイズロック版のZEP - Achilles Last Standとも言える傑作の長尺曲。ハードコアなドライブ感覚とSWANSをスッカスカにしたような気色悪さを行ったり来たりする怪作/快作。
SWARRRM/kamomekamome - SK split
9年ぶり新曲のkamomekamome、「ゆめをみたの」直後のSWARRRMだが、どちらもハードルを軽々と飛び越えた。kamomeはプログレッシヴハードコアと壮大な歌モノの2曲、SWARRRMは歪の少ないギターがかえってメロディの美しさやブラストビートの苛烈さを強調する歌モノグラインドコア2曲。44回転のLPだからかも知れないが、盤で聴いた時のギターサウンドの生々しさが凄い。
Takafumi Matsubara - MORTALIZED Unreleased Songs EP (Poison EP)
romannumeralrecords.bandcamp.com
MORTALIZEDの未発表曲を豪華ゲスト―MORTALIZEDメンバーの名前も!―でレコーディング。彼ならではのメロディアスかつエクストリームなギターのカッコよさは不変だし、4名のボーカル、2人のドラム、全てが超個性的。
※デジタルならびアナログで2021冬に先行リリースされているんですがCD化は今年春なのでこちらに……
Wormrot - Hiss
Napalm Deathはじめ多くの先達が拡張してきたグラインドコアの実験的側面を、ショートカットグラインドコアのスタイルで総括した名盤。各メディアの称賛の中で"最左翼"と称されているのをよく見るが、むしろ現代におけるグラインドコアを把握するのに最適な作品とすら思う。
9mm Parabellum Bullet - TIGHTROPE
勢いは過去作に劣るが9mm節は健在。夏フェスソングと明言されている3.All We Need is Summer Dayでさえ彼らにかかれば日本の高温多湿で蜃気楼に包まれてしまう。Dark Tranquillityの遅い曲に場末のスナックのカラオケを乗せたような異様な雰囲気をもつ最終曲10.煙の街など、円熟を見せてなお新機軸で驚かせてくれるのが嬉しい。いい意味で「しみったれた感じ」を使いこなしている。
宇多田ヒカル - BADモード
ゴージャスでありながら洗練と優しさを感じた作品。「ネトフリ」「ウーバー」などのワードにより屋内を連想させながら愛を歌う表題曲から始まり、最終曲10.Somewhere Near Marseillesで「この夏合流したいね(中略)オーシャンビューの部屋一つ予約」と一気に愛する人と見る視野がまだ見ぬ海へと広がるアルバム構成が美しい(ボートラいっぱい付いてるけど)。
春ねむり - 春火燎原
フルアルバムとしては2nd。ポエトリーラッパーという肩書で今まで敬遠していたが、ヒップホップ、ノイズ、J-POP、ロック、激情ハードコア、教会音楽が融合した凄まじいスタイルで先入観が吹き飛んだ。怒りと絶望をむき出しにしつつも行動、祈り、対話を訴える力強さと美しさがある。しょうもねーイチャモンつけてた宇野維正は馬鹿です。
旧譜
Acrimony - Tumuli Shroomaroom
burningworldrecords.bandcamp.com
ウェールズのストーナーロックバンドによる1997年2nd。ドゥームメタルとストーナーロックとサイケデリックロックの完全な融合というか、Sleepの壮大さと絶妙なリズム処理を活かしつつ、正統派ドゥームメタルのエッセンスをふりかけた、奇跡のようなバランスを持つ作品。音圧も十分。
Burn - Global Warning
イギリスの検索しづらすぎるハードロックバンドによる2008年3rd。1995年の2ndはBon Joviっぽい音楽性だったらしいが、本作はモダンでヘヴィな音作りながらも渋いメロディに満ちた正統派で骨太なブリティッシュハードロック。メタル寄りのモダン&ヘヴィ音作りの楽曲にハスキーなボーカルと重厚なコーラスとシンセが味付けをしており、粒揃いの楽曲が並ぶ。あまりにも切なく爽やかで美しいメロディの最終曲11.Give Me Tonightが特に好き。
Corum - Riffhead
イギリスの超ドマイナーなプログレスラッシュバンド1997年1st。Metallica、Iron Maiden、Anthraxあたりをリスペクトとしつつ「プログレ要素のあるメタル」をツギハギしたような個性的すぎる楽曲群。バンドは2000年に2ndをリリース、2001年にメンバーの怪我でライブ活動を休止した後に一切の知名度を得ることなく解散したが、そのしばらく後にYoutube、Soundcloud等のアカウントを作ったらしく、2枚ともいろいろな手段で聴くことができる。
Disincarnate - Dreams of The Carrion Kind
Death - Spiritual HealingやObituary - Cause of Deathなどに参加していたギタリストJames Murphyによるプロジェクト1993年唯一のアルバム。奇妙で捻じくれたセンスのギターメロディが印象的なテクニカルデスメタル(今でいうテクデスほどのややこしさはない)。リフのアイデアがとにかく充実していて良い。Colin Richardsonプロデュースの邪悪な音作りも良し。
Fight - A Small Deadly Space
メタルヘッド諸氏はこのチョイスでひっくり返って頭打って死んだかもしれませんが本気です。Judas Priest脱退期間のRob Halfordが結成したバンドFightによる、「本作が売れなかったのでFightは解散した」とすら言われている2nd。人気を博した1stの鋭いインダストリアルメタル風のサウンド(私は大嫌いです)と違い、Alice in Chainsやストーナー系のバンドなどに接近したグランジ/ストーナーメタル。ラフで枯れた音作りで盛り上がらないグルーヴィーな楽曲を連発する無愛想なスタイルは再評価されるべきでは。
GASP - Drome Triler of Puzzle Zoo People (Re-issue)
gasplapsychviolence.bandcamp.com
カリフォルニアのパワーヴァイオレンスバンド1998年1st。2021年再発。ハードコアにしては長い尺で支離滅裂な曲展開を繰り返すMan is The Bastardっぽいパワーヴァイオレンススタイルに、アンビエントやサイケデリックロックを強引に結合したようなスタイルが唯一無二。構成要素を単語で抜き出すとBrutal TruthのNeed To Controlと大差ないように思えるのだが出来上がるものがぜんぜん違うのが面白い。
Necrony - Pathological Performances (Re-issue)
NasumのメンバーがやってたCarcass2ndスタイルのゴアグラインド/デスメタルバンド1993年作。2021年再発。荒々しい勢いとヘヴィネスと粘性が両立したかっこいいゴアメタル。元ネタがさり気なく小出しにしていた諧謔精神を、フルートやアコギの活用などでより直接的な形で表現しているのが突拍子もなくて面白い。勢いのあるアートワークも素晴らしい。
OGRE YOU ASSHOLE - workshop
2015年作。今年はhomelyしか聴いたことのないOGRE YOU ASSHOLEのディスコグラフィーを総ざらいした一年でもあった。どれも良かったけど、抑制のきいた原曲を壮絶でサイケデリックなアレンジでぶちかます彼らのライブの魅力のごくごく一端に触れられたこの作品を。ライブに行ってみたい。
Pharoah Sanders - Pharoah (1977)
(サブスクもデジタルリリースもなかったので画像だけ)
同名作が他にもあるが、これは1977年(76年説有り)の作品。今年アナログでリイシュー。近い時期のLove in Us Allあたりと比べると妙にローファイだけど、むしろそれが楽曲の雰囲気とマッチしている、温かみのあるスピリチュアル・ジャズ作品。何度聴いても本当に素晴らしい。どこかドリームポップみたいな雰囲気を湛えたギターとサックスの化学反応が最高すぎる1.Harvest Timeは素晴らしい。
Stephan Mathieu - The Sad Mac
2004年作。bandcampから音源を引き上げると発表したドイツの電子音響作家Stephan Mathieuの音源もまとめ買いしてちまちま聴いていた。まだ聴き込めていない音源もあるが、特に多彩かつ、その彩りのどれもがツボに入って、その上妙な愛嬌を感じさせるこの一作を挙げたい。
Whiplash - Power and Pain (Re-issue)
アメリカのスラッシュメタルバンド1986年1st。名盤の誉れ高い一作だが長年プレミア化しており、この度1st~3rdがセットになったThe Roadrunner Yearsとして再発された。単音刻みでキャッチーな爆速リフを刻むギター、ハイテンションなバンドアンサンブル、血反吐を吐くような絶叫ボーカル、全てが完璧。特にB面が凄すぎる。"Power Thrashing Death"なる曲が入っているアルバムが名盤でないわけがない。
Wicked Lady - Psychotic Overkill
1968年から1972年まで活動していたイギリスのハードロックバンドによる1972年録音、2012年リリース作品。重厚感とメロディを兼ね備えた、プロト・ヘヴィメタルと呼ぶべき音楽性。Black SabbathやPentagramっぽい初期ドゥームな曲調にIron Maiden風のメロディが絡み、ボーカルはサイケ系のヘロヘロ声という異様なスタイル。10年早かったNWOBHMとでも言うべき面白いサウンド。
ばねとりこ - 逆さの樵面より
LAと関西を拠点にする女性・植田珠来氏による「妖怪ノイズ」ソロ・プロジェクト2020年作。「洒落怖コピペ」として知られる『逆さの樵面』を題材にしたコンセプトアルバム。金属のきしみを軸に、元の作品から感じられる土着信仰への畏敬を情感たっぷりに鳴らしきった。リリース時に聴いていたら年間ベスト確定の傑作ノイズ。今年の新譜を聞き逃したままだと今書いていて気が付きました。
不失者 - 完結されもしない死
(サブスクもデジタルリリースもなかったので画像だけ)
灰野敬二のバンド1997年作。バンド形式のノイズ/即興モノではありつつ、根底にブルース/初期ハードロック/フォークを感じる傑作。歪なハードロックとでも形容したい楽曲「うまくいったのに?」が白眉。ゴリゴリのノイズ曲も轟音のコントロールに美学を感じられて良い。灰野敬二関連の作品はそこまで追えてないけど、本作は際立ってノイズと歌心が両立した名盤だと思う。
宮城出身のベテランシンガーソングライター2021年20th。室内楽編成と繊細なサウンドメイキングによるすごく温かい作品。ポスト・クラシカルっぽさもある潮騒、鼓動、朝霞ノ歌が特に良い。遊佐氏の独特な発音、声の掠れ、吐息といった肉声の諸要素を活かしきった美しいボーカル録音がただでさえ高い本作のレベルを更に押し上げている。
まとめ
・なんかグラインドコアとゴアグラインドが激アツな年だったな、という感じ。選外にはしたがSWARRRM / Kandarivasのスプリット、放課後グラインドタイムやPharmacistの作品も良かった(後者は作品の出来ではなく複雑な楽曲を十分に聴き込めていないために選外としました)。来年もFesterDecayの1stが控えているのが楽しみ。
・ハーシュノイズをあまり聴けていない。
・こうやって書くことで「あれ聴いてなかったな……」と思い出せるので良いですね。
・良いお年をお迎えください。