ウゴガベ

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2024ベストアルバム&良かった旧譜各20枚

2024年新譜ベスト&選外にした新譜から良かった曲ピックアップ&2024年に聴いた旧譜ベストです。

前提

・新譜と旧譜それぞれ20作、選外新譜の良かった曲を15曲選出。
・1アーティスト/バンド/ユニットつき新旧合わせて1作。
・個人的な振り返りとしての意味合いが強いので、旧譜については有名無名問わず。客観的には今更ピックアップする意味がないような伝説的名盤とかも、今年初めて聴いてよかったものであれば平気で載せる。
・作品ごとの文章量は当該作品の評価の高低に比例しない。
・順位は無し。順番はただ単に数字順→アルファベット順→五十音順。
・アルバムだけでなくEP、スプリットを含む。

2024年新譜

Another Dimension - Worship Death

www.youtube.com

日本のメロディックデスメタル2nd。Pagan Orphans Recordsからのリリース。
メロデスバンドIntestine BaalismのメインコンポーザーにしてGt&voを務めるNonakaがGtと作曲、スラッシュメタルバンドTerror SquadのVoを務めるUdagawaがVoと作詞という、日本のエクストリーム・メタルファンに取ってドリームチームと言えるバンドだが、その期待に違わず、古き良きメロデスを彷彿とさせるアグレッシヴな曲展開、その中でここぞというときに炸裂する過剰なまでにドラマチックなギターメロディ、全編デスラッシュ的に鋭く叫びまくるvoが最高に気持ち良い。IBはOSDMに突如歌謡曲的メロディが切り込む事による異様さとキャッチーさ、TSはクロスオーヴァースラッシュを基調としてジャパコア的メロディやアヴァンギャルドな展開を取り入れる個性をそれぞれ持っているが本作は、IBと比べると切れ味が鋭いメロデスラッシュに振り切れているようでいて、TSと比べると叙情性に振り切れているように聴こえるという、まさしくいいとこ取りの絶妙な塩梅で個性が組み合わされている印象。両バンドのファンだけでなく、Edge of SanityやJohan期のArch Enemyのような「ギターフレーズを歌えるくらいキャッチーだけど全体的に暗くてメジャー感はない」くらいのメロデスがいける人には全員おすすめできる。

Baron - Beneath The Blazing Abyss

barondm.bandcamp.com

フィンランドデスメタル/デスドゥームメタルバンドデビュー作。 Transcending Obscurity Recordsからのリリース。
音作りはアタック音が際立つモダンな音作りだが、楽曲はスラムデスのようなミドルテンポ、メタリックハードコアのようなモッシュパート、デスドゥーム系の陰鬱さの両立が特徴的な、いそうでいないスタイル。日本のKRUELTYをデスドゥーム/ゴシックドゥームのメロディで味付けしてちょっとだけスラムデスに寄せた感じとも言えるかも。
アルバム全体としてはグルーヴィーな印象が強いがメロディアスな楽曲もちゃんとあり、特に5.「Bound To The Funeral Pyres」は陰鬱なメロディのデスドゥームを基調とした良曲。
特筆すべきはグロウルとスクリームを使い分けるvoで、デスメタルらしいかっちりさと獰猛さを持ちつつ歌詞が聞き取れるキレの良さがある。特にブラックメタル感もある高音スクリームはかなりかっこいい。

Dunwich Ritual - The Weird Tapes Sessions

jawbreakerrecords.bandcamp.com

フランスのスピードメタルバンドデビュー作。タイトルからは分かりづらいがフルレングスアルバム扱いでいいらしい。Jawbreaker Recordsからのリリース。
アートワークはかったるいC級ストーナー・ロックにしか見えないが、実際はラフな女性voと、パンキッシュでメロディアスなSpeedtrapあたりと系統の近いリフが特徴の猪突猛進型スピードメタル。
本作の良さはとにかく曲が熱くて速いというただ一点に尽きる。欠点も多く、音質はローファイで「デモテープやリハーサル音源だとしたら高音質」といったレベル。3回に分けて録音されたそうだが毎回録音環境が異なるようでアルバム中盤はクリッピングが目立つ。voは野暮ったく声量コントロールが全くできておらず端的に言って下手。そういった欠点を、幼稚なまでにハイテンションな楽曲によって「熱さ」「初期衝動」といった印象に還元していく魔力があるアルバム。voも下手なりに個性を出しており、3.「The Sinking City」では今後の成長を期待させる多彩な声色を使い分ける。オールドスクールメタルヘッドに大推薦。

Februus - Surveillance Orgy

februusdm.bandcamp.com

スウェーデンのAndreas Karlssonなる人物によるプログデスメタルソロ・プロジェクトデビュー作。 Horg Recordings/Transcending Obscurity Recordsからのリリース。
2024年のプログデスといえばBlood Incantation一択という気配も感じなくもないが個人的にハマったのがこれ。
ソロプロジェクトとは思えない高密度のバンドアンサンブルが聴ける。ハマったポイントとしては、"プログレッシヴ"の構成要素にアトモスフェリックな空気感をほとんど持ち込まず、伝統的なエクストリーム・メタル像の緻密な組み合わせを軸にしていること。パッセージ単位に着目すると90年代のデス/テクニカルスラッシュあたりが源流と思われる部分が殆どで、1曲除き7分以上、最長14分超の全5曲という構成でありながら常にメタル的キャッチーさを維持している。
例外かつ面白いのがラストの5.「Resignation Syndrome」で、前半は3+3+3+3+4の拍子をベースにMorbid Angelや90年代テクニカルスラッシュあたりからつまみ食いしたようなフレーズを乗せるデスメタル、中盤に本作唯一と言って良いフューネラルドゥーム風の静かなパートを挟んでからハイスピードの目まぐるしいデスメタル(12:17~の「ブラストするCoroner」といった風情の激キモ高速リフはかっこよすぎ)で締めくくる。
全体的に「気持ち悪くキャッチーなフレーズを奇怪に組み合わせる」というやり方を貫いている感があり、Necroticism期Carcassを今世紀のプログデス/テクデスの隆盛を踏まえてアップデートしたようにも聴こえる。パートによっては「GorodとExhumedの中間」なんていうヘンテコな例えも思い浮かぶ。
前人未到の音像を追い求める向きには合わないだろうけど、「かっこいいデスメタル」を念頭に置いた作曲は刺さる人には刺さるはず。

Grand Magus - Sunraven

grandmagusband.bandcamp.com

スウェーデンヘヴィメタル/ドゥームメタルバンド10th。Nuclear Blast Recordsからのリリース。
初期はドゥームメタルとして扱われていた気がするバンドだが、本作の路線は中期以降の路線を継続した、ドゥームっぽくミドルテンポ主体で鈍重な雰囲気が支配的なヘヴィメタルといった趣。
勇壮でありながら一切のエピックな装飾を排除した、シンプルかつドラマチックな楽曲が素晴らしく、Gt&VoのJBの、かつてSpiritual Beggarsでも披露していたソウルフルで暑苦しい中音域主体の歌声との相性が抜群。SB在籍時も思っていたけれど、彼は現代メタルボーカリストの中で技量・個性ともにトップランカーの一人だろう。メタル的記号がないスタイルなので「超絶ハイトーン」「人外レベルのガテラル」みたいなわかりやすい語り口はないけれど。
ドゥーム系のベテランバンドということでリフの素晴らしさとリズム隊の力強さが突出していることは言うまでもないが、本作中のベスト級ギターソロが聴ける3.「Sunraven」や9.「The End Belongs To You」など、メロディ面も充実。3分台の曲が殆どを占めトータル35分で終わるコンパクトさにエピックメタル/トラディショナルドゥームの魅力を詰め込んだ傑作(もう15分くらいあってもいいとは思うが)。

Indication - Ataraxia of The Phoenix

dazestyle.bandcamp.com

日本のメタリックハードコア1st。Dazeからのリリース。
Crystal Lakeの初代フロントマンVeronなどシーンで名の知られたメンバーによる新バンドによる、ゲスト多数のデビュー作という触れ込みだが、そういった部分を抜きにして非常によくできた作品(にしてもHSBのMarcusはびっくりしたが……)。
基本的にはヘヴィなニュースクールHCで厳つくあってほしくて、でもメロディアスなリフは出し惜しみせず使ってほしくて、でも軟弱にならずここぞというときはしっかりブレイクダウンとしてほしくて……という、とにかくゼロ年代以降主流のメタルコアとは違うタイプの「メタリックハードコア」の美味しい部分を全部やってくれる作品。唯一の例外5.「Renaissance」もファストな2ビートにサビではシンガロングという、これまた別タイプのハードコアでやってほしい要素を完全にやってくれる楽曲。8.「Dusk Falling」は「ずっとヘヴィでずっと叙情的」という絶妙なバランスを見事達成した、アルバムのフィナーレに最適な良曲。

Judas Priest - Invincible Shield

music.apple.com

イギリスの超大御所ヘヴィメタルバンド19th。Sony Music Entertainmentからのリリース。
これまでにいくつもの名作・人気作をリリースし、2005年のVo.Rob Halford復帰後も精力的に活動し「偉大な先達」としてちょうどいい位置に収まりつつあった平均年齢66歳の彼らがリリースしたのは、キャリア屈指、Rob復帰後だとぶっちぎりのNo.1と断言できる傑作だった。
音楽性としてはここ2作と大きくは変わらず、コンパクトにまとまりつつ程よくモダンで、ノリの良さとドラマチックさを両立させた正統派のヘヴィメタル。だが本作は、そういった要素をすべて追求したもののすべてがちょっとずつ物足りなかった「Redeemer of Souls」、コンパクトなキャッチーさを追求したものの楽曲ごとの差が大きすぎた「Firepower」の課題を克服し、アップデート版と言える質の高さに満ちている。
まず、優れたリフをアップテンポに叩きつけ要所要所でRobのハイトーンシャウト(なんとここ数作より明らかに力強い)が突き刺さる冒頭3曲のインプレッションが最高。特に3.「Invincible Shield」のリードギターなんか、彼らの中でベストリードギターを選んだらかなり上位に入るんじゃないか。それ以降はミドルテンポ曲が増えるが、程よくひねりの効いたギターリフとドラムパターンのお陰で、退屈にならずねちっこいグルーヴとしてプラスに昇華されているし、全体的にエピックメタル系のメロディ(ギターも歌も)が多いのでフックがある。比較的若手のGt.RichieやプロデューサーAndy Sneapの影響だろうか。
メタルの暑苦しさをシンセポップのような流麗さとポップさに落とし込んだ5.「Gates of Hell」、美しいメロディが印象的なパワーバラード6.「Crown of Horns」、前作っぽい直線的な10.「Sons of Thunder」などバラエティにも富んでいるし、RobのVoは先程称賛したハイトーンシャウトだけでなく、中音域についても加齢もあってか渋みと深みが段違い。本編ラスト11.「Giants in The Sky」は先人を追悼する泣ける歌詞を渋く太い中域と血を吐く勢いのハイトーンで歌うエピックメタルチューンでアルバムラストに相応しい。
個人的にオッと思ったのがAndyのプロデュース。正直、ゼロ年代に彼が関わった作品の、モダンで平坦な音作りがマジで嫌いだったのだけれど、本作はモダンな迫力を持ちつつ音の分離が良く、特にギターはラフなニュアンスもある程度残しているのがかなり好みで、彼の手腕も20年かけてかなりハイレベルなものになっていると感じた。

Officium Triste - Hortus Venenum

officiumtriste.bandcamp.com

オランダのデス・ドゥームメタル7th。Transcending Obscurity Recordsからのリリース。
初期ゴシックメタル勢やNovembers Doom、Draconianあたりとの共通も見出せそうな、ミドル~スローなテンポのドゥームメタルリードギターが泣きまくり、voが低音グロウルで吠えまくりの渋いスタイル。
暗いアートワークに反して、楽曲のメロディは陰鬱というよりは切なく郷愁を誘うようなものばかりなのが良い。感覚としてはメロディアスなデスドゥームというよりものすごく遅いメロディック・デスとしても聴ける。ただし歌詞は徹底的に暗く、魔女狩りの犠牲者、戦災孤児などどれも絶望的なテーマを歌っている。
サビ?のリードギターが必殺級の印象度を持つ1.「Behind Clossed Doors」が好みなら外さないアルバムで、3.「Anna's Woe」6.「Angels With Broken Wings」などは食傷寸前のメロディの洪水に感激。
アルバムのランニングタイムが41分とこの手のジャンルにしては短いのも好印象で、こちらが疲れ始める寸前でアルバムが終わる絶妙な塩梅。

OGRE YOU ASSHOLE - 自然とコンピューター

music.apple.com

日本のサイケデリックロックバンド8th。Office ROPEからのリリース。
2011年のアルバム「homely」以降クラウトロック系のミニマルな反復を主軸とする音楽性を主とするOYAだが、本作ではその路線を押し進めつつ、2023年のEP「家の外」でチラ見せしていた「昔のテクノ/ジャーマンロックっぽいアナログシンセリフをバンドサウンドに組み込む音楽性」「徹底的に『ない』『起こらない』という虚無を描写することで虚無や不安を表出させる、着地点のない歌詞世界」2要素をアルバム全編にわたって導入。心地よく体が揺れながら脳の言語野に延々と空虚な不安がなだれ込んでくる異様な経験ができる。
特にアルバム前半はアナログシンセを全面的にフィーチャー。それでいてあくまでバンドの人間らしいゆらぎのグルーヴが感じられる楽曲群が並び、テクノ感はない。
後半も方向性は同様だが若干毛色が変わる。7.「熱中症」のシンセの間抜けさは凄い。熱中症になったときの周囲を認識できているのに関与できないもどかしさを描いているような歌詞と相まって凄まじい虚無感がある。8.「家の外」はEPのどこか緊張感のあるアレンジから変更され、テンポを落とすとともにシンセを一気に前面へ。Kraftwerk感のある仕上がりになり延々と待たされる退屈さ/虚無感だけが残る。最終曲10.「たしかにそこに」は骨格こそ名バラード「夜の船」(アルバム「100年後」収録)に近いのに、調子外れなシンセや気持ち悪いコーラス等によって叙情性が完全に剥奪され、アルバムアートワークのような"何か"を説明しようとして失敗するだけの進展のない歌詞で意味性も剥奪され、「メロウなのになんでもない」という新境地に達している。
とにかく、褒め言葉として「何でもなさすぎる」と言いたい作品。

Pestilength - Solar Clorex

pestilength.bandcamp.com

スペインの二人組デスメタルプロジェクト3rd。Debemur Morti Productionsからのリリース。
音楽性としては、海外だとCavernous Death Metal(洞窟デス)、日本だと暗黒デスメタルと呼ばれるタイプの、ドゥームデス系の引きずるようなどす黒くくぐもった雰囲気と複雑なリズムチェンジによる複雑さを併せ持つスタイル。近年流行り(多分)のDissonant Death Metal(不協和音デス)とも近い雰囲気だが、抽象性を追求していると言って良い当該ジャンル群と比べると、こちらはクトゥルフ神話感のあるアートワークにも通じる暗く不気味な雰囲気を志向しており、ある意味でのわかりやすさがある。
旧作ではブラックメタルっぽい要素も取り入れたドゥーミーなデスメタルをIncantation系の暗黒感で包み込むスタイルで、有無を言わせず威圧的に押し切るような雰囲気があったが、本作は少し余裕が出てより多様な手法を展開。全編を通して歪みの少ないファジーなギタートーンが支配的で、それによる歪な雰囲気が良い。旧作で印象的だった水っぽい中~高音のVoは迫力面で更に進化し、沸騰するドブみたいなゲロゲロのグラント/ガテラルボイスに。これがあまりに気持ち悪く素晴らしい。
楽曲もいい意味でこなれてきており、静かなパートを多く含む4.「Enthronos Wormwomb」はポストメタルのような印象すらある。と思えば6.「Dilution Haep」なんかはほとんどCovenant期のMorbid Angelで、「こんなに歪でもやっぱり根っこはデスメタルなんだなあ」という感じ。
白眉は10.「Suhbem Legm」で、クリーントーンも交えた不穏な前半からメロディの輪郭を完全に失い不協和音デス系の雰囲気で進行する後半へ至る曲展開、全く疾走感のない引きずるようなブラスト、下劣極まりないVo、すべてが完璧。

Shuta Hiraki - Lyrisme Météorologique

obalto.bandcamp.com

音楽ライター「よろすず」としても活躍する日本のアンビエント/ドローン奏者の何枚目か不明のアルバム。時の崖からのリリース。
ハーモニウムを小型化したようなインドのドローン楽器・シュルティボックスをメインとしつつ、その音をシンセサイザーの発音や変調のトリガーにもしているらしい。
調律等に関する理論的アプローチは全くわからないので特に言及はできないのだが、絶えず変化し続けるハーモニーの聴き応えが抜群で、おそらく一般的に想起されるドローン音楽の数倍の速度で展開する。シュルティボックスの音の変化に絶えずシンセがレスポンスしているのだろう。2023年にShuma Ando氏と共作でリリースしていた「idiorrythmie」でもシュルティボックスを使用した即興演奏を収録していたが、本作はそれを電子音楽と融合させさらに進展させた印象。変化し続ける和音が心地よく、ずっと聴いていられる。

Spectral Wound - Songs of Blood and Mire

spectralwound.bandcamp.com

カナダのブラックメタルバンド3rd?4th?アルバム。Profound Lore Recordsからのリリース。
現行オルタナティブ・ミュージックの重要な位置を占めているブラックメタルだが、本作はそういった潮流とほぼ無関係と言ってもいい、Immortalのような王道ブラックメタルDissectionのような90年代メロディックブラックを純粋に突き詰めて洗練させた正統派ブラック。「洗練」といえる要素はいくつかあるが、まず安定した演奏と優れたサウンドプロダクション。単にハイファイなのではなく、ブラックメタルの様式の一つであるトレモロリフ+喚き声+ブラストビートによる飽和の美学が味わえる平坦さとくぐもりをある程度残しつつ、その上で荒々しい演奏の粒度が聞き取れる絶妙なバランス。
スラッシュメタルの発展型としてのブラックメタルという本来の立ち位置を尊重したアグレッシヴさとメロブラ名作群に勝るとも劣らない旋律が両立している(激しい曲とメロディアスな曲が別れていない)事が嬉しい。全くもって捨て曲なし。
「旧来のブラックメタルを継承」と言うと必ずついて回るのがネオナチ思想問題だが、彼らが反ファシズムを明言している*1のも個人的にはとても好ましい(一応言っておくがもし彼らがナチ信奉者だとしても「NSBMってマジでカスなんだけど悔しいかな、本作の質だけは名作と認めざるを得ない」と悔しがっていただろう)。そういった点も含めて、現代において王道Black Metal入門編の定番に位置づけて良い、欠点なしの快作。

Torturers' Lobby - Deadened Nerves

caligarirecords.bandcamp.com

アメリカのデス/スラッシュメタルバンドデビュー作。Caligari Recordsからのリリース。
「デス/スラッシュ」というと、初期PestilenceやDeathのようなジャンル黎明期の先駆者、あるいはそれらのリバイバル系を指すことが多いが、本作はむしろ現代だからこその路線で、複数メタルジャンルの要素を的確に取捨選択し複合させている。実質的なオープニング2.「Barbaric Alchemy」はグルーヴィーなクロスオーヴァースラッシュ系のリフをOSDMを遅くしたようなひねりの効いたリズムに乗せて意表をついたかと思えば、4.「Captured Pieces」はRepulsionみたいなイントロから爆走するデスグラインド、5.「Reaper's Impunity」は完全にブラックメタル、と見せかけてインストパートはメロデスのような泣きのギターソロ――と、とにかくオールドスクールなエクストリーム・メタルを一通りこなす器用さ。それでいてキッチュさやこなれた感じはまったくなく、あくまで硬派な印象を残す。
前半はPower Trip「Executioner's Tax (Swing of the Axe)」風の最強リフを備えたクロスオーヴァースラッシュ、後半は爆走でスラッシュになる8.「Re-education」、Revocationのような前半からどんどん荘厳なメロディを帯びていく10.「Reptilian Hide」のように、実はかなりモダンで洗練された楽曲も多いのだが、それでも初期デスメタルっぽいアングラ感に満ちているのは、ボーカルの野蛮な中音域グロウルも大きな要因か。

Viva Belgrado - Cancionero de los Cielos

vivabelgrado.bandcamp.com

スペインのスクリーモ/ポストハードコアバンド4th。Tokyo Jupiter Recordsと自主レーベルFueled by Salmorejoの共同リリース。
スクリーモとは書いたが、いわゆる激情系やSkramzというよりは、シューゲイザーやエモ、ポストロックをベースとしたロックに時折スクリームやハードコア由来の激しさを加えていくスタイルに聴こえる。
メロウなフレーズを奏でる美しいギターと、その対角線上にいるような生々しく感情的にスペイン語を乗せるvo、冷静なベースラインの対比が心地よい。
静かなポストロックが突如激情ハードコアに展開し美しいギターリフの上をどこか弱々しいvoが叫びまくる構成を基本としながら中盤にフラメンコを挿入するなどひねりも効いている5.「El Cristo de los Faroles」、ドリーミーな浮遊感に溢れ、Voと児童合唱団のコール&レスポンスに驚かされる9.「Jupiter and Beyond The Infinite」、今敏監督作品『パーフェクト・ブルー』を題材に疾走感のあるエモの直球勝負に出ているキラーチューン11.「Perfect Blue」あたりが耳に残る。
アートワークが音楽性を象徴している、普遍的で美しいロック作品。

Zenocide - Ashes Asylum

Blood of the Others - Single

Blood of the Others - Single

  • Zenocide
  • Punk
  • USD 1.29

music.apple.com

日本のハードコア/ノイズコア/ドゥームメタル2nd。Daymare Recordingsからのリリース。
ターレス時代のライブ音源編集盤「Veronica Puts On Silk」しか知らなかったので、てっきりCorrupted的スラッジメタルを常軌を逸した低周波ノイズが完全に覆い尽くすノイズドゥーム系のバンドかと長年思っていたのだが、本作で聴ける音楽はアナーコパンクやKilling Jokeのようなスローなポストパンクにキリキリとした高音ノイズとスラッジっぽい喚きVoを絡ませるハードコアで、まずそこのイメージの違いに驚かされた。
1.「Blood of The Others」は、Killing Jokeの1st収録曲のリフの刻み方をメタル系に置き換えて再構築したような響きで、コーラスだがリバーブだかがかかったポストパンク風ギターサウンドとの食い合わせが奇妙で面白い。3.「V/0/1/d」も同様の路線だがよりドゥームメタル的アプローチで、アウトロがBlack Sabbathの「Black Sabbath」オマージュなあたり意図的だろう。6.「She.」のように完全にドゥームメタルな曲もあるのだが、こんな曲でもギターの音処理は完全にポストパンク、ときにシューゲイザー的ですらあり、そういった一見いびつな融合がしっかり個性として決まっているのがかっこいい。合わなそうな具材をミキサーにかけたペーストを未調味で飲まされているのに美味い、みたいな不思議な感覚がある。
なんとなくハードコア/デスメタル等の界隈のバンドなのでそういう界隈(服装がクラスティーな方々の集団など)意外にはあまりリーチしていないバンドだと思っているが、上述した通り「邪悪なポストパンク」というのがおそらく正確な表現なので、もっと多くの人に聞かれてもいい作品に思える。
CDの装丁も見事で、プラケースへの直接印刷とブックレットの代わりに入っているアクリルボードを組み合わせたレイヤー表現のあるアートワークがかっこよすぎ。

キンモクセイ - 洋邦問わず

music.apple.com

「二人のアカボシ」「さらば(アニメ『あたしンち』OP)」などのヒットソングで知られる日本のポップ/ロック/フォークバンドの6thアルバム。グレースプロジェクトからのリリース。
メジャーリリースだった1stアルバムしか知らなかったのだが、当時にしても時代錯誤だったフォークサウンドをベースに青臭い熱を歌ったあの頃から、楽曲も歌詞もいい意味でやや落ち着いてムーディーな方向に発展している。
YUKI星野源あたりが似合いそうなゼロ年代風J-POPに乗せて2020年代を生きるおじさんだからこそ歌える時代性と穏やかさを帯びた愛を歌う2.「君のくしゃみ」、超テクニカルな演奏に乗せて中年の悲痛な諦念を歌うヒトリエ系高速ダンスロック4.「モラトリアムからサナトリウム」、「4人はアイドル」みたいなタイトルや突如劣化する音質など完全にThe Beatlesな6.「4人はキャンドル」、爽やかなボサノバ7.「いつもの朝」、80年代ヒット洋楽っぽいキーボードと桑田佳祐マキシマムザ亮君のような英語発音風日本語の組み合わせが面白すぎる8.「強引にLOVE」、辛くうまくいかない人生を視点を切り替えさせずに「本当のあなたが見えたのならそれでいい」と肯定する歌詞とドゥーワップ・コーラスが美しすぎる10.「この世の果てまで」など、アルバムタイトル通り時代を超えた様々な洋楽/邦楽のロック/ポップスを彷彿とさせる。それらの膨大な要素を彼らの歌謡フォークロック色に優しく染め上げる力量はさすが。
音楽に詳しい人はインスパイア元を考えるだけで楽しいだろう(私は全然わかりません)し、そうでなくても単純にポップミュージックとして凄まじくできが良い。

ツンベルク管 - ナットとボルト

thunbergcan.bandcamp.com

日本のオルタナティブロック系ボカロP(voは初音ミク)の1st。セルフリリース。
正直オルタナロックに全く明るくないのでどういうバンドと比較しうるのかよくわからないが、ふた昔前のOGRE YOU ASSHOLEあたりも連想するような、クリーントーンのギターを多用した楽曲に朴訥とした歌詞が乗る。
前半はメロウな雰囲気が心地よく、特に切ないロックバラード5.「電球(Naked.)」はOYA「夜の船」あたりと比肩しうる美しさ。
前半も良いのだが凄まじいのが後半3曲。このまま消えてなくなるのではというくらいスカスカな7.「千葉都市モノレール」を経て迎える10分弱のタイトルトラック8.「ナットとボルト」が、クラウトロックのごとく淡々と続くミニマルなリフ2つを背骨にして、ディストーションギターも交えつつドラマティックに展開する良曲。この大曲が終わったあとにラストに置かれた9.「月に帰るわ」が初期スガシカオがやっていたような、素朴で、寂しくも前向きなポップソングなのも良い。

仲村宗悟 - carVe

carVe

carVe

music.apple.com

声優(『アイドルマスターSideM』天道輝役など)としても活躍するシンガーソングライターの3rdアルバム。Lantisからのリリース。
ここ数年のシングルを中心とした、半ばコンピレーション的構成だが、暑苦しいファンクと爽やかなポップロックの強力な二本柱でまとめられており寄せ集め感は無し。
ほぼすべての楽曲が、仲村宗悟自身の作詞作曲と、GLAYのサポートメンバーとしても活躍する村山☆潤による編曲というバディ体制の楽曲をバンド編成で演奏するスタイルを採用しており、「オケ」にとどまらない躍動感ある演奏が聞ける(特に3.「fist of hope」とか)。仲村の歌唱は彼のよく通るややハスキーな声質を全面に押し出しており、ときにENDLICHERI時の堂本剛っぽく聞こえるときも。
ライブ映えしそうなシンガロングを備えた新曲1.「僕らのうた」、メロウなジャズ/ソウル風の楽曲でつかの間の休息を歌う4.「WINNER」(アニメ『ブルーロック』ED)、暑苦しいファンクに乗せて実体験っぽいイライラを歌う9.「Oh No!!」など、キャッチーな楽曲がアルバムのポジティブな印象を作り上げるが、そんな中で大事な役割を果たすのが中盤の2曲。
マイナー調のメロディーを凝ったアレンジで仕上げた、どこか残響系の雰囲気がある8分の6拍子の5.「流転」(アニメ『最遊記 RELOAD』ED)がアルバムの印象を一旦グッと陰鬱に切り替え、6.「壊れた世界の秒針は」(アニメ『RE-MAIN』ED)がその陰鬱さを引き継いだイントロ~ヴァースで始まるも、ドラマチックな曲展開で大団円を迎えてアルバムを仕切り直す流れは、無関係なタイアップ2曲のメドレーとは思えない素晴らしさ。この曲は2:58あたりから入るファズとコーラス?がかかった至極シンプルなギターソロの使い方も素晴らしい。
仲村はアイドル声優的な側面があり無数のキャラソンを歌っている人物で、私も天道輝の楽曲はかなり聴いていたけれど、本作は「彼という歌手を最も使いこなせる作曲家は彼自身だろう」と確信させる一枚。

ユウレカ-AltX

yureka.bandcamp.com

徳島のノイズロック/インダストリアルロックバンド2nd。Deaf Touch Recordsからのリリース。
X(旧Twitter)で彼らのライブがバズっていたのを機に知ったが、54-71のようなスカスカのグルーヴ感やgoat(日野浩志郎)のような複雑なリズム構成を、よりによってShellacのような刺々しいサウンドでまとめ上げ、その上にスポークンワードとハードコア系スクリームを行き来するvoが乗るユニークなスタイル。
これでもかとシンコペーションを多用するリズムに半ばメタルパーカッションと化したノイズギターが絡む楽曲は、一聴すると「確かにユニークだが流石に難解過ぎる」と思わせられるが、どの楽曲も必ずドラムがシンコペーションをなるべく排除した、いわば「ノリ方の答え合わせ」のようなパートがあるのが面白い。
日本でアルビニ系ノイズギターサウンドの継承者というと個人的にはSPOILMANやTorrが思い浮かぶが、ここまで難解な形で仕上げたバンドは初めて知った。
voスタイルも「ややテンション低めにずっと激怒している」といった風情の威圧感がありグッド。

綿菓子かんろ - リサージュの風景 - Landscape of Lissajous

booth.pm

いわゆる「個人勢」Vtuberの1st。Alliaria Recordsからのリリース。作曲家Talich Helfenとのタッグでの制作。
vo、コーラス、正弦波のみで構成された作品で、多分ジャンル的にはアンビエントポップや歌もののエレクトロニカなどに分類されるもの。
とにかくひたすらに美しく、優しいメロディの絡み合いが心地よい。当初はリズムパートすら無い(アタックを強調してパーカッシブに鳴らされるベースくらいはあるけど)ことに面食らったが、聴き込んでいると、彼女のVoと変調した正弦波に「かすかなざらつきを伴っていながら透明な印象を与えるよく通る音」という共有点があることが見えてきて、本作の構成が本作の楽曲を演奏するうえで形成する「一体感」の最小構成単位であることが納得できるようになっている。この「最小構成単位」という点では弾き語りのフォークソングなんかとも共通点が見いだせて、一種の素朴さがあるところも味わい深い。
クライマックスはやはり聖歌的な神々しいボーカルハーモニーが印象的な6.「邂逅」から正弦波、Voともに開放感のあるメロディを優しく高らかに歌い上げる
7.「連奏」の流れ。
実は同年リリースした2ndアルバム「クヴェールと貼箱 - Couvert et Cartonnage」も年間ベスト級の素晴らしさで、本作とは全く異なったワールドミュージック、ミニマル、プログレのハイブリッドポップなのだが個人的に同一ミュージシャンから2作あげたくないので泣く泣く1stのみ選出。

選外作の良かった曲(順不同)

米津玄師 - さよーならまたいつか!(「LOST CORNER」収録)

www.youtube.com

すべてが完璧な日本語ポップス。この100億点の曲を超えてない曲ばかりという贅沢な理由で「LOST CORNER」は選外に。

綿菓子かんろ - シャッター(「クヴェールの貼箱」収録)

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本当は本作もベスト級。ライヒを引用したイントロから鮮やかにプログレポップに移行する多幸感に満ちた一曲。

Linkin Park - The Emtiness Machine(「From Zero」収録)

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新voの顔見世楽曲でありながら1番はMikeが歌って焦らす演出が憎い。あの頃の熱さを現代に蘇らせるオルタナメタル。

The Velvet Eclipse - Tripping Through Daisies(同名作収録)

thevelveteclipse.bandcamp.com

アメリカの日本語シューゲイザー。イントロから続く9mmが耽美化したような印象的ギターリフ、疾走感のある楽曲、叫ぶような女性Vo、低音質、すべてが最高。

Dos Monos - QUE GI(「Dos Atomos」収録)

www.youtube.com

曲はかっこいいもののギターの音作りがつまらなかった本作において、大友良英ターンテーブルノイズによる圧倒的に鋭いトラックで突出していた曲。

Bring Me The Horizon - Kool Aid(「POST HUMAN: NeX GEn」収録)

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ゼロ年代リバイバルと現代のトレンドが融合した本作においておそらく最もライブ映えしそうな楽曲。このクラップもコールも絶対にライブでやってみたい。

Wolf Creek - Alpha Comae Berenices(UNCIVILIZED GIRLS MEMORY /Wolf Creek「ANGELIC CONVERSATION(Split)」収録)

eneiongaku.bandcamp.com

多様なノイズ像を提示する本作において最もクールなハーシュノイズ。当初現れたメロディにWolf Creekの壮絶ハーシュノイズが完全勝利する実況録音。

9mm Parabellum Bullet - 叫び-The Freedom You Need-(「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」収録)

www.youtube.com

相変わらず高湿度でハイテンションな9mmの新譜から、最もラウドな楽曲のひとつ。インストパートがこれまでなかった雰囲気で、3:20あたりからはデスメタル的ですらある。

Morgan Garrett - Alive(「Purity」収録)

screamculture.bandcamp.com

ストパンクやスカムなブルースなどをインダストリアルロックのセンスで再構築したようなアルバムの1曲目で、ブッチギリで重くて怖い「Swansの存在しない曲のRemix」みたいなジャンクロック。

Coffins - Sinister Oath(同名作収録)

coffins.bandcamp.com

うねるリフと地を這うVoによる国産オールドスクールデスドゥーム。重いまま疾走するパートもかっこいい。

Warlord - Conquerors(「Free Spirit Soar」収録)

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2021年に死去したギタリストへの追悼作。クサくてドラマチックなギターがたまらないエピックメタル。

SEGUE-4 - 無態河(「LAYER:ASYL」収録)

segue-4.bandcamp.com

日本のインダストリアル/ゴシックユニットの新作から。BUCK-TICK平沢進ソフトバレエあたりを参照したような意欲作から、最もVoの素晴らしさが伝わる楽曲。

Dark Tranquillity - Unforgivable(「Endtime Signals」収録)

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ベテランメロデスの疾走曲。切れ味のよいイントロ~ヴァースで高揚したところにサビの切ないギターで完全にノックアウト。サビをアレンジしたギターソロも最高。

Viscera Infest - Teratoma(同名作収録)

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大分瞬速ゴアグラインド。常軌を逸したスコココココココココなブラストとデスグラインドなリフのせめぎあいがクール。下品を極めたVoも相変わらずの良さ。

The Messthetics and James Brandon Lewis - Emergence(「The Messthetics and James Brandon Lewis」収録)

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Fugaziメンバーを含むバンドとサックス奏者のコラボ。ポストパンク風サウンドとサックスが絡み合う、疾走感とグルーヴに満ちたインストジャズロック

 

旧譜

and more... - proof of existence

andmorehardcore.bandcamp.com

日本のハードコアパンクバンド2022年1st。
ユーモラスなノイズグラインドバンド・西之カオティックとのSplit発表、フライヤー表記をおちょくりたいとしか思えないバンド名などから、勝手にジョーク風味の強いバンドだと思っていたが、出音はこれがもう完全無欠のD-Beat(Dischargeみたいなハードコアパンク)。Disorder系ノイズコアっぽいジャギジャギしたギター、ドカドカとやかましいドラム&ベース、裏返る寸前の高音Voが楽曲の体感速度を引き上げる。

Cryptae - Capsule

sentientruin.bandcamp.com

オランダのアヴァンギャルドデスメタル2022年2nd。
実はリリース時に意味不明すぎてスルーしていた怪作。パンク的軽い音作りのギターが無調っぽいシンプルなリフを執拗に繰り返すコンパクトな楽曲が並ぶ。
当初は聴き方がわからなかったが、ミニマルテクノやポストパンク、インダストリアル等の無機質反復音楽の視点で聴くと凄まじく面白いことに気がついた。執拗なリフはエクストリームメタルのカタルシスを放棄し、単調さで不安感を煽るように作られているが、かろうじてデスメタルっぽい曲展開とドラミングによって強制的に「デスメタルだったこと」にされている。不協和音も多用されるが、いわゆる「不協和音デス」とも一切リンクしない。
1曲目のデスメタル版「あんたがたどこさ」みたいなリズムからして斬新すぎ。ドラムとリフのユニゾンでミニマル音楽とデスメタルの中間で暴れる4.「Billow」や8.「Sessile」、チープなエレクトロ系サウンドも加わり更に意味不明な5.「Salt」など聴きどころ多し。
アートワークの「何だこれは」感が音にも全開の怪作かつ快作。

Embody The Chaos - Awakening of Chaos

markmywordsrecords.bandcamp.com

日本・山形のメタルコア2017年1stミニ。
いわゆるミリタント/エッジメタルとも言われる、ニュースクールハードコアが根底にあるタイプのメタルコア。ハードコアリフに悲壮な旋律を仕込むHeaven Shall Burn系の楽曲に、Cancer Batsあたりにも近い高音スクリーチ主体のVoが乗る。HSBと違い、わかりやすくためて落とすブレイクダウンやコールパートを随所に用いており、「おっここからモッシュパートだな」と分かる感じがあくまでハードコアという感じがして楽しい。特に終盤2曲は4.「Conviction」がニュースクールHC系、5.「I Heard The Calls of Blood」は叙情メタルコア系とバンドが持つ二面性をうまく分担させていて良い。

fishbowl - 王国

王国

王国

  • fishbowl
  • J-Pop
  • ¥1833

music.apple.com

静岡を拠点に活動するアイドルグループの2023年2ndアルバム。
ディスコやファンク、エレクトロポップの楽曲が中心。特に前半の出来が凄まじい。
粘着質なファンクに熱いシンガロングを乗せる1.「開幕」から"ねっ?(パッパラッパ)"という洒落た歌詞でタイトルを回収するサウナ・ディスコ2.「熱波」へ続く流れが最高に盛り上がる。ファンクポップ4.「完食」、爽やかで切ないシスターフッド讃歌("君と僕は「今までなかった、よくある仲」になろうね/それでも説明できないとこにいこうね"あたりが個人的に好き)のレゲエチューン5.「茶切 cute side」、同曲と同じテーマをほの暗くリメイクして宇多田ヒカルっぽい歌メロを乗せたエキゾチックなEDM7.「茶切 dope side」と名曲揃い。後半は好みから外れるのだが爽やかな雰囲気は良いので前半の熱気を爽やかに冷まされるようでなかなか悪くない。
ジャケットがDeep Purple - Fireballのパロディなのは静岡が「サッカー王国」を自称しているかららしい。

Infernal Gates - From The Mist of Dark Waters

From the Mist of Dark Waters

From the Mist of Dark Waters

  • Infernal Gates
  • メタル
  • ¥1681

music.apple.com

スウェーデンのメロディックデス/ドゥームメタルバンド1997年唯一作。
英語圏メディアではデスドゥームと扱われることも多いようだが、実際の音楽性としては遅くて長いメロデス。Peaceville系ゴシックドゥームの雰囲気もなくはないが、最大の特徴はIn FlamesやAmorphisのように北欧の民族音楽の旋律をゆったりとしたメタルギターに落とし込むセンス。1曲目の三拍子スローメロデスがハマる人ならおすすめできる。バンドは25年前に解散、メンバー全員が音楽活動停止しておりCDはプレミア化。ロシアで海賊盤的リイシューがされているが、サブスクで普通に聴ける。

Isole - Anesidora

isolehhr.bandcamp.com

スウェーデンのエピックドゥームメタルバンド2023年8th。
これまでと変わらずCandlemassをゴシックに大きく傾けたようなクリーンボーカル主体のドゥームメタルをやっているが、今までよりかなり洗練されてB級っぽさが完全に抜けた印象。ドゥームメタルなのでもちろん暗くて重いのだが、スラッジドゥームやデスメタル的に聴こえるような荒々しい要素を徹底排除し、印象としてとにかく上品。旧作ではときに平板な印象があったVoも、メタル的抑揚を排した丁寧で優しく、それでいて朗々とした歌唱でアルバムの雰囲気にマッチしている。個人的キラーチューンはドラマチックなリフと美しくどこか爽やかであるvoが印象的な1.「The Songs of The Whales」と、作中最もヘヴィでグロウルとのツインボーカルと壮大なサビが素晴らしい5.「In Abundance」あたり。

Liiek - Deep Pore

liiek.bandcamp.com

ドイツのポストパンクバンド2022年2nd。
シニカルで中毒性のあるリフ、淡々としたリズムセクションGang of Fourを彷彿とさせるスタイルで、Voがむやみやたらに情熱を込めてヘロヘロと叫んでいるのも良い。その妙な熱さのせいで、2.「Object」等、一部楽曲で初期Black Flagを想起させる瞬間もあるのが個性的。パーカッションを導入して最近のトリプルファイヤーっぽさもある3.「Constructed」、各曲にちょっとしたひねりが効いていて楽しく聴ける。2020年のセルフタイトルもおすすめ。

Morbid Stench - The Rotting Ways of Doom

morbidskull.bandcamp.com

エルサルバドル/コスタリカデスメタルバンド2022年2nd。
音楽性としては根底にオールドスクールデスメタルがあるタイプのどろどろとしたデスドゥーム。特徴的なのは陰鬱さをまとったまま大量に導入されるフューネラルドゥームっぽいメロディアスなギターで、どの曲も6~8分と長めだがダレずに聴ける。それでいて低域で刻むデスメタルらしいリフと邪悪なグロウルボーカルが通底しているので弱さもない。3.「Ekleipis」では数少ないファストパートが聴けるが、荘厳なリフで爆走するかっこいいデスメタルになっている。7分半ずっと絶望的な空気が支配する5.「Iconoclast Reverberations」は格別の重さ。
あまり詳しいシーンではなけどここ数年のデスドゥームの中でも目を見張る快作ではないか。
ちなみにこの作品は「米沢エクストリーム*2」の物販でAnatomia/田中商店の田中氏に「最近だとTransgressorの新作とか良かったんですけどおすすめありますか」と聴いてレコメンドしていただいたもの。マニアにおすすめしてもらうマイナーデスメタルが一番いい!

Mortual - Evil Incarnation

mortualofficial.bandcamp.com

コスタリカデスメタルバンド2023年2ndEP。
オールドスクールデスメタルを追求する、いわゆるリバイバル勢の新星。リバイバル勢らしくタイトな演奏と聴きやすい音作りでありながら、モダンなメロディやグルーヴを注意深く避けた楽曲とくぐもったロウなVoがアングラ感を担う。
一曲目は昔のCannibal Corpseっぽいうねるリフから始まるが、全体的にはSadistic Intent的な腐敗臭を湛えたまま高速で展開。ちょっとしたリズムのひねりが単なる先人の模倣からは一線を画している。遠目で見るとなんとなくNecrot新作っぽいアートワークも含め、これぞ現代のOSDMという感じでかなりおすすめ。

Nashgul - Oprobio

nashgul.bandcamp.com

スペインのグラインドコア・バンド2023年3rd。
あまりコメントすることがないくらいド直球の超かっこいいグラインドコア。メタル度も低めでリフもほぼハードコア系。Rotten Soundや324、最近のバンドで言うSickrecyとかが好きな人に大推薦。

Nirriti -অসূর্যস্পর্শা(Asuryasparsha)

nirriti.bandcamp.com

インドのブラックメタルバンド2020年デビューEP。
インドの祭祀と思しき不穏なサンプリングSEを時折挟みながらグシャグシャの音質、高速ブラストビートが延々と続き音の塊と化したいわゆるノイズブラックメタルスタイルの楽曲が延々と続く。voもリバーブのかかった喚き声が遥か彼方から、グロウルがやや近くから聴こえるツインボーカルだが掛け合いにもユニゾンにも聞こえずただ騒音の補助をするのみ。ブラックメタルっぽいギターは聴こえるが音が潰れすぎてメロディは聞こえるような聞こえないような塩梅。ただ壮絶で不気味な何かが駆け抜ける20分がかっこいい。ラスト数分のSEの使い方も不気味で良い。

Purified in Blood - Reaper of Souls

Reaper of Souls

Reaper of Souls

  • Purified in Blood
  • メタル
  • ¥1935

music.apple.com

ノルウェーメタルコア/メロディックデスメタルバンド2006年1st。ハードコアの、それもストレートエッジ界隈を出自としているバンドだが、本作はRunning WildやIron Maidenのような直線的バンドロゴや死神ジャケからもわかるようにほぼメタル。スラッシーまたはアップテンポな楽曲、メロディアスなリフ、高低デスボイスツインボーカルで、ハードコアっぽいパートも含むメロデスと言った趣。楽曲の質は高く、正直Darkest HourやUnearthあたりの傑作群と同列で語られていいバンドのように思える。
なお2025年に新作を出す予定だが、そちらは歪みの少ないギターでMastodonっぽい雰囲気を導入したり、ゲストボーカルによる喉歌が使われたりと、メロデスとかメタルコアと言うよりなんだか10年代以降のプログレメタルっぽい雰囲気。

Rapture - Malevolent Demise Incarnation

fda-records.bandcamp.com

ギリシャデスメタルバンド2021年3rd。
Deathや初期Pestilence等に代表される、スラッシュメタルからの正統進化のさなかにあったタイプのデスメタルをプレイ。アルバム全体がスラッシュメタル由来の凄まじいスピード感に満ちているが、その上でデスメタルらしいヘヴィネスと複雑なリズムチェンジもあるので、Malevolent Creation的な雰囲気もあるというバランスが良い。6.「Birthrape...」や7.「Herald of Defiance」あたりは90年代のプログレッシヴ/テクニカルスラッシュの香りもする複雑なリフが出てきてひねりが効いている。
今年Obliteration Recordsから再発された2018年2ndも素晴らしい出来で必聴。

Rêvasseur - Talisman

revasseur.bandcamp.com

ベトナムに赴任したGt福田悟司(日本ではFrostvoreのメンバーとして活動)が現地ミュージシャンと結成したメロディックデスメタルバンド2023年1st。
クリーンボーカルなし、基本的にはヘヴィでところどころの流麗なリードギターで魅せるタイプの硬派なメロデスIn Flames - Whoracleあたりの路線を洗練させた感じで、爽快感も抒情性も高い。2.5.7.9曲目あたりが好み。福田氏は日本のDoom Metal系レーベルDoom Fujiyamaをベトナムに招聘するなど、日越のメタル隆盛に尽力されているようで凄い。

Reversal of Man - This is Medicine

reversalofman.bandcamp.com

アメリカのスクリーモ/エモヴァイオレンスバンド1999年唯一作。
界隈ではOrchid、Combatwoundedveteranなどと並んで伝説的な扱いらしい。
速い、速い、超メロディアス、絶叫一辺倒と、「スクリーモ(Skramz)/グラインドコア/パワーヴァイオレンスの融合」と聴いて思い浮かぶそのままの音が出てくる。メタルとの直接的関連性は見られないが、エモ的なギターのかき鳴らしをグラインドコアの速度でやって絶叫を乗せると必然的にブラックメタルの雰囲気を帯びるのが個人的には興味深く、City of Caterpillarやenvy、heaven in her armsみたいなポストロックっぽいスクリーモ、ConvergeやCave inみたいなカオティック系メタルコア、Coholみたいな直接的ブラックメタルハードコアと並べて収斂進化的なものの見方もできるのかなと思った(またエモがオルタナロックと関連性が深いことを踏まえるならブラックゲイズも加えて良いかも)。
Touché Amoréのメンバーがフェイバリットに挙げている*3のもわかる、オリジネイターであることを抜きにしても理想像的アルバム。

Sissy Spacek - Sissy Spacek

sissyspacek.bandcamp.com

アメリカのノイズ/ノイズグラインドバンド2001年EP。
広義のノイズグラインドに該当することであれば大抵なんでもやっているこのバンドだが、極初期のリリースである本作はカットアップハーシュの手法でハーシュノイズ、グラインドコア、サンプリングをごちゃ混ぜにしたスタイル。
目まぐるしく切り替わるノイズは痛快の極みなのだが、単に目まぐるしいだけでなくパワーバイオレンス的ストップ&ゴーのセンス、不良品のCDのようないびつなループを適材適所に配置してキャッチーさも生み出すなど、すでにベテランの貫禄がある。
リリースごとに全く音楽性が変わるバンドだが、ハーシュノイズやノイズグラインドファンなら最初に聴くべきはこれ。

The Stools - R U Saved?

thestoolsdetroit.bandcamp.com

アメリカのガレージロック/パンクロックバンドの2023年1st。
キャッチフレーズの「Nuggets(有名なガレージロックコンピ) Vs. Killed by Death(有名なパンクロックコンピ)」ですべての説明がついてしまう、Stoogesやギターウルフ系のサウンドをハードアパンクの攻撃性を加えて勢い良くプレイするスタイルの超ガサツなロック。
元気で荒くて最高!以外にあまり言うことはない。バンドの個性としては、Voの歌声が本当にものすごく汚い。MotÖrheadオマージュなのかもしれない。

Tales of Murder and Dust - Fragile Absolutes

talesofmurderanddust.bandcamp.com

デンマークのゴシック/ポストロックバンド2020年3rd。
クリーントーンのギターが陰鬱なリフを爪弾き、ときにシンセかストリングスのドローンが加わり、ドラムは音数とベロシティを抑えて淡々と叩き、Voはゴシック/ニューウェーブ系の低音というどこを切り取っても寒々しく陰鬱な音像。氷か水面に写った曇天というアルバムアートワークはピッタリ。
スネア/バスドラ/ハイハットが同時に使用されるような、ロック/パンクらしいビートを形成することは稀で、ゴシックロック大御所やニューウェーブが持つ一種のダンサブルさとは無縁。アンビエントやフューネラルドゥームを聴く気持ちでいたほうが楽しめる。バンドはDarkwave/Post-Punkと称しているけど一般的な感覚ではポストロックが一番近いと思われる。
かなり大きな括りで「雰囲気モノ」が好きなら楽しめると勧めたい作品だが、自分が雪国在住で、この選評を冬に書いているということがバイアスになっている可能性もありそう。

Toxic Piss - Toxic Piss

toxicpiss1.bandcamp.com

スウェーデンハードコアパンクバンド2020年EP。
「毒しょんべん」という最悪のバンド名、それを体現するフィジカルが欲しくなくなるアートワークとは裏腹に、音楽性は超真面目なハードコアパンク。ヒステリックと言っていいくらい勢いが凄まじく、最速曲2.「Autopilot」はブラストビート主体でほぼグラインドコア。切れ味よく歪みきったVoの声質もかなりよく、スラッシュメタルを歌ってほしいタイプ。

Wildfire - Summer Lightning

Summer Lightning

Summer Lightning

  • Wildfire
  • Metal
  • USD 9.99

music.apple.com

イギリスのヘヴィメタルバンド1984年2nd(最終作)。
NWOBHMムーブメント末期の短命バンド。Voはデモテープも出していない極初期のIron MaidenのメンバーだったPaul Mario Day。
音楽性としては、Praying Mantis系の哀愁と爽やかさが同居したド直球のHR/HMに、当時のラジオヒットも視野に入れてか80年代売れ線HRっぽいポップさを加えたもの。当時ヒットを試みたメタル作品は今聞くと失笑ものなことも多いが、本作はメロディのセンスが良いのでむしろかなりハマっている。Earthshaker「Radio Magic」みたいで愛嬌がある3.「Summer Lightning」、当時のメジャーバンドに引けを取らないメロハー6.「Nothing Lasts Forever」など。
ポップさを志向しない曲の出来も素晴らしく、激熱スピードメタル2.「The Key」、Manowar的硬派なリフにパワー・メタル系の歌メロ、最後に炸裂するギターソロが完璧な11.「Screaming in The Night」が特に良い。

 

まとめ

俯瞰するとデスメタルやや多めか。私生活がバタバタしてスルーした音源も多かった。
様々な音楽の特徴を一歩引いて捉えることで、自分がどんな音楽をどんな要素でもって好いているのか仮説を立て、理屈上好き/嫌いになるはずの音源を聴いて検証する……みたいな遊びを通じて、自分の趣味趣向が以前より少し明確になった一年のように感じる。
今年もメタルを中心にいろんな作品を聴こうと思います。

番外(自分の2024年音楽活動)

nekram0nsee.bandcamp.com

16.「欲望の樹」でVo。Johan Liiva風に感情的に喚いたりマキシマムザホルモンのダイスケはん的にリズミカルな早口をやったりと頑張った。

ugogg.bandcamp.com

「アカペラのノイズグラインド」の可能性を模索すべくデモ音源作成。Napalm DeathMr.BigヤンデレCD等のカバー収録。

ハーシュノイズソロで数年ぶりにライブ出演。

2024年9月下旬~2024年末の日記

家について

前の日記でも書いたけど家を買い、10月上旬から住み始めている。と言っても、しばらくは生活空間のビルド、その後は自分の部屋のビルドにいそしんでいたので、完全にくつろげる空間になったのは11月辺りからのことだったように思う。
水回りやフローリングはリフォームされているものの、旧耐震基準の築古なのでいろいろなところが時代なりのようである。現時点でもいろいろと改善点が見つかっており、瑕疵担保責任無双といったところなのだが、不思議と不満感はほとんどない。賃貸の「貸主が整えたものを金を払って借り、契約の範囲内で維持改善する」というところから、良くも悪くもすべてが自分の意志と体とカネの問題になるという、明朗で広大な状態に飛び込んだ高揚感ゆえだろうか。
あと、そういった機能面とは違った部分で、先住者がこの家に持っていた愛着や、しみったれた暮らしの痕跡を感じるのが愛らしい。丁寧に保持された大黒柱の美しさと、DIYのガッタガタな物置が同じ敷地内に存在するちぐはぐさが嬉しい。
とりあえず次年度の補助金を調べて、耐震検査とか内窓の設置とかやりたいなあという気持ち。あと近々でやりたいことは自室の押し入れを防音室化すること。中段をぶっ壊すところまではやったけど、壁も床も薄めなので、防音施工も強度的な補強もかなり手を入れなければいけない気がする。大変そうだが持ち家の特権なのでなんとかやり抜きたい。庭も手を入れたかったが、家の中をいろいろやっているうちに冬になってしまったので雪解けまで我慢。

 

C.P.A.P.

いろいろ気になることがあり検査を受けたところ、中度の睡眠時無呼吸症候群が発覚。手術の選択肢もあるようだがとりあえずCPAPの使用を開始。初日は寝不足だったがつけてみれば案外違和感のないものである。寝苦しさはほとんどなく、寝起きも良くなった。たまに寝ながら外しているようだが、一日4時間程度つけていれば効果があるらしいので多少は許容範囲だろう。
これまで、7時間以上寝ると一日中頭痛に悩まされるのは当然だと思っていた。酒なんか飲まなくてもある程度しっかり寝ると、コーヒーでもバファリンでも打ち消せない程度の頭痛がするものなのだろうと。ただ今回の検査の結果で「単に寝れば寝るほど無呼吸=酸欠の時間が比例していただけ」ということがわかり衝撃を受けた。現にCPAP開始以降は寝すぎの頭痛というものはすっかりなくなった。飲み会翌日のコンディションも明らかに良く、二日酔いは激減。今まで飲み過ぎだと思っていたもののうちいくつかは、実質的に単なる寝不足と酸欠だったのだ。
私は私の肉体しか経験したことが無く、驚きや疑問の伴わない経験則は語ることもない。こうして自分の肉体の異常な当然を知らないまま引き受けているんだなあとちょっと怖くなった。昔のオモコロ記事にあった「妻にキンタマ掴まれて初めて精巣ガンが発覚した」というエピソードと若干相似関係にある感覚。

www.youtube.com

CPAP使うようになってから、この動画が本当に面白い。本当にこうなるので。

 

ライブ

leave them all behind 2024(11/10)

行ってきました。目玉はEarthのEarth2再現セット。以下簡単な感想。
会場…代官山UNITは初めて行ったけど、フロアが程々のサイズ感でいい感じ。物販/ロッカーあたりがすし詰めで息苦しかったけど。会場BGMはノイズ混じりのアシッド・フォーク。おそらくアルバムかEPを丸ごとループ再生していた。
SLUG…初めてみた。日本の匿名ハードコアバンド。ステージを暗転させて、ほとんど姿が見えない状態でのパフォーマンス。音源ではスラッジ・メタル+ビートダウンに程よくノイズをぶち込んだ、いわば初期Corruptedをアップデートしたようなスタイルだったけど、ライブはハーシュノイズっぽさすら感じる飽和した轟音の中から重心低めのメタリックハードコアサウンドが響いてくる怖いパフォーマンス。息苦しいサウンドだからこそ、ごくごく一部挟まれるわかりやすいビートダウンや疾走パートのカタルシスが凄い。Primitive manとかに近いメタル系の迫力があってよかった。
ENDON…初めてみた。日本のノイズユニット。かつてはハードコアバンドっぽい編成だった気がするけど、ノイズ担当の那倉氏急逝、活動休止を経て今回はノイズ2名、ボーカル1名の体制になっていた。激しく明滅するVJと、インダストリアルとノイズが混ざりあった音楽性だった。特にノイズ的側面については、うっすらとしたメロディを裏側に感じる――シューゲイザーのような「メロディが轟音と化すことで自身の輪郭を曖昧にする」のではなく、轟音メロディの上を別個の超轟音ノイズが塗りつぶすような――サウンドが印象的。正直素っ頓狂なボーカルスタイルが苦手すぎてこれまで敬遠してたんだけど、ノイズならではの音の自由さと過激さ、モダンなハードコアっぽい旋律とカタルシスが融合したスタイルがかなり好みだった。
Merzbow見るのは3度目くらい。日本のハーシュノイズソロ。とても耳栓なしではいられない轟音ノイズ一本勝負。MerzbowといえばPC一本のリズミックノイズだったりギター弦を張ったフィルム缶を使ったアナログスタイルだったりのイメージがあったけど今回はその折衷。アナログなかすかに揺らぐハーシュノイズと、グリッチやサンプリングによる周期性を感じるデジタルなノイズを切り替え、ときに重ね合わせるスタイルがかなり楽しかった。このスタイルのときのMerzbowは音源よりライブのほうが良い。音源の音圧だとこのスタイルはどこか中途半端に感じられる。
Earth…初めてみた。ドローンメタルの元祖にして頂点であるEarth2(今をときめくSunnO)))だって当初は劣化Earthだったわけだし)完全再現セットと銘打っているものの、音源がDylan(gt)とDave(ba)の編成(一応アルバム70分中後半30分はゲストのドラムがごく僅かに入るが)に対して今回はDylan、Bill(ba)、Adrienne(dr)というドラムありのトリオ編成。純粋な完全再現にはならないはずだがどうするのか……と思っていたら、基本的な曲構成はそのまま、ドラムを適宜挟むアレンジでプレイ。個人的に思い入れの深いアルバムということもあり、ドローンノイズを経て始まった「Seven Angels」のあのリフが鳴った瞬間に涙が出た。ドラムのアレンジも個人的には正解で、多くのパートでは効果音的に使いつつ、メタルらしいリフが出る部分のみわかりやすいビートでヘッドバンギングを誘発する。音作りも轟音ではあるものの音源とのつながりを感じる、ファズやアンプの歪を活かしたどこか温かみのあるもの。意外だったのが視覚的な楽しさがあること。ドラムセットの背後に持ち込まれた巨大な銅鑼、Dylanのギターヒーロー的な"魅せる"プレイ、Dylanがボディランゲージや指による指示でバンドアンサンブルを変化させる、John ZornCobraのようなゲーム性も感じさせるステージに釘付け。そのバンドらしさが次第に崩壊し、最終曲「Like Gold and Faceted」は各々が自身の放出するフィードバックノイズのみに向き合うような時間が延々と続きこちらも恍惚状態。いまのEarthはフォークやブルースをドローンメタルバンドのセンスで演奏するかのような音楽性なので、今のEarthでど真ん中のドローンメタルパフォーマンスが聴けたのは貴重な体験だったと思う。
素晴らしく良いイベントでした。立ちっぱなしで「乗る」という概念からは距離のあるノイズ系が数時間だったので足はへとへとだったけど。

 

美術館

森美術館「ルイーズ・ブルジョワ展:地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ」

上記ライブのついでに行った。森美術館初めて行ったんだけど予約とか入場のシステムクソだるいっすね。
正直森タワーのクモの作者だということすら知らずに行った。
いわゆるフェミニズムアートの文脈であろう作品が多かったけれど、社会問題というよりかはそういった社会、家庭にいる自分という個人的、内省的な側面に重きをおいたものが大半で、家庭環境への割り切れない愛憎、主体/客体それぞれの自己分析、年月を経ての昇華が見える作品群だった。負の側面を象徴する中盤までの作品群は直接的なエログロ表現が強烈なものと精神的抑圧を分析し作品に昇華したものが連続しとにかくメンタルを削られる。特に衝撃的だったのは「罪人2番」と第されたオブジェ。写真で伝わるかわからないが実際に見るとあまりの圧迫感とすべての構成要素が抑圧的であることで気分が悪くなる。自身の健全な育成が阻害されてきたという実感をそのまま反映したように感じた。

そういう流れを経てからだと、この屋外のアレのアレンジみたいなクモのオブジェも感動的に見えるのだから文脈って大事だ。

自分にそういったトラウマがないからこそにある程度俯瞰して楽しめたという側面はあり、ふとした瞬間に一種の加害者的居心地の悪さも感じた。自身の父を通じて父権を取り上げた作品や、旧来的女性蔑視の醜悪さを発見させる作品も複数あったし。タイトルに有る「地獄から~」も彼女の作品の変遷を見ると重い。

その日の出来事。

 

音楽

年間ベスト記事書いてるンゴねえ 冬リリースの作品群もしっかり聞き込みたいので年明けてから公開予定。

bandcampにデモ音源アップロードしました。マイクをジャズコに繋いでいろんな声で大騒ぎしただけの、アイデアのプロトタイプ。

 

終わり

良いお年を。

2024年2月下旬~2024年9月中旬の日記

お知らせ

nekram0nsee.bandcamp.com

「欲望の樹」のメインボーカル&一部作詞で参加しています。ところどころ我ながら凄まじい絶叫をしているので聴かれたし。

 

近況報告

ノイズミュージシャンとしてライブ出たり、アイマスのライブに行った。

ugogg.hatenablog.jp

ugogg.hatenablog.jp

 

家買った。来月には引っ越す。築約45年の中古戸建。いわゆる旧耐震物件だし窓もほとんどが単板ガラスアルミサッシなので中長期的には耐震&遮熱リフォームが必須なんだけど全居住者のツボを抑えたリフォーム、第三者評価で雨漏りとシロアリ被害が一切見られなかったこと、ちょっとした部分に「古いいい家」ならではの要素が多く愛着が持てそうなこと、ハザードマップ的にかなりOKなこと、学校、スーパー、コンビニ、郵便局、銀行、飲食店、避難所指定の公共施設などがすべてギリギリ徒歩圏内にあること、数百年前からの水路や神社が残っていることから天変地異を耐え抜いてきた&文化的に人を超えたものと共存してきた集落とわかることも大きい。それでいて中心街からかなり離れてることもありユニットバス等リフォーム済みで1,○00万で、リフォーム用の貯蓄を考えても賃貸よりだんぜん安い。
人生で中古の軽自動車より高い買い物をしたことがないので不安は大きいけど楽しみな気持ちもそれ以上に大きい。あと人生で初めて生活空間から隔絶された自分の部屋を持つ。今まで自分のデスクは実家では兄弟部屋、一人暮らし以降は常にリビングにあったので。

 

メシ

アイマスライブのついでに行った幕張本郷のサンク・オ・ピエがめちゃくちゃ美味かった。

料理ごとに頼めるワインをすべて指定している=酒の種類を選べず、飲むか飲まないかしか選べないという一見偏屈な店なのだが、「料理オタク」という感じのオーナーが愛着たっぷりに語る激ウマ料理とさすが指定するだけある極上ペアリングのワインがすごく合う。特にフォラグラソテー&新たまポタージュはフォアグラの外カリカリ中とろとろの焼き加減とポタージュの香ばしさがすごい。量もかなり多く、この手のコース料理で味による満腹感とは別に量による満腹も追求しているのは面白い。たしか酒込みでも一人10,000円に収まったはず。雰囲気も気取らないカフェみたいで良い。オーナーが「美味しい」ではなく「美味い」と言うところにも店の雰囲気が現れていた。おすすめ。

 

ハンターハンター

ノリで全巻買った。おもしれ~。幻影旅団って「虚構船団みたいな名前だな~」としか思ってなかったけどかなり魅力的だしチー付与半グレ編の明確な元ネタだ。
念バトルや念があるからこその心理戦(政治含め)も面白いけど、そういう状況に放り込まれた人間を奥深く描くヒューマニズムの魅力も大きい。特にキルア周りはキメラアント編のパームを前に弱音が止まらないシーンとかゴンへの感情とかアルカ/ナニカ編とか妙に濃い。あと好きなのが王位継承戦のオイト妃。モモゼ王妃死後の「腹違いの娘を見殺しにしなかった事がよっぽど奇妙に映るのね よくわかりました あなた方と話す事はありません」周辺の流れは感情や生活を置き去りに能力バトルに身を投じる人々の異常性を浮かび上がらせて能力(異能に限らず)偏重で進む物語/キャラ/読者に冷水をぶっかけるすごいシーンだと思う。

永井均『転校生とブラックジャック 独在性をめぐるセミナー』(岩波現代文庫

図書館で借りて読んだ。著者がTwitterで飛ばして良いと言った箇所は飛ばして。
う~~~~~~~ん難しい!!!永井哲学の根幹にあるとされる「独在性」に関する問題意識の端緒はつかめた気がしないでもないけど……有り体に言ってしまえば考え方の糸口が見えなさすぎて著者の問題設定が誤っているのではないか?という気すらしてしまう。私が問題意識に共感できていないだけなのかも。「私が私であるということ」
ただ本書は架空の哲学ゼミの議論を書き起こしたような形式を取っており、著者の脳内にある全思考が吐き出されているような凄みがあるのも確か。文中にもあった表現な気がするけど、本書は答えを出すつもりはサラサラなく、ひたすら独在性に関する議論を様々な切り口からやっている。
折に触れて再読すると色々見えそうだけどもう返却しちゃったのが惜しい。買っちゃおうかな。ただここまで一貫したテーマに停滞する濃い本を何度も読む体力がない。

東浩紀『訂正する力』(朝日新書

著者の本をちゃんと読むのはおそらく初めて。同様のテーマを扱ったハードカバー『訂正可能性の哲学』というのもあるらしいが、AIに付いてなど明らかに「本来色々書いてあったであろう章を削りました」という箇所が散見されるので、書き下ろしとは言うものの実態としては『哲学』をダイジェスト的にリライト+新書ということで実践編を追加という位置づけだろう。
いい話をしているとは思ったけど、問題提起としても実践編としても不満が残る。というのも、ここで著者が提唱する「訂正」の概念――過去の誤りを正すだけでなく、大きな文脈に沿って「実はこうだった」という再解釈によって失敗を次に活かしたりときに再登場させたりするという、良くも悪くもしたたかな脱構築を各々が実践すること――があまりに当たり前のもの過ぎるから。それができない人が死ぬほど多いのは現実社会でもSNSでも明らかではあるけれど、少なくともこのタイトルに幾ばくかの共感や関心を持って手に取る人にとっては全くもって今更の話ではないか。開かれた本のようにはあまり思えない。
SNSとか保守リベラルの話はシンプルにあまりよろしくなく、著者自身のタイムラインの話という印象が強い。要するに、しょうもないネトウヨはブロックできていて建設的な穏健右派は見えているが、しょうもないリベサヨはブロックしていないので穏健左派が埋もれている、という状況が反映されているだけのように見える(ここでいう"しょうもない"は規模的に木ッ端アカウントという意味ではなく有名無名問わず主張そのもののカスさを指す)。脱構築の実践を掲げている本書のなかで、ここの雑にデフォルメされた二項対立は悪目立ちする。著者自身も「企画が立ち上がった2年前はもっとリベラルが強そうに見えた」*1と本書の内容についてまさに「訂正」を実践している(それは素直に良いことだ)が、あそこまでネットに長年触れていればそこら辺の勢力図が水物に過ぎないことは百も承知だっただろう。たとえば、本書企画時よりさらに数年遡れば、SEALDsのあたりはリベラル隆盛と見る声とエコーチェンバー集団と軽視する2極化が強かったことは記憶に新しいし、そこからさらにちょっとだけ遡れば、日韓W杯以降のネトウヨ的思想がまだまだポピュラーだったことを示す「さくら荘サムゲタン改変騒動」もあった。
日本人の気風の話と結びつけるのも個人的にはあんまり。著者はコロナ禍で開き直ったオンオフを見せた欧米諸国の対応にも触れ現代日本に「訂正」し辛い土壌があることを指摘しているが、ドナルド・トランプ周りとかで諸外国も「訂正」しない強さを誇示する勢力が強いから正直民族性でくくれる話じゃないだろうという違和感がある。
第3章の自身の体験談に基づいた実践編も、個人の内心としては参考になる人も多かろうという感じなのだが、アルファSNSアカウント&ホワイトカラーの人という印象が拭えない。普通に生きていれば信者が集まらない、喧騒の集団こそ自然に形成されるものだと思うが。そこにアメリカ文化や柳田國男といった論理の補強が必要なほど提起的な話をしているようには思えない。ここでいう「集団」ってオンラインサロンとSNS相互フォロー欄の話ばっかりしてませんか?という気持ちになる。町内会に出ろ。
保守にもリベラルにも釘を刺しつつ当時の時制を踏まえリベラルを強めに殴るバランス感覚が保たれていた本書だが、最終の社会的実践に触れると一気に保守に偏るのが残念。「自然の作為」「つぎつぎになりゆくいきおひ」を引き合いに出して、生じた変化を踏まえて過去や現状を「訂正」ししれっと良くなっていく、しれっと平和になる世界の在りようを提唱しているけど、ここでベクトルの修正=未来ビジョンの更新を訴える動きがなければ間違いなく現状の追認と適時修正を経た延長線にしか社会は推移しないのだから、この主張は極度に保守的だ。社会をぶっ壊さずに良くするために「訂正する力」が必要なのは著者に同意するとして、社会を良くするためには現状のベクトルからずれた理想論をぶち上げることも同時に必要なはずだ(かつての日本に戻ろうという主義でない限り)。保守リベラル問わずに絶えず「過去の訂正」を行う重要性はもちろんとして、そのベクトルの修正のために絶えず未来ビジョンを掲げ、それに対する「未来の訂正」が行われなければならないはずだ。著者の主張は現状と過去の訂正/追認に比重を置きすぎている、というか、未来からのバックキャスト思考が欠如している。未来ビジョンを掲げつつ、旧来の革新派/急進派の革命的行動ではなく理想の未来に漸近していく……そういった動きなくして現状の社会ベクトルに苦しむ人間にとって社会の改善は難しいのではないか。「現行憲法では無理筋な同性婚」「明治憲法では不可能な女性参政権」「当時の使用率では夢物語だったアスベスト全規制」など、初動での達成が不可能かつ現社会に全く適合しない目標を掲げ、そこに数年~数十年かけて漸近していく営みが日本を少しずつマシにしてきたのではなかったか。この章はどうもTwitterの過激リベラルに当てつけで書いたようなバランス欠如感がある。
ここまでの雰囲気で誤解されそうなので改めていうと本書の「訂正する力が大事」という大枠の主張には賛成である。「ちょっと考えれば言われんでもわかるわい/言われずとも結構な人がもうやっとるわい」というのは差し置いて大事な生き方の話をしているしリベラルのキラキラした理想主義にも保守の歴史修正まで持ち出す頑固さにも釘を差すバランス感覚も大事だと思う(最後に崩壊するが)。ただ「著者はそう思うんだなあ」以上の学びを得られず、「東浩紀研究」をするのならかなりわかりやすく彼のステートメントが発信されている本なのでいいと思うけど、私は人を研究することに一切興味がないのでなんとも言えない本だった。あとは議論するときの題材にするのとかにも良いのかな。
「なんかな~……」という気持ちでずっと読んでいたのであまり書かれた主張に入り込めておらず、他の人の意見も読んでみたいんだけどSNSだとリベラル層による東批判、ゲンロン界隈を知る人や人文界隈によって"観光客"などにも触れながら東の思想体系全体を読みとかんとする東読解が多くて本書単体で逐条的に取り上げたような話が読めなくて悩ましい。東浩紀も私もSNSからもっと離れた方が良い。

村上春樹パン屋再襲撃』(文春文庫)

思春期に何かを読んで培われた村上春樹アレルギーを克服すべくブックオフで安くて短編集だった本作を手に取り挑戦。結果としては微妙だったけど表題作とかは面白かった。
大きなポイントとして、迂遠な表現と固有名詞を挿入したがる文章のクセが邪魔すぎるのと、自身の主観や人生が世界/社会と直結しているような視点があまりに馴染めなかった。特に「双子と沈んだ大陸」はすごい。自分のもやもやを世界であるかのように語ってあと性の描写があって終わる。「時間が立つと色々変わっちゃうなァ」という話と性欲の話だけでこれが書けるのはすごいといえばすごいが。ただそういうナルシシズムが支配する作風だからこそ、見るからにカスな男の心が「俺の世界」の外にいる男を通じてどこか空回りしているような印象を受ける「ファミリー・アフェア」はいい意味で異質だ。
表題作はかなりわかりやすく面白かった。タイトルとか妻がなぜか銃を持っているシュールさも面白いけど、構図として貧乏学生のパン屋襲撃という資本主義への反抗が「ワーグナー布教と引き換えにパンをもらう」という、資本主義ではない文化的やり取りだが強盗はできていない、という形で終わって"呪い"になってしまい、定職とパートナーと都市部の住まいを得た今"呪い"を解こうとしても妻(個人の成功)&深夜も空いてるマクドナルド(資本主義社会の成功)という純粋な「再襲撃」ではない形に予定調和的に収束して今の安定したポジションを再確認するにとどまってしまうもどかしさは、おそらく学生運動の後味の悪さを踏まえたものだろうと言う気がする。乱暴な言い方をすればワーグナーといえばナチスという部分もあるしそういう政治的なメタファーがあるは確実だろう。学生運動世代ではないマックのカップルが全然起きないのも明らかに対比だし。海底火山のイメージが食欲とも"呪い"とも取れるさらりとした描写もクールだ。ただこういうシュールな要素を組み合わせて変な話と思索を接続する試みはやっぱり坂口安吾のほうがすきだなあ。

 

ライブレポ

米沢エクストリーム @ライブバーヤスクニ

山形県米沢市矢沢永吉ファンが営むロックバーで開催されたエクストリームメタルイベント。山形にここまでエクストリームメタルファンがいたのかという客入りでとても盛り上がった。初めてライブを見たAnatomiaは極度な遅さで窒息しそうなまでのデスドゥームで感動。カルマ納骨堂も名前だけは知っていたが、サイケmeetsドゥームサウンドにノイズと化した超絶ガテラルボーカルが乗る音楽性がめっちゃクール。久しぶりに見たリトバスも「ただただハードコア・パンクを速くしたらグラインドコアになった」としか言いようのない痛快さが見事。

Experience the brutality that starts here Vol.1 at 酒田HOPE

酒田市のハードコア系イベントにも行った。ビートダウン、メタルコア、ニュースクール、激情系、ハードコアパンクドゥームメタルなど多様なメンツで絶えずモッシュ。名前だけ聞き及んでいた山形市のEmbody The ChaosがPurified in Bloodというかフッ軽のHeaven Shall Burnといった感じのエッジメタル/メタルコアサウンドが超かっこよかった。
あと会場の酒田HOPEのスローガンが超かっこいい。オーナーもすごいいい人だった。ある会話で「ウチのハードコアイベントに来る連中が不正をするわけがない」といっていたのが耳に残っている。

 

美術館

山形美術館「カンヴァスの同伴者たち 高橋龍太郎コレクション」

コレクター高橋氏のコレクション展。めっちゃ最近の作品もあってよかった。作品集売ってほしかったな。奈良美智草間彌生のグッズが多く、両者に興味がないので買うものは特になかった。

写真右上→この筆致で馬の肢体の強さじゃなくて憂鬱な表情を縦画面で切り抜く大胆さにしびれた。
左下→Hed.P.E.の1stみたいなストリートアートのコラージュのような激烈さを持ちながら水墨画っぽく描かれていること、下に影があることで具象画っぽく見える違和感が良い。
右下→「パッと見で抽象画なのになぜか具象画にみえるなあ」と思いながら説明を読んだら実際にいろんな柄のハンカチだか布だか紙だかを重ね合わせたもののスケッチらしい。その僅かなニュアンスを描く技量に脱帽。

東京国立近代美術館「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」

アイマスライブのついでに散歩してたらたまたま見かけて入った。パリ、東京、大阪かの美術館が、テーマ(文明の機械化、裸婦、など)ごとに各1点作品を出して3点並べて展示し、比較するように鑑賞できるという展示。素直に描いたり、メタ的だったり、政治的だったりと、アプローチの違いが楽しめた。

 

音楽

この期間中聴いててパッと思いつく作品に感想ツイートか簡単なコメント付記。

Revasseur - Talisman

Chroming Rose - Pressure

Viva Belgrado - Cancionero de los Cielos

綿菓子かんろ - リサージュの風景

Pestilength - Solar Clorex

Cryptae - Capsule

sentientruin.bandcamp.com

昨年のリリース直後はよくわからずスルーしたが「ミニマリズムを実践するデスメタル」という視点で聴いた途端、前衛デスメタルの名盤という気がしている。

キンモクセイ - 洋邦問わず

Dark Tranquillity - Endtime Signals

Nirriti - Asuryasparsha

nirriti.bandcamp.com

不気味なジャケに違わず邪悪なインドのノンストップノイズブラックメタル2020年作。ゴアアアアアーーーーー!!!!って感じです。

Grand Magus - Iron Will

正統派ドゥームメタル要素を盛り込んだ熱いヘヴィメタル

Whitehouse - Live Action 125

パブリックイメージのWhitehouseよりシンプルな攻撃性に満ちてていいです。

Ornette Coleman - Dancing in Your Head

ツンベルク管 - ナットとボルト

The Stools - R U Saved?

SEGUE-4 - LAYER:ASYL

ユニットらしいです。

Mortual - Evil Incarnation

Isole - Anesidora

 

 

 

 

Twitter(X)でみたライブ系の印象的な写真を引用で貼っておく自分用記事

レーザーをギターで反射する河端一

 

モッシュピットと白杖

エピソード

 

必殺技を放つDJ WILDPARTY

 

チェキ戦車とネムレス

 

黒魔術感マシマシのOzzy Osbourne

 

ブチ上がっているShimon_Harbig

 

ダークヒーローと吟遊詩人みたいになっているKING BROTHERS(シネマジェットフェス2024にて)

 

 

ハーシュノイズのライブで使った機材の紹介

はじめに

先日8年ぶりくらいに人生3度目くらいのノイズのライブをやりまして、機材が一般的なセオリーと若干違う気がするので世のノイジシャンやノイズを始めたい人の参考になればと思い機材の紹介をします。

偉大なる先達の発信(下記)を自分も大いに参考にしてきたので見習っての投稿です。

note.com

www.youtube.com

 

機材を組むにあたっての前提

・間断なく変化し続けるハードコアなフリージャズのインプロに近いノイズを目指す。
・音について、変化はするけど別に多彩でなくて良い。サックスソロだってサックスの音しか使わんやろがいという気持ちで臨む。
宅録機材の延長で組めるセッティング。
・安く 安く

 

全体像

図解

 

ノイズセクション

メイン音源

1 KORG monotron

すでに生産を中止した、いわゆる無印。ノイズ制作をスタートした2015年頃からずっと現役。
可聴域まで至る広いレンジでエグいサウンドを生むLFO、シンプルなつまみ、汚い逆ノコギリ波サウンド、安物すぎてほっとくと鳴り続けるホワイトノイズ、片手で全域カバーできるリボン鍵盤など長所も短所もすべてが今のサウンドの要。
以下に列挙するエフェクターは、基本的に本機のシンセサウンドを汚く&太く&鋭くすること、そして本機から勝手に鳴り続けるホワイトノイズをファットなノイズウォールにするために使う。
鍵盤をホールドする機能がないので、画像内にもあるスポンジを噛ませた強力クリップで鍵盤を挟みホールドする。ただ演奏の柔軟性がなくなるのであえて単調な展開を作りたいときを除き、基本的には指で演奏。
monotron delayも持ってるけどちょっと操作ミスると制御不可能&収めるのが面倒なくらい発振するのが使いこなせないので未使用。monotron duoは無印に比べるとおとなしいもののX-MOD機能をうまく使いこなせれば似たような使い方ができるかも。

エフェクター

2 ROWIN HOLY WAR DISTORTION

安いディストーション。ギターで使ったことがないのでよくわからないけど、メタルファンなら名前で想像がつく通り切れ味の鋭い音になる。ハイゲインとローゲインを使い分けられる。個人的なスウィートスポットが明確なので演奏中はあまり触らない。安い。

3 VOX V847-A

定番のワウペダル。音をコワー!ギョワー!と変えるのはもちろん、踏んでオンにするだけにしてペダルは動かさず、音を汚くするのにも使う。いろいろ試してみて、この位置が一番好みの音になった。

4 TC ELECTRONIC Fangs Metal Distortion

ディストーション。つまみがでかくていじりやすい。EQの効きがわかりやすいので演奏中時々触って音の質感を変えるのに使う(特にLOWをぐりぐり触ると結構変わる)。スイッチでRAW/FAT/SCOPの音色が選べて、かなりがっつり音が変わる。SCOPは結構トレブリーで使うタイミングを選ぶ。

5 BOSS MT-2 Metal Zone

ご存じメタゾネ。ぼろぼろの中古を買ったためつまみの軸がグネグネに歪んでいるのに普通に回せる。全部フルテンにしつつMID FREQだけ時々触り音色を変える。ただあまりがっつり回して音がコワーッ!と変わるのが個人的にはダサくて苦手なのであまり大胆には触らない。

ここまでは直列。

6 ELECTRO-HARMONIX Switchblade +

いわゆるABボックス。AorBだけでなくA&Bの出力ができるので使っている。あとLED光らなくてもいいならパッシブで使える。ただなんかノイズ系の爆音を入力するとなるとうまく分岐できないようで、片方だけオンにしても音漏れするので実態としては「分岐&どっちかの音を気持ち弱くできる箱」として使っている。これを使って下記の2つのエフェクターに音を分けている。

7 DOD fx86B DEATH METAL

血糊のようなペイントとスプラッターなパラメータ名がキュートなハイゲインディストーション。Digitechじゃないほう。フルテンで使うとパブリックイメージの「轟音」を作るのに最適。轟音でありつつ音が潰れず(壊れはする)鋭いサウンドなのがお気に入り。

8 MASF Pedals Kidnapper

同ブランドのノイズボックスscmに最適化されているというオクターブダウンファズ。旧モデルなのでオクターブダウンの切り替えは2パターンのみ。
SAWの値をうまく調整すると原音を完全に侵食しエッグい低音のムギャギャw/ブギョギョw/ボモモwというサウンドが得られるんだけど、原音の鋭さが完全に失われるため直列を避けている。

9 DOD 240 Resistance Mixer

完全パッシブのミキサー。上記7(鋭いディストーション),8(潰れた低音),を合流させるために使う。終端のミキサーに2つ差すよりここでミックスして1chにしちゃうほうが何故か音が太くなる。見た目のわりにかなり重いしパッシブなのでブーストができない(抵抗で減衰させるしかない)んだけど、頑丈だし音痩せも気にならない。Behringerの似たような形のアクティブミキサーも試してみたけど音痩せがひどくて話にならなかった。

10 BOSS RV-6 Reverb

デジタルリバーブ。実質シマー専用。歪ませたmonotronの倍音とうまくかみ合うと不愉快かつ荘厳な「スカム・シューゲイザー」とでもいうべき音になるのが好きで、ここぞというときのクライマックスのために使っている。

11 Behringer SF300 Super Fuzz

9mmのギターが大暴れするときに踏んでいたことでおなじみ。ただ一般的にノイズミュージックとか飛び道具的に使われるFUZZ2モードではなく、Boostモードで最後尾に使っている。ミキサーでゲインを上げるよりはるかに鋭くかっこいい音が出るのと、リバーブのデジタル感をごまかすため。上掲HAIZAI氏のnoteでは似たような使い方でZ.Vex Super Hard Onを推薦しており、気になっている。

12 Bananana Effects Mute SW

アケコンみたいなモメンタリースイッチが使われたキルスイッチ。急激なストップ&ゴーに使えるかと思ったけどスピーカー飛んだらどうしようと日和ってしまい当日のライブでは使わず。宅録ではよく使う。

 

ボイスセクション

ハーシュノイズやパワエレだとエフェクター等で潰し切った絶叫/アジテーションが良く使われるけど、個人的にはあくまで歌唱技術でエクストリームメタル系の声を出して、それをノイズに馴染む程度に音を弄りたいという思いがあったので、こちらは簡単なセッティング。

メイン音源

13 CLASSIC PRO CM5

いわゆる「ゴッパチ」のパチモンダイナミックマイク。滅茶苦茶安いので。

エフェクター

14 VOCU Magic Mic Room

「マイク用プリアンプ」「フォンジャック」「安い」を満たす製品。マイクをギターエフェクターにつなぐために導入。

15 Guyatone SD-2 Sustainer D

可愛い見た目の反面ファズっぽく下品で強い音が鳴るディストーション。音も見た目も最高。あくまで声主体にしたいため、これはフルテンにはせずあくまで声を程よく歪ませる程度にした。

16 Behringer VD400 Vintage Delay

声にエコーをかけたくて手元にあったこれを使っているだけ。コッコッコッ……というイメージ通りの音がするアナログディレイ。発振もするけどそれは使わない。ライブではPAとの打ち合わせをミスって色々都合がつかなくなったのでごく短時間のみ飛び道具的に使用。

 

ミキサー

MACKIE MIX8

アナログミキサー。上述の両セクションをこれにぶち込んで、これのOUTから会場のDIを借りてPAに流した。自宅にてヘッドホンでモニタリングしながら作った音との乖離をなるべくなくしたいのでアンプは不使用。

その他

電源:Furman SS-6B

自宅の電源タップでは複数アダプターをさせるデカいものがなく、どうせ買うなら音楽用のものをと思い導入。音とかはよくわからないっす……ただミキサーもパワーサプライ(後述)も電源スイッチがないので、本器で一括オンオフできるのは便利。

パワーサプライ:VOCU Baby Power Plant Type-A

安くて小っちゃくていっぱい差せるるので。ただ本来アイソレートされてないパワーサプライにデジタル/アナログエフェクターを両方差すと音が悪くなるのでやっちゃだめらしいけど、聞き比べた結果「まあええか」と思い足元に置くワウを除く全機の電源はこれでまかなっている。

ケーブル:しらん

なんか昔ハードオフで買ったやつとか、人からもらったやつとか、CLASSIC PROのハチャメチャな安物とかが混在。将来的にはオヤイデとかの買って聴き比べしてみたいけど現状はこんなもんで満足。

ケース:CLASSIC PRO CPEC400

安い、重い、ちょっと小さい。もうちょっと大きいのにしたい。安い割には頑丈。同ブランドの「LITE」シリーズはたぶん避けたほうがいいと思う。

スタンド:CLASSIC PRO KST40(写真には写っていない)

エフェクターボードとミキサーを載せる。キーボードスタンドというとX字の方が定番だけど、乗せるもののサイズによっては融通か効かないかなと思ってテーブル型のこちらに。
結果、家で使うぶんには正解だったけど、普通のX字スタンドよりはるかに上の7kgという重量を誇り運搬が本当に嫌になるので、X字スタンド&デカめのベニヤ板とかにすればよかったかと思っている。

 

どう演奏するの?

monotronを「触ってないときはノイズウォール発生器になるシンセ」と位置づけ、ずーーーーーーーーーーーーーーーーーっといじくりまわしながら、時に指を離してノイズの音質を変えながら、常に大声を出す。いわゆるテーブルコアと言われるこてこてのハーシュノイズと違い、エフェクターは時々音色を変化させるためにいじる程度で、ほとんどの時間をmonotronのリボンとつまみをいじることに費やします。あとワウも踏みます。コツとしてはmonotronから出る音を体感で熟知すること、時々指を離してホワイトノイズをうまく組み込むこと、勢いを絶対に落とさない根性、偶発的に出た音をリフレインや展開に活かすための途切れない集中力などです。慣れればエグいドローン、無機質なインダストリアル、フリージャズのようなフリーキーなリードなど意外とこなせます。

スマホで録ったプアーな音だけどこんな感じの音になります(これは声が入ってないけど)。

 

終わりに

あまり参考にならない構成だとは思うけどノイズを始めるハードルが下がる記事にはなったかと思います。ノイズやろうノイズ。

初めてアイマスのライブ行った(THE IDOLM@STER SideM 9th STAGE ~MIR@-CIRCLE CRESCENDO~ライブレポ)

idolmaster-official.jp

両日行ってきました。感想を整理せずそのまま。

アーカイブ配信等は見ておらず当日の記憶を頼りに書いたので事実と違ってたらすみません。

 

背景情報

人間

成人男性。東北在住。

ライブ遍歴

基本的にエクストリームメタル(デスメタルとかグラインドコアとか)とノイズミュージックのライブにしか行かないので界隈特有のマナーとかは全然知らず参加。小規模なアイドルライブは2回くらい行ったことがあるけど、どれもロック系のライブハウスで開催されたものだったのであまり異世界感はなかった。

アイマス遍歴

アイマス15周年施策と前後して知人の勧めもありシャニマスとSideMにハマった(うろ覚え)。
アニメは765、SideM、デレ、ミリ、シャニを視聴済み。特に765とSideMのアニメは面白かった記憶がある。
ゲームはシャニマスはenza版のみ。微課金勢。仕事の繁忙期はイベントを見逃しつつもなるべく読んでいるという感じ。グレ5-6往復。
SideMはサイスタのみ、開始からサービス終了まで。極微課金。
SideMのライブはブルーレイでいくつか見た(3rdが滅茶苦茶好き。Genuine Feelings!!!!!!!!!!!!!)。楽曲はおおむね把握はしているけどサイスタ終了以降の楽曲は若干聴き込み浅め。
アイマスにおけるプロデューサーという概念はいまだによくわかっていない。自分自身はあくまでファンという認識しかない。
好きなアイマスアイドルは神楽麗、花園百々人、風野灯織、田中摩々美、七草にちか。正直両ブランドのアイドルはほとんどみんな好きです(嫌いな人はいないけど分からん人はいる)。

 

ライブの感想

楽しかったね~~~~~~~~~!!!!!

day1

ユニット曲から始まる構成にまず度肝を抜かれる。全体曲からじゃないんだ。ハイジョの高いテンションで否応なしにボルテージが上がるのでかなりアリ。
前半の自己紹介も、MCで一人一人喋るのではなく、サンバ調にアレンジされた「夏時間グラフィティ」に乗せて、演者ではなくアイドルの立場で山手線ゲームをするというのも良かった。MCだとどことなくメタくなってしまうところ、没入感があるまま観られるし、多分初見でも「良くわからんけどそういう雰囲気の人なんだろう」と思えそうな回答ばかりで楽しい。
個人的な前半のハイライトはやはりTHE 虎牙道「究極…FIGHTING」で、メンバー3人とバックダンサーによる殺陣が超クール。これやって歌もダンスもやるの、運動量がおかしい気がする。おそらくダンサーがいることで演者の身体的負担が増えている唯一のユニット。逃げ惑うダンサーを追い詰めるように現れる牙崎漣(小松昌平)がかっこよすぎ。

中盤のメドレーは新旧楽曲入り混じる中にWORLD TRE@SURE(ワートレ)シリーズも交えた意外性のあるセット。ワートレはコロナ禍の影響でライブ披露されなかった楽曲も多いらしく、雪辱を果たした形にもなるのかな。おそらくコロナ禍以降最も外国人参加者の多いSideMライブにおいて「Welcome to Japan!」が披露されるというのもグッとくる。あとWと虎牙道の新曲「vs.BELIEVERS」がかっこよすぎ。

メドレー後はダンサーによる幕間をはさんで後半へ。この幕間も良かった。ボールのパス回しのようなサイレントコメディ風の動きと各ダンサーの個性が出た激しいダンスが融合した楽しい内容。
後半は個人的には見所が多すぎてコメントしづらい。SideM楽曲で最初に衝撃を受けた、人生の辛い瞬間に寄り添う優しいエレクトロ楽曲のFRAME「スリーブレス」が見れて感動したり、彼らの時に傷つき(傷つけ)ながらも深まっていく関係性がパフォーマンスに表れたようなC.FIRST「Face the World」に感動したり、「Cherish BOUQUET」をアレンジした特殊イントロから演出もダンスも華々しい渡辺みのり(演:高塚智人)「カラフル・シンメトリー」にグッときたり、3DMVの熱さをそのまま会場に持ち込んだようなHigh×Joker「JOYFUL HEART MAKER」でブチ上がったり、"THE 虎牙道×ホスト"というカオスなお題を超セクシーに表現した「宵闇のイリュージョン」(牙崎漣を押しのける円城寺道流!)が良すぎて爆笑したり、Legenders「リフレインアトリウム」の三者三様のプロポーズ(実質)を受けて周囲のレジェPと思しき人々がなんか悲鳴を上げて崩れ落ちているのにびっくりしたり、試聴時は何とも思わなかったけど本編最終で聴くと感動的な全体曲「Gather Round!」で温かい気持ちになったり、などなど。

 

day2

day2の1曲目も合同曲でなく神速一魂から。ハイテンションな幕開けで素晴らしい。今回のトロピカル山手線枠は「Fine Day! Find Way!」。これやっぱいい企画だから恒例化してほしいな。前半で印象的だったところでいうと、EDM系のエグい音圧とMVの動きを随所で取り入れたキレのいいダンスの迫力がすさまじいJupiter「Inner Dignity」、音源の時点でかなり気に入っていたCafé Parade流エレクトロスウィング「Dear you, Cheers!!」、高速エレクトロ&ふわふわした雰囲気&ショタ声&成人男性のフィジカルという矛盾した強みを兼ね備える実写もふもふえんにしかできない「もふデビ★うぉんてっど」、彼らのいい意味で"閉じた"世界観と高い歌唱力を見せつけたAltessimo「Precious ordinary days」あたりか。アルテは楽曲もさることながら最後の"会話"が目に焼き付いている(配信でも写っているのだろうか)。

day2もday1と同じくワートレ楽曲を織り交ぜたメドレーが。ロシアの曲「眠らぬ夜にスパシーバ!」をやらないのはご時世ゆえか、私が知らないだけで披露済みなのか。天ヶ瀬冬馬(演:寺島拓篤), 秋月涼(演:三瓶由布子)2名での披露となった「もくろみインディアNight」楽しくてよかったな。インド風振り付けはMCによると本来ダンサーだけがやるものを演者二人もやるように変更したらしいが大正解(めっちゃ面白いので)。あと今回アルテはアップテンポな曲がなかったので「Eternal Fantasia」はうれしかった。「笑顔の祭りにゃ、福来る」は神速一魂のみでの歌唱だったけどめっちゃ雰囲気合ってて楽しかった。神速の二人は何というか言葉があっているのかわからないけど、
day1と同じくダンスによる幕間をはさんで後半戦へ。S.E.M「Life's Side Menu!」は試聴すらロクに聞いてなかったんだけどすごく楽しかった。キッチンと料理を使った笑えるパフォーマンス(としか言いようがない)がトンチキで笑いっぱなしだったんだけど、歌詞としてはあくまで料理を通じて人生の第一歩を応援するエンパワーメントソングという彼ららしい曲。そしてそのあとまさかの個人的に最も好きな神速の楽曲「RIGHT WAY, SOUL MATE」!!!!!予想してなさすぎ&うれしすぎで口を突いた言葉は「なんでだ!!!」でした。そして続くディズニー風味のAltessimo「夢の不思議なラビリンス」の伸びやかな歌唱!!!!!音源でも思ったけど神楽麗(演:永野由祐)とはこんなに歌が上手い人だったか?歌唱力の確かな向上が感じられるパフォーマンスだった。ドラスタ2名のソロ曲はムービングステージの使い方が良くて、本来の用途である移動でなく単に上昇にだけ使って2名の曲の共通モチーフである空を想起させたのには感心した。CoDシリーズで「Dear you, Cheers!!」に並ぶダンス系キラーチューンであるF-LAGS「FANTASTIC DISCOTHEQUE」は馬鹿馬鹿しいくらい盛り上がってうれしかった。

 

初参加の気づき

・企業名コール恥ずかしい

なんか気後れしちゃって無言で見てました。時々企業名コールの後に「ありがとう!!!」と叫ぶオタクの声がして、もちろん慣習的というのもあるんだけどちゃんと思い入れがある人もこの中に大勢いるんだなと思った。

・不参加組の扱い、なんかいい

冒頭の山村賢のアナウンスと不参加組によるアナウンス、どうやた不参加組も会場にはいるという設定っぽいのがなんかよかった。仲間という感じがして。

・男性(野郎共、エンジェルくん)の多さ

内心不安だったので孤独感がなくほっとした。day2は隣も男性で、他作品の村瀬歩キャラに射抜かれて以来もふもふえんPとのことだった。気を使ってくれたのか色々声かけてもらってありがたかった。マジでありがとな!!!!その場でも言ったけどあのファンサ絶対アンタ向けのやつだったよ!!!!!!
ただ男性トイレでさえつづら折りの行列ができるほど混んだのには閉口した。

・ペンライトってあったほういい

初ライブだったのもあるけど、「なんでステージパフォーマンス見るのに光る棒がいるんじゃい 演技ってのは目と耳と心で感じるもんじゃい」などと開き直って何もグッズを持たずに参加したんだけど、パフォーマンス中の振る舞いや感情表現のやり方がわからなくてどうもばつの悪い感じがした。椅子の感じ(後述)的に基本的に棒立ちだし、そもそも周りのペンライト所持率があまりに高くて逆に浮くし……。初日の「初参加の人~」みたいなとこで光る棒振りたかったな。

UOがわかった

なんかオタクの中で「感極まって我慢できずUOを折った」みたいな物言いあるじゃないですか。今まで全く意味が分からなくて、そもそもUOウルトラオレンジの略であることを知ったのも今年なんだけど「なんでオレンジのペンライトじゃダメなんだ」「ウルトラて」と思っていた。
今回「スリーブレス」とか「RIGHT WAY, SOUL MATE」のイントロが流れたときに「ウワッ、今すぐに俺を馬鹿にしてくれる装置あれかし」と思ったんだけど、多分これに応えてくれるのが「UOを折ってはしゃぐ」なんだろうな。あと周囲の人が振ってるUOを見るとペンライトより明らかに明るくて、「ウルトラ」の意味もやっと分かった。光量なんだ。

・トロッコや移動ステージ、普通にキャーキャーしちゃう

声優ライブってどことなく冷めた目線も無くはなかったんだけど、いざ見ると、トロッコでこっち来ると、手なんか振られちゃうと、主観カメラで遊ばれると、普通にワー、キャーッ、ねえこっち見たよ、となってしまい我ながらウケてしまった。

・歓声のタイミングが良くわからない

スチール画像(クラファで言うと美食のチャイナ服とか)が出たり、ファンサに限らず、すみません、界隈の用語がわからないので間違ってたら指摘してほしいんですけどSEXアピールとか色恋営業的な要素の際に歓声が上がる。映像で何度も見ているはずの風景なんだけど、いざ自分がその輪の中にいると「わっ、みんな急にどうした」と思ってしまう。慣れの問題なんだろうか。
なおここでいう「歓声」は黄色いタイプの話をしており、私も意外性のある選曲には「ヴォーッ!!」「マジッ!?」などと叫んでおりました。

・みんなどんな曲でも表拍で乗る

なんだかんだでこれが一番衝撃的だったかも。神速の「RIGHT WAY, SOUL MATE」のAメロとかでさえみんなペンライトを表拍アクセントで振っていてなんか私が逆張りオタク君(そうではある)みたいになっていました。ほかの曲も、表×8か裏×4のどちらでも乗れる曲だと絶対に前者になるのが何か不思議だった。

www.youtube.com

↑参考

・座れて助かるけど窮屈

アリーナ席とかあるのかと思ったら完全な平場で、席番号指示に従って座る。結束バンドで横一列つながれた結ばれたパイプ椅子に座る。かなり窮屈な中でステージやちろっこを凝視するので体に悪い感じはしたけど、体力的には数十分おきのMCタイムのたびに座れるのはありがたい。立ちっぱなしで3~4時間グラインドコアデスメタルを浴び続けるライブとか本当につらいので。クラシックコンサートみたいな会場だとさぞ快適だろうな。

・荷物そこそこ持ってってもいい

パイプ椅子だったので座席の下に小ぶりなリュックくらいだったら置ける環境だった。ついいつもの習慣で「もみくちゃになったり大暴れしても大丈夫なように荷物はボディバッグorロッカー、周囲の人を気付つけない服装」と思ってしまったが、むしろノベルティの配布とか水分補給の都合上A4トート一つ持っていくくらいがちょうどよさそう。day2はトート持っていきました。

・「アイマス最高!」の微妙な立ち位置

アイマスのライブといえば終了後に多くの有志が「アイマス最高!パンパンパパパン」みたいなコールをするイメージがあったんだけど本講演ではかなりつつましい規模でしかしてなかった。冷遇ととられかねない扱いがあったことも事実なので「SideMは315だけどこの場でアイマスブランド全体を称揚するのはちょっと……」という人も多いのだろうか。

 

遠征になるので参加負荷は高いけどまた行きたいです。そのときはペンライトとアルテ色のシャツも装備していこうかな。

 

【新譜リリース直前】Six Feet Underアルバム全作レビュー【Death Metal】

はじめに

 元Cannibal CorpseのカリスマボーカリストChris Barnes率いるフロリダのデスメタルバンドSix Feet Underのオリジナルアルバム全作レビューです。少なくとも日本語メディアでは誰もやってないので私がやります。
 日本では大して話題にならず、かといって海外はというとChrisという人自体がネットミームじみた位置づけで、苛烈にいじって良い扱いを受けており、彼に対するアンチ行動自体が一種のミーム化している*1フシがあるので、どうも「えー、結構好きだけどなあ、たしかに駄作もあるけど」くらいの立ち位置の人間による冷静な評価を探しづらいのが実情です。そんな状況において、一旦これまでのアルバムについて情報と評価(主観的ではありますが)をまとめることはそこそこの価値があるのではないかと思っています。
 正直デスメタル自体にはそんなに詳しくないので、もしこの記事の知見の浅さに怒りを覚えた方がいれば、ぜひより良い記事を書いてください、煽りとかではなくマジで読みたいので。

基準

・オリジナルアルバムのみ。EP、ライブアルバム、カバーアルバムであるGraveyard Classicsシリーズは除く。
・メンバー、トラックリストはEncyclopaedia Metallumから丸写し。
・各アルバムに貼るリンクはbandcampのみ。購入が最大のミュージシャンサポートだという個人の信仰による。

 

行くぞ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

1st. Haunted(1995)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Chris Barnes    Vocals
Allen West    Guitars
Greg Gall    Drums
Terry Butler    Bass

トラックリスト
1.    The Enemy Inside    04:17
2.    Silent Violence    03:34
3.    Lycanthropy    04:41
4.    Still Alive    04:05
5.    Beneath a Black Sky    02:50
6.    Human Target    03:30
7.    Remains of You    03:23
8.    Suffering in Ecstasy    02:45
9.    Tomorrow's Victim    03:35
10.    Torn to the Bone    02:47
11.    Haunted    03:09

 記念すべき彼らの1stアルバム。Cannnibal CorpseのChris、ObituaryのAllenが中心となり結成されたサイドプロジェクト的バンドですが、ベーシストも元Death,元MassacreのTerryであり、まさにスーパーバンドと言って良い布陣です(GregはTerryの義兄弟らしい)。

 アートワークは1990年発表の映画「The Haunting of Morella」のVHSパッケージ上部をトリミングしたもの。

 音楽性としてはAllenが作曲していることもありObituaryに近く、デスメタルとしてはシンプルなスロー&ヘヴィ路線。ただし、「当時(World Demiseリリース直後)のObituaryのモダン要素は受け継いでいない」「途中で加速する展開がほとんどない」「John Tardyのクソデカ怨念ボイスとは声質も歌詞の乗せ方も対極のド低音ボーカル」といった諸要素で、そこそこ差別化は出来ている印象を受けます。Chrisの声はCannibal Corpse解雇直前の作品である"The Bleeding"のスタイルをそのまま続けており、「ものすごく低いけど歌詞は聞き取れなくもない気がする」くらいの感じですね。ただし、時折やっていた高音の喚き声(ミ゛ーーーーーーーーーー!!!みたいなやつ)は本作では封印されています。
 頻繁なリズムチェンジが印象的な1.The Enemy Inside、2バス連打と刻むリフでグルーヴとおどろおどろしさを両立させた2.Silent Violence、ヘドバン待ったなしのグルーヴメタルチューン5.Human Targetや9.Tomorrow's Victimに11.Hauntedなど、ライブ映えしそうな楽曲がいっぱい。特に5.はのちにリリースされたライブDVD"Live With Full Force"の速めのアレンジが素晴らしいので是非チェックしてみてください。
 個人的に、Obituaryはせっかくのドロドロした楽曲がJohnの全力ボーカルでぶち壊しになっているように聞こえてしまうときがあり、曲もボーカルもドロドロなこのアルバムのほうが正直好みなところがあります。総評としては、ObituaryのスタイルとChrisのボーカルスタイルが化学反応を起こして新しい魅力を生んだ作品と言えます。
 ただし次作以降、SFUの音楽性はObituaryを離れ、良くも悪くもかなり独特なスタイルへ変化していきます。

2nd.Warpath(1997)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
前作に同じ

トラックリスト
1.    War Is Coming    03:14
2.    Nonexistence    03:34
3.    A Journey into Darkness    02:17
4.    Animal Instinct    04:48
5.    Death or Glory (Holocaust cover)    02:50
6.    Burning Blood    03:57
7.    Manipulation    02:51
8.    4:20    04:20
9.    Revenge of the Zombie    02:48
10.    As I Die    03:54
11.    Night Visions    03:07
12.    Caged and Disgraced    03:33

 新曲、カバー、ライヴ音源からなるEP"Alive & Dead"(1996)のリリースを挟んで、1stと同じメンバーで制作された2nd。1stリリース直後にChrisはCannibal Corpseをクビになり(本バンドに入れ込みすぎたからとか、制作における意見の相違が深まったから、などと言われています)、本バンドは今後彼のライフワークとなっていきます。

 アートワークは上記リンクの「6のドクロマーク」のモノクロのものの他に、メンバーの写真にこのマークをコラージュしたものがあります。おそらく後者がオリジナルで、筆者が持っている当時の日本盤CDも後者のデザインです。

 音楽性は1stから大きく変化し、音作りは若干軽く、楽曲もハードロックやロックンロール、NWOBHMの要素を多分に含むライトなものに変化。それに合わせてかChrisのボーカルもどこかラフなスタイルになり、一部楽曲では明らかに力みを抜いた吐き捨てボイスやノーマルボイスが入るようになりました。1stの項で言及した高音の喚き声(ミ゛ーーーーーーーーーー!!!)も復活したものの、上記のような音楽性の中で出てくるとユーモラスに聞こえますね。ポップとさえ言えるキャッチーな楽曲は印象に残るものの、デスメタルとしての魅力は大きく減退しています。

 サイレンのSEとゆったりと刻むイントロリフに導かれる1.War is Comingはドロドロした暗い楽曲で前作に近い雰囲気ですが、グルーヴメタル風のノリの良さとラップメタルっぽく歌詞を詰め込んだヴァースを持つ2.Nonexistenceから雰囲気がライトな方向へ変わります。
 ファストチューンである4.Animal Instinctや11.Night VisionsもデスメタルスラッシュメタルというよりMotörheadに近い雰囲気です。
 5.Death or Gloryはカバーで、原曲はスコットランドのメタルバンドHolocaust(MetallicaもGarage Inc.で彼らのThe Small Hoursをカバー)。大したアレンジもしていない愚直なカバーですが、原曲の歌メロが平坦なこともあり、かなりいい感じにハマっています。
 6.Burning Bloodや8.4:20は、グルーヴメタル風でなかなかキャッチーなリフが印象に残るものの、ダラけたノーマルボイスが出てくるのが個人的にはキツいです。
 9.Revenge of The Zombieはかなりクールなイントロ、スラッシーなリズム、オカルティックなメロディを持つ楽曲で、本作の中で最も(というかほぼ唯一)デスメタル的としてかっこいい楽曲。
 総評としては、1stを期待して、あるいはデスメタルを期待して聴くと正直言って捨て曲のほうが多い一作ということになるでしょう。しかし、いわゆるDeath'n'Roll(ロックンロールのノリとシンプルさをフィーチャーしたデスメタル)路線であることや、「Chrisが歌うノリが古いグルーヴメタル」だとわかって聴けば楽しめるアルバムです。

3rd.Maximum Violence(1999)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Chris Barnes    Vocals
Greg Gall    Drums
Terry Butler    Bass
Steve Swanson    Guitars

トラックリスト
1.    Feasting on the Blood of the Insane    04:32
2.    Bonesaw    03:07
3.    Victim of the Paranoid    03:05
4.    Short Cut to Hell    03:11
5.    No Warning Shot    03:04
6.    War Machine (Kiss cover)    04:25
7.    Mass Murder Rampage    03:10
8.    Brainwashed    02:43
9.    Torture Killer    02:42
10.    This Graveyard Earth    03:26
11.    Hacked to Pieces    03:36

 コアメンバーだったはずのAllenが前作を最後に脱退。新ギタリストとしてTerryとともにMassacre在籍歴があるSteveが加入します。過去2作の制作体制はAllen作曲、Chris作詞だったようですが、本作では作曲が分業制に。メンバーはこの体制でしばらく安定することとなります。

 音楽性は2ndのキャッチーな要素を活かしながらもある程度デスメタルに回帰。スラッシーなデスメタルデスボイスのグルーヴメタル、ゆるいDeath'n'Rollが混在するアルバムになりました。クリスのボーカルも深みを取り戻し、多用するようになった喚き声も、楽曲の雰囲気や図太いグロウルとの対比である程度のシリアスさを伴う様になりました。

 おどろおどろしいイントロからラップメタルのようなヴァースへ移行する1.Feasting on the Blood of the Insane、表打ちのスネア連打で強引に押し切る単調だがパワフルな2.Bonesaw、怒涛の2バス連打とキャッチーな刻みが超クールな3.Victim of The Paranoidでつかみはバッチリ。
 ゆるいグルーヴの4.Short Cut To Hellはかなり退屈なものの「Die Motherfucker, Die! Die!」という信じがたい歌詞のサビが最高な5.No Warning Shotで勢いを取り戻します。
 ただし後半がどうにもつまらなくなってしまいます。極度にミニマルなアレンジがかっこいいヘヴィチューン9.Torture Killer、流麗なギターソロが入る10.This Graveyard Earth、ザクザクとしたリフが印象的な11.Hacked To Piecesなど聞き所はあるものの、6~8曲目で一気に興をそがれる感があります。6.War MachineはKissのカバーですが、邪魔だと断言できるくらい酷い出来です。
 再発盤にはIron Maiden - WrathchildとThin Lizzy - Jailbreakのカバーが追加されていますが、正直言って6.と同じく邪魔です。彼らはどんな楽曲であっても殆どアレンジせずにカバーするため大抵の楽曲は滑稽になってしまいがち。前作のHolocaustカバーがむしろ特殊なのです。

 総評としては、どこかヘラヘラした緩さを感じた前作と比べて緩急の付いたアルバムではあるのですが、"緩"を何か履き違えてないか?と思わせる作品です。"急"に当たる楽曲の出来が良いので、スキップしつつ20分弱で聴くのがおすすめのアルバムです。

 

4th.True Carnage(2001)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1.    Impulse to Disembowel    03:11
2.    The Day the Dead Walked    02:15
3.    It Never Dies    02:42
4.    The Murderers    02:40
5.    Waiting for Decay    02:41
6.    One Bullet Left    03:32
7.    Knife, Gun, Axe    03:56
8.    Snakes    02:44
9.    Sick and Twisted    03:52
10.    Cadaver Mutilator    02:35
11.    Necrosociety    04:09

 前作と同じメンバーで制作された4th。作曲分業体制も継続されています。

 前作で苦労していたキャッチーなロックっぽさとデスメタルらしさの両立がこなれた感じでできるようになったのが大きな進歩です。90年代のモダンメタルのグルーヴにデスメタルらしいリフを自然に組み合わせたような楽曲が明らかに増え、前作中盤のような気だるさはかなり払拭されました。音質も明らかに向上し、特にギターはローチューニングされたメタルギターとしてはだいぶクリアに聴こえる方でしょう。
 ただし上の書き方はかなり好意的な見方で、書き方を変えると、アルバム全体が当時のグルーヴメタルやニューメタル、もっと言えば「90年代にアメリカで流行ったメタルのあの感じ」に接近することを意味します。正直、そういう音楽が苦手な人には厳しいアルバムかもしれません。私は今でもDisturbedとかSevendustとかP.O.D.を聴くタイプなので全然いけます。
 そしてもう一つ大きな変化として、Chrisの声質が更に低く、そして水っぽくゴボゴボとした響きを伴う怪物的なものに変化。殆ど歌詞が聞き取れなくなりました。Cannibal Corpseの"Butchered at Birth"や"Tomb of Mutilated"で披露していたものの発展型と言っていいスタイルです。このゴボゴボ声を基本に適宜喚き声を挟むスタイルは、今後の彼の基本となります。

 引きずるようなリズムとピッキングハーモニクスが印象的な1.Impulse To Disembowel、Cannibal Corpse風のフレーズも含みながらオカルティックなリフで疾走する2.The Day The Dead Walked、オカルティックなリフを一貫しながら適度にリズムチェンジする5.Waiting For Decayや7.Knife, Gun, Axeは旧来のファンにもしっかり訴求しそうな楽曲。最後の2曲もタイプの違う暗い楽曲が連続して良い終わり方です。
 妙にキャッチーなリフがユーモラスな3.It Never Dies、明らかにラップメタルを意識したグルーヴィーな4.The Murderers、タイトさに欠けるProngみたいなリフとシンプルすぎる歌詞が笑いを誘う8.Snakesあたりのキャッチーさ優先の楽曲はかなり微妙なところで、個人的には「気分によっては飛ばす曲」の位置づけです。
 本作の目玉の一つに、ラッパーIce-Tが参加する6.One Bullet LeftとエクストリームメタルバンドCrisisの女性ボーカルKaryn Crisisが参加する9.Sick and Twistedという2曲のゲスト参加曲があります。前者はIce-TのラップメタルバンドBody Countに少し合わせたようなアップテンポな曲調で、中盤から入る彼のラップ&スポークンワードの印象度は抜群。ただし本当に彼が目立つのでギャングスタラップが苦手な人は耐えられないかも。後者はJeff Walker(Carcass)風の苦み走ったKarynの濁声がコーラスとして入っていますが、正直Chrisの喚きをオーバーダブすれば良くない?という印象です。

 総評としては、「モダンヘヴィネスやラップメタルへの抵抗の有無で評価が大きく変わりそうなアルバム」と言ったところです。アルバム全体としてキレがよく、グルーヴィーに、ヘヴィになり品質は上がっていますが、ピュアなデスメタルのファンからしたら、(音質向上を除けば)前作と対して変わらない評価になる作品でしょう。

 

5th.Bringer of Blood(2003)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
前作に同じ

トラックリスト
1.    Sick in the Head    04:11
2.    Amerika the Brutal    03:01
3.    My Hatred    04:22
4.    Murdered in the Basement    02:19
5.    When Skin Turns Blue    03:27
6.    Bringer of Blood    02:54
7.    Ugly    02:58
8.    Braindead    03:44
9.    Blind and Gagged    03:09
10.    Claustrophobic    02:50
11.    Escape from the Grave    09:36

 同じメンバーの5th。本作以降、Chrisが何作かで自らプロデューサーを務めます。
 音圧が更に上がり、前作の鋭いギターサウンドを多少犠牲にしたかわりに、ギターとベースの迫力が大幅に増しました。ただしその分ドラムサウンドが割りを食った印象があります。

 音楽性としては、前作からデスメタル感も鋭さも大幅にスポイルし、「もっさりしたどん臭いグルーヴメタルに凄まじいデスボーカルがのっている」という感じの、ヘヴィでキャッチーですがどこかシュールさの漂う作風に。面白い作品ですが、かっこよさという意味では微妙なアルバムです。

 1.Sick in The Head、8.Braindeadなど、デスメタルらしいパートを多く含む楽曲もあるにはありますが、中心となるのは3.My Hatred、5.When Skin Turns Blue、6.Bringer of Blood、7.Ugly、10.Claustrophobicなどのグルーヴ楽曲。そういうものだと割り切ってしまえばリフも悪くないので結構楽しめます。
 2.Amerika The Brutalは完全にパンクロック。適当なボーカル、今までの露悪&グロ趣味作品群のせいで説得力がなさすぎる反戦歌詞、そのくせ異様に印象に残るキャッチーさがムカつきます。
 4.Murdered in The Basement、9.Blind and Gaggedはスラッシュメタル系のリフを持つ楽曲。アルバムの流れの中でいいアクセントになっていますが、曲単体としては演奏も歌唱もリズム感がどんくさいのでちょっと微妙です。
 11.Escape From The Graveは終了後に無音時間を挟んでシークレットトラックである(12.)White Widowへ。ギターレスのジャムに即興でボーカルを入れたようなゆったりかつ断片的な曲で、本作制作時の雰囲気を端的に示していると言えなくもないかも。

 総評としては、個人的には緩く乗れる楽しいアルバムですが、真面目にデスメタルとして評するならば厳しい作品です。ただし、グルーヴィーな楽曲はそこらのニューメタルよりよほどアッパーで楽しいので、聴くだけ聴いてみると良いのではないでしょうか。

 

6th.13(2005)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
前作に同じ

トラックリスト
1.    Decomposition of the Human Race    03:42
2.    Somewhere in the Darkness    03:53
3.    Rest in Pieces    03:08
4.    Wormfood    03:45
5.    13    03:07
6.    Shadow of the Reaper    03:39
7.    Deathklaat    02:36
8.    The Poison Hand    02:58
9.    This Suicide    02:21
10.    The Art of Headhunting    03:34
11.    Stump    03:12

 前作と同メンバーかつChrisプロデュースの6th。アルバムタイトルは単にこれまでにリリースされた作品をEP等全て含めた場合、本作が13作めになるからということだそうです。気合いゼロのアートワークがかなりしょぼくて残念。

 まず最初に言及したいのは、妙に音量が小さく各楽器のまとまりも感じられないミックス。前作、前々作ともに迫力のあるサウンドだったので、決してこの変な音作りがChrisの趣味というわけではないと思うのですが、スタジオもエンジニアも前作と同じなので原因はわからず。妙にこじんまりして聴こえるアルバムになってしまっています。

 気を取り直して内容に話を移すと、前作までと比べてかなりデスメタルへ揺り戻されている印象です。相変わらずブラストビート無しの楽曲ばかりですが、全体として楽曲は速め、リフもグルーヴメタル系のものは減ってデス/スラッシュメタル系のものが増えました。
 デスメタルらしい不穏なメロディがフックとして仕込まれた刻みリフはかなりかっこよく、6.Shadow of The Reaperは特にその代表。
 その他、1.Decomposition of the Human Race、2.Somewhere In The Darkness、7.Deathklaatなどは、デスメタリックなリフとグルーヴメタル系のリズムを兼ね備えた彼らの個性が出た楽曲。
 3.Rest in Pieces、10.The Art of Headhuntingはかなりノリのいいリフが印象的で、前作までに欠けていた勢いの良さがあります。
 4.Wormfood、5.13はシンプルな構成に手数の多いフレーズを組み合わせていますが、他の楽曲と比べて単調に聞こえるきらいがありますね。
 8.The Poison Hand、9.This Suicideと緩めのDeath'n'Roll曲が続きますが、これくらいだとアルバムのアクセントとしてちょうどいいですね。
 11.Stumpはスラッシーなパートでズルズルとスロー化する中盤を挟むシンプルながら攻撃的な一曲で、アルバムを痛快に締めくくります。

 総評としては、デスメタルらしさをある程度取り戻した点で評価できる作品です。良い楽曲が増えたのに、音質のせいで他作品よりも地味に聞こえることで損をしている気がします。
 一方で、リフがキレを獲得したことによって顕在化した問題があり、それはリズム、特にGregのドラムの切れ味の無さです。速い曲は表打ちスネア4つ打ち一辺倒、2バスもあまり凝った刻みでは連打できず、2ビートもどこかもっさりした印象です。前作までは全パートがそんな感じだったので気にならなかったというか、むしろゆったりしたグルーヴの要となっていたのですが、本作でデスメタルらしい楽曲を志向したことでドラムが悪目立ちしてしまっています。

 

7th.Commandment(2007)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
前作に同じ

トラックリスト
1.    Doomsday    03:48
2.    Thou Shall Kill    03:07
3.    Zombie Executioner    02:52
4.    The Edge of the Hatchet    03:55
5.    Bled to Death    03:17
6.    Resurrection of the Rotten    02:55
7.    As the Blade Turns    03:33
8.    The Evil Eye    03:26
9.    In a Vacant Grave    03:35
10.    Ghosts of the Undead    03:58

 前作と同様のメンバー、Chrisプロデュースの7thアルバム。
 アートワークは前作と同じA.M.Karanitantなる人物が担当していますが、前作と似たような色調で同じくドクロモチーフでありながら、失笑もののチープさだった前作とは違いメタルアルバムらしいものに。
 音作りに関しても、前作のしょぼいミックスはどこへやら、超ヘヴィに仕上がっています。ミックスにErik Rutan(Hate Eternalリーダー、後にCannibal Corpseにも加入)が関わり彼のスタジオでレコーディングしたことが大きいのでしょうか。

 音楽性はまた前作から若干の変化があり、アルバムの大半を占めるミドルテンポ楽曲のリフからはグルーヴメタル色が更に減退。ノリの良いリズム+不穏なリフという組み合わせが増えたことと上述のヘヴィな音作りとで、アルバム全体が重厚な印象になりました。
 そして大きいところとして、これまでアルバムに1曲あるかどうかだったスラッシュメタルらしい2ビートを叩く楽曲が4.The Edge of the Hatchetと6.Resurrection of the Rottenの2曲入っています。3rd以降の作品は0~1曲だったので、「久しぶりにデスメタリックな勢いのあるアルバムだ」と感じさせます。
 これらの変化によって、ここ数作のSFUの弱点だった緩さ、気だるさがかなり改善されています。と言っても、2.Zombie Executionerや9.In A Vacant Graveのような旧来のファストチューンもあるにはあり、これらはやはり退屈なのですが。それでもここは、「疾走曲にもバリエーションがでてきた」と肯定的に捉えたいところ。
 彼らの真骨頂であるグルーヴデスメタル曲としては、叩きつけるようなスネアとユニゾンするリフがかっこいい1.Doomsday、ノリの良いDeath'n'Rollでありながらちゃんと重苦しい8.The Evil Eye、最高にシンプルで切れの良いグルーヴメタルリフとゴボゴボボーカルの相性抜群な最終曲10.Ghosts Of The undeadあたりがいい感じです。

 総評としては、退屈な楽曲もあるにはあるものの、ヘヴィなプロダクションといくつかの優れた楽曲により、この編成で作られたアルバムの中では特に出来の良い一作だと言えます。

 

8th.Death Rituals(2008)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1.    Death by Machete    03:45
2.    Involuntary Movement of Dead Flesh    03:29
3.    None Will Escape    03:24
4.    Eulogy for the Undead    04:17
5.    Seed of Filth    04:58
6.    Bastard (Mötley Crüe cover)    03:26
7.    Into the Crematorium    03:43
8.    Shot in the Head    05:01
9.    Killed in Your Sleep    04:37
10.    Crossroads to Armageddon    02:09
11.    Ten Deadly Plagues    05:10
12.    Crossing the River Styx (Outro)    01:16
13.    Murder Addiction    03:56

 制作体制は引き続き。ただしミキシングエンジニアはErikでなく多くのメタルバンドを手掛けたToby Wrightが担当し、前作に比べ迫力は減退したものの、アングラ感が増幅された、地味ながらもなかなかクールなサウンドでまとめ上げています。

 音楽的にはやや地味な出来に仕上がっています。縮小再生産的な楽曲がやや目につき、パート単位で聴きどころのある2.Involuntary Movement of Dead Fleshや4.Eulogy For The Undeadのような曲も、過去の様々な曲のツギハギという印象が先立ってしまいます。
 ただし、すべてがそうだというわけではありません。彼らには珍しいクリーントーンのイントロとシャッフルビートの中盤に意外性がある1.Death By Machete、執拗に刻み続けるギターとまさかのハードコア風コーラス入りのサビがキャッチーな5.Seed Of Filth、ザクザクと心地よく刻むリフとメロディアスなギターソロが好印象な8.Shot In The Head(イントロSEは長すぎるけど)など、アルバムの要所要所に耳を惹く要素が設けられています。
 本作初の試みとして挙げられるのは10.Crossroads to Armageddonや12.Crossing the River Styx(Outro)といったinterlude曲の存在。前者はアンビエント&しょぼい打ち込みのキックとハイハット&Chrisのささやき声からなる楽曲で、意味不明さとチープさが却って不気味さを演出していい感じ。後者はメロディアスなギターインスト。次にも曲があるのに(Outro)となっている理由は不明です。
 あと地味に3.None Will Escapeではごく一部(1:15~,3:15~)にブラストビートが使われています。おそらくSFUの曲として初出ではないでしょうか。ただし曲自体がこれまでどおりの「スネア4つ打ちもっさり速め地味デスメタル」なのであまり印象には残りません。
 「本編に組み込まれるカバー曲」としては3rdぶりとなるMötley Crüeのカバー6.Bastardは原曲そのままの明るさがシュールで面白いものの、仄暗い雰囲気をまとったアルバムなので場違いな印象が強いですね。5thあたりまでにやればよかったものを……。

 総評として、デスメタルらしい陰鬱な雰囲気とSFUらしさを出そうとしているものの、いくつか導入された新規要素の成果がまちまちであること、旧来路線の楽曲がいまいちなことによって若干チグハグな印象になっています。ただ、楽曲単位で見れば佳曲が複数あり、特に5.はかなり優れた楽曲です。

 

9th.Undead(2012)

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メンバー
Chris Barnes    Vocals
Steve Swanson    Guitars (lead)
Kevin Talley    Drums
Rob Arnold    Guitars (lead, rhythm), Bass

トラックリスト
1.    Frozen at the Moment of Death    03:42
2.    Formaldehyde    02:47
3.    18 Days    02:40
4.    Molest Dead    03:13
5.    Blood on My Hands    03:37
6.    Missing Victims    03:57
7.    Reckless    03:04
8.    Near Death Experience    02:56
9.    Delayed Combustion Device    03:07
10.    The Scar    03:27
11.    Vampire Apocalypse    03:54
12.    The Depths of Depravity    03:49

 オリジナルメンバーであったリズム隊のGreg GallとTerry Butlerがついに脱退。Chris一人だけが残されてしまいました。
 新メンバーとして、ドラムにはDying Fetusはじめ多くのバンドを渡り歩いたKevin、リズムギターとしてChimairaのギタリストRobが加入しベースも兼任。作曲はRob一人のようです。
 プロデューサーもChrisではなくMark Lewisという人物へ。The Black Dahlia Murder、Trivium、Devildriverといった、当時の最前線バンドの作品を数多く手掛けたエンジニア/プロデューサーです。

 音楽性はこれまでのどの作品とも似ていない、誰にも予想できなかったであろう路線となりました。
 ドラムはこれまで極々稀であったブラストビートや変拍子含めた複雑なリズムチェンジを頻繁に行い、楽曲は一気に高速&複雑化。スネア4つ打ちのファストパートも殆どなくなりました。
 ギターリフは更にデスメタリックになると同時に、その演出方法もトリルでドロドロしたメロディを頻繁に差し込む、George加入以降(正確には"The Wretched Spawn"以降あたり)のCannibal Corpse風な手法を使うようになりました。
 全体的な印象としては不気味度とモダン度が大幅に上昇。一方で、トリガーっぽいベチベチしたサウンドのドラムや、キレよくテクニカルなギタープレイなどによって、ズルズルと引きずるような重苦しい雰囲気はかなり減退しました。

 1.Frozen at the Moment of Deathから始まる3曲は新しいスタイルのSFUを存分に聞かせてくれます。楽曲の質が高くChrisの声も健在なので、前作までの個性が弱くなったことよりも新しい音楽性を歓迎する気持ちになりますね。
 4.Molest Dead以降の中盤はスローな曲多め。と言ってもこれまでのDeath'n'Roll楽曲はほぼ無く、スローなリズムの隙間を手数の多い不穏なリフやフィルインが埋める不気味で情報量の多いスタイルです。各楽曲のリズムチェンジも旧作に比べるとかなり多く、スロー一辺倒の曲や単調な速いだけの曲はなくなりました。
 数少ないDeath'n'Roll楽曲が7.Recklessですが、ホラー風のフレーズをユニゾンするベースとギター、かつてのようなコミカルさは見せないChrisのボーカルで旧作とはしっかり差別化出来ています。
 最終曲12.The Depths of Depravityはグルーヴィーなリフもブラストビートもクリーンパートも盛り込りつつ最後はヘヴィなスローパートでガッツリ落とす欲張りな1曲で、本作の音楽性を総括しています。

 総評として、バンドの強みだけを上手く抽出してゼロ年代デスメタルと融合させた会心作と言えます。新メンバーの作曲力とキレの良い演奏、Steveがだんだんと身に着けてきたオールドスクールデスメタルらしいセンス、Chrisの唯一無二のボーカルが絶妙に噛み合ったからこその作品です。
 旧作のどこかどん臭い雰囲気に愛嬌を感じていた向きとして寂しい気持ちもなくはないのですが、これだけ出来が良ければ満足感が上回ります。

 

10th.Unborn(2013)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Chris Barnes    Vocals
Steve Swanson    Guitars
Kevin Talley    Drums
Jeff Hughell    Bass
Ola Englund    Guitars

トラックリスト
1.    Neuro Osmosis    03:10
2.    Prophecy    03:19
3.    Zombie Blood Curse    04:08
4.    Decapitate    02:50
5.    Incision    02:48
6.    Fragment    02:56
7.    Alive to Kill You    03:17
8.    The Sinister Craving    02:16
9.    Inferno    02:53
10.    Psychosis    03:47
11.    The Curse of Ancients    04:37

 まるで前作のアウトテイク集のようなタイトルとアートワークですが、れっきとしたフルアルバムです。他にも似たような作品があり少しややこしいので、ここで少し整理しておきましょう。

 (左)Undead…2012年リリースの9thアルバム。
 (中央)Unborn…2013年リリースの10thアルバム。
 (右)Unburied…2018年リリースのアウトテイク集。ソつまらないので聴かなくていいです

 前作で加入まもなく優れた作曲センスと演奏を披露していたリズムギター兼ベースのRobがあっという間に脱退(一部楽曲でゲスト参加)。
 後任ギタリストとして加入したのはメタルバンドFearedのリーダー&機材系YoutuberであるOla。後のThe Hauntedギタリストであり、ギターブランドSolar Guitarsを立ち上げる人物です。今ではYoutubeチャンネル登録者数80万人を超え、モダンエクストリームメタルのリスナーやギタリストに広く知られる人物ですね。
 そして専任ベーシストとしてバカテクデスメタルバンドBrain Drillの1stに参加していたJeffが参加。正式なツインギターバンドになりました。プロデュースはSFU名義となり、前作プロデューサーのMarkはドラムのレコーディングエンジニアを担当。作曲は分業制。また、一部楽曲の作曲と演奏にWhitechapelのBenjamin Savageが参加しています。

 ゼロ年代メタルを土台とするテクニカルな二人が加入、ゲストも壮絶デスコアバンドから招聘しているわけですが、何故か本作の音楽性は前作に比べて若干シンプルでヘヴィな、"Death Rituals"に近い路線に。ただし、前作時のメンバー交代による切れ味の良いドラミングと手数の多いリフはそのままなので、聴いていて退行した印象はありません。
 1.Neuro Osmosisはスローなデスメタルですが、前々作までの彼らのスロー曲とは全く趣を異にしており、ヘヴィなパートのバックで鳴り響く不協和音や、クリーンなロングトーンのハーモニーやアコースティックギターを使用することで、プログレデスやDemilich以降のアヴァンギャルドデスからメロディセンスだけを拝借したような独特の雰囲気があり面白いです。
 3.Zombie Blood Curseはノリの良いスラッシュ系の楽曲。現メンバーだとかなり切れ味のいい演奏になり、Power Trip - Executioner's Taxのような印象になってかなりかっこいい。
 4~6,8~10曲目は「旧路線のリファイン版」という感じのミドルテンポが中心の楽曲。あまり印象に残らないものの、演奏とアレンジが優れているのでかつてのように「つまんね~飛ばそうっと」とはならないですね。
 7.Alive To Kill Youはブラストから始まって度重なるリズムチェンジで飽きさせない佳曲。
 最終曲11.The Curse Of Ancientsは1.のようなメロディセンスをグルーヴィーなデスメタルに落とし込んで絶望的な雰囲気でアルバムを締めくくります。

 総評としては、旧作のノリの良さや重苦しさと、前作の現代的なキレの良さをいいとこ取りしたアルバムであると言えます。どちらもバランスよく味わえる一方、器用貧乏で地味な印象も。特に前作から続けて聴くと「前作を地味にしたアルバム」という印象が強く残ってしまいます。
 個人的には"Death Rituals"の上位互換っぽい印象で結構好きなアルバムですね。

11th.Crypt of The Devil(2015)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Chris Barnes    Vocals
Phil Hall    Guitars (rhythm), Bass
Brandon Ellis    Guitars (lead)
Josh "Hallhammer" Hall    Drums

トラックリスト
1.    Gruesome    03:06
2.    Open Coffin Orgy    04:22
3.    Broken Bottle Rape    03:02
4.    Break the Cross in Half    03:35
5.    Lost Remains    03:25
6.    Slit Wrists    03:54
7.    Stab    03:52
8.    The Night Bleeds    04:09
9.    Compulsion to Brutalize    03:17
10.    Eternal in Darkness    04:12

 バンドからKevinとOlaが脱退。しかし他のメンバーも本作には参加せず、ChrisのサポートとしてCannibal CorpseのパロディバンドCannabis Corpseの3人が参加しているというなんとも不思議な編成で制作された11th。ChrisがCannabisのアルバムに客演したことがきっかけで実現した編成のようです。PhilはIron LeaganやMunicipal Waste、BrandonはThe Black Dahlia Murderの活動でも知られています。
 ちなみに、某有名メタル系ブログでは本作からMarco Pitruzzellaがドラムをプレイしたような表記がありますがそれは誤りで、本作の制作に前後して加入しているものの、この時点ではライブツアーメンバーとしての参加です。

 音楽的な路線はズルズルしたデスメタルをかっちりしたモダンな演奏で聴かせるスタイルです。こう書くと前作と同様のスタイルに聞こえますが実際はちょっと違います。
 本作はCannibal Corpseを連想させる楽曲が多く、良くも悪くもオマージュバンドらしさが強くにじみ出ています。特にドラムは、Cannibal CorpseのPaulに激似のプレイスタイル(ブラストビートが似すぎ)が楽曲の力強さに貢献しています。ただしその分楽曲の雰囲気が前作より若干どんくさくなってしまった気がしないでもないですが。また、本作はギターソロの出来がいいのも特徴です。Brandonの流麗でキャッチーなリードセンスは、SFUともCannibal Corpseとも違った個性があり、本作のレベルを引き上げています。
 一つ気になるのは、Chrisのボーカルパフォーマンスに陰りが見えてきたことです。低音があまり出なくなり、吐息が微かに混ざったような声質に変化したことで迫力が減退。リズム感も悪くなり、明らかに乗り遅れているように聴こえる部分が出てきました。真偽不明ですが、海外のメタルファンの中では「マリファナをやりすぎたせい」が通説となっているようです。

 楽曲単位に話を移すと、"Kill"以降のCannibal Corpseっぽいうねるリフにメロディを加えたようなリフでストップ&ゴーを繰り返す曲展開と、かなり出来の良い妖艶なギターソロが耳を惹く1.Gruesome、マーチング風/超スロー/荘厳メロディアスと印象的なパッセージをツギハギしたような2.Open Coffin Orgy、テンポチェンジが印象に残る5,6曲目、Cannibal Corpseのハイレベルな模倣となっているスラッシーな7.Stab、ゴリ押しミドルテンポと美しいギターソロの対比がクールな10.Eternal In Darknessなど面白い楽曲が多くあります。
 上述の通り楽曲の出来を底上げしているのがBrandonのギターソロで、8.The Night BleedsのようなかつてのSFUなら捨て曲になっていたような地味な楽曲をも上手く盛り上げています。

 総評としては、ここ最近の数作が気に入っているファン、そしてCannibal CorpseとCannabis Corpseのファンなら楽しめる作品です。ただし、Chrisのパフォーマンスの弱さを許せることが前提。
 また、一部の楽曲がかなりCannibal Corpseに似ているので、却って「これなら本家を聴くかなあ……」と思ってしまう人もいそうですが、上記の通りギターソロはマジで全全違います。

 

12th.Torment(2017)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Chris Barnes    Vocals
Jeff Hughell    Guitars, Bass
Marco Pitruzzella    Drums

トラックリスト
1.    Sacrificial Kill    03:55
2.    Exploratory Homicide    02:45
3.    The Separation of Flesh from Bone    04:52
4.    Schizomaniac    03:54
5.    Skeleton    03:43
6.    Knife Through the Skull    03:40
7.    Slaughtered as They Slept    04:55
8.    In the Process of Decomposing    03:50
9.    Funeral Mask    03:28
10.    Obsidian    04:14
11.    Bloody Underwear    03:41
12.    Roots of Evil    04:02

 前作は収録メンバーとしてCannabis Corpseのメンバーを招き、ライブツアーはギターのSteve Swanson、ベースのJeff Hughell、新メンバーであるドラムのMarco Pitruzzellaと行っていました。その後、長年のパートナーであったSteveとは袂を分かち、ベースのJeffはギター兼任で前々作に引き続き参加、Marcoが新しいドラマーとして加入しています。作曲はすべてJeffが担当。MarcoはJeffとともにBrain Drillの1stに参加したメンバーですから、前作の「実質Cannabis Corpse」の次は「実質Brain Drill」な編成になっています。

 まず言及したいのが酷いアートワーク。真っ白な背景に一昔前のCGで吊るされた異形のゾンビ。異形ぶりはともかく絵面がショボすぎます。裏ジャケットにはバンドのアイコンの一つである「鏡文字の6」をモチーフにドクロと鳥を重ね、背景に程よく血痕を散りばめた厨二病感たっぷりのイラストが、ブックレット内には不気味なイラストや凄惨な拷問&殺人のひとコマが(ダサいのもあるけど)てんこ盛り。これらのどれかをジャケットにしたほうが流石に多少マシではないでしょうか。

左:裏ジャケットの「6」 右:ブックレットの不気味な「白骨死体の木」。ブックレット内の出来の良いイラストは凄惨すぎてあげられません

 音作りはまた少し変化しました。ベースが低音よりもアタック感重視の音作りをしていることでオールドスクールデスメタル感が薄れている点は好みが分かれそう。個人的にはややマイナスです。
 ドラムはトリガーを使わない太いサウンドで大変いい感じです。Marco、本作のドラムを全編ワンテイクで録音し、編集もクオンタイズも無しで終えたそうです。怪物だ。*2

 気を取り直して楽曲に言及したいところですが、正直なところこれがあまりよろしくありません。"Undead"から前作まで、多少の違いはあれど「ドロドロした楽曲をかっちりとした演奏で聴かせる渋いデスメタル」という方向性は共通していましたが、本作は不気味さがあまりなく、「ドロドロ」の部分が「かったるい、退屈、それでいて前期の愛嬌もない」に置き換わったような雰囲気になってしまいました。
 疾走パートもそれなりにあり体感速度もかなりのものなんですが、スローパートが無味乾燥すぎてその良さを潰していることもしばしば。
 「かっちりとした演奏」という点ではChris以外の二人が流石のパフォーマンスを見せていますが、楽曲が地味すぎて宝の持ち腐れ感があります。
 Brain Drillといえば、2008年の1st"Apocalyptic Feasting"リリースでメタル界に激震を起こし「演奏がうますぎる、何をやっているのかさっぱりわからない」という絶賛と「演奏がうますぎるだけ、何をやっているのかさっぱりわからない」という罵倒を浴びつつも「脳ドリ」の愛称で親しまれたバンドです。そんなメンバーを招くのであれば、ブルデス/テクデス化とは行かずとも、"Undead""Unborn"あたりのスタイル、あるいはその先の進化を聴きたかったところです。
 Chrisの声質は更に悪化。深みはさらに無くなり、「ものすごく声域の低い老人がクッキーモンスターのものまねをしている」みたいな声になりました。リズム感の悪さも相変わらず。

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 1.Sacrificial KillはCannibal Corpseっぽくおどろおどろしくうねりながらユニゾンするイントロリフと中盤の強烈なブラストビートの対比が印象的。
 2.Exploratory Homicideはかっこいい疾走曲ですが滅茶苦茶Cannibal Corpseっぽくてちょっと面白いです。
 暗いスローパートで溜めに溜めてからヘドバン誘発必至のミドルテンポスラッシュに突入する7.Slaughtered As They Sleptは素直にかっこいい。
 9.Funeral Maskはイントロ/アウトロがかなりドゥームメタルストーナーロックっぽい楽曲で、サビもルーズなグルーヴがあり、2nd~5thあたりに入っていそうな感じです。

 総評としては正直退屈なアルバムです。パワフルなサウンドと上記のようないくつかの佳曲のお陰で、全編通してつまらないわけではありませんが、8曲目以降は特にずっと退屈で、聴き終わったときの疲労感が大きいです。
 また、つまらない曲についてはボーカルパフォーマンスの劣化のせいで、かつてのように「曲は退屈だけどこのすさまじい声が乗るだけで聞けちゃうんだよな~」という感覚もないので、余計アルバムの評価を上げづらくなっています。

 

13th.Nightmares of The Decomposed(2020)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Jeff Hughell    Bass
Ray Suhy    Guitars
Jack Owen    Guitars
Chris Barnes    Vocals
Marco Pitruzzella    Drums

トラックリスト
1.    Amputator    03:43
2.    Zodiac    02:53
3.    The Rotting    03:15
4.    Death Will Follow    02:51
5.    Migraine    04:20
6.    The Noose    04:29
7.    Blood of the Zombie    03:21
8.    Self Imposed Death Sentence    03:02
9.    Dead Girls Don't Scream    03:15
10.    Drink Blood, Get High    04:25
11.    Labyrinth of Insanity    04:19
12.    Without Your Life    03:38

 Jeffがベース専任となり、ツインギター体制で制作された13th。
 加入したギタリストは”Crypt of The Devil”に客演もしていた元Cannabis CorpseのRay Suhyと、なんとChrisとともにCannibal Corpseを結成し2004年まで在籍、脱退後もDeicideで活躍したデスメタル界のカリスマギタリストJack Owen。SFUではおとなしいもののテクニック自慢なJeffとMarcoも引き続き在籍しています。作曲はJack。
 この豪華な布陣に「"Undead"レベルとはいかずとも、SFUらしさと高品質デスメタルが融合した作品が聴けるかも……!」という期待、「『なんでこのメンバーでこういう作品になる?』という作品をしばしば出してきたSFUだ。今回もどうせ前作の延長線だよ」という諦めの両方を世間から受けながらリリースされた本作は、なぜかとんでもない問題作&賛否両論(9割否)作でした。

 一番の変化はやはり音楽性。殆どの楽曲はストーナーロックに近い気だるいグルーヴに支配され、デスメタルらしいおどろおどろしさも、モダンメタルの鋭さもなく、かといってストーナーのような気持ちの良い酩酊感もなく淡々と進行するばかり。1~3つ程度のリフを機械的に組み合わせただけの、AC/DCの魅力を履き違えたような単調なミドルテンポ曲が延々と続きます。
 本記事を通読していただいた皆様にはこの説明だけで察しがついたかもしれませんが、要するになぜか今更"Warpath""Maximum Violence""Bringer of Blood"の捨て曲だけを集めたような音楽性になったのです。初期作も把握しているファンは懐かしのつまらなさに苦笑、中期以降のリスナーは「気だるさのあるバンドだとは思っていたがここまで堕ちたか!」と絶句、Metallumのアルバムレビューでは全オリジナルアルバム中最低評価の、平均満足度18%を記録しました。
 Metallumのレビューは賛否両論が極端になりがちですが、それでもJudas PriestDemolitionが57%、CryptopsyのThe Unspoken Kingが31%、Metallica&Lou Reed のLuluが19%といえば本作の低評価ぶりがわかるでしょうか。音質も「しょぼくなった"Bringer of Blood"」と言った感じの、もっさりしている上に圧もない感じに。
 そしてひどいのがChrisのボーカル。前作でかなり厳しいパフォーマンスを見せていた彼ですが、本作でその声質は更に悪化。明らかに無理をして出しているような、低さも太さも足りない声で、迫力の欠片もありません。リズム感も前作同様の怪しさですが、本作が気だるい楽曲ばかりなことでその欠点が若干隠れているのは皮肉なものです。
 新境地として、時折ピッグスクイールデスボイスの中でも、こもった高音と強い倍音を出すことで豚の断末魔のように聞こえるもの)を披露していますが端的に言ってとてもレベルが低く、単に喉を潰すようにして声量を抑えた喚き声にしか聞こえず、みっともなさと滑稽さが際立っています。

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↑格好良く決まっているピッグスクイールの例

 1.Amputatorは本作随一の佳曲にして真面目な意味でのハイライト。おどろおどろしいリフでスラッシーに爆走するクールなデスメタルです。Chrisのボーカルは酷いものですが、ここまで曲が攻撃的だと雑な発声もスラッシュメタルっぽく聞こえ許容範囲。
 2.Zodiacはずっしりと重く気だるく単調で退屈な、本作の雰囲気を象徴する楽曲です。ヴァースにボーカルだけのパートがあるのですがそれがあまりにも聞き苦しく、「なぜChrisの声のヤバさをさらすだけのアレンジを……?」と困惑してしまいました。
 3.The Rottingは小節の頭に「ミ゛ー!」と叫ぶだけのサビでさえズレまくるChrisに戦慄。この曲は本作にあるまじきことに途中でリズムチェンジしかっこいいギターソロが入ります。
 4.Death Will Followはなかなかノリの良いリフが好印象。
 6.The Nooseはヤバい意味で本作のハイライト。一切変化しない単調なリズム、ほぼ1リフを押し引きするだけのギター、言わずもがなのボーカルによる虚無の楽曲で、フィルインで変化をつけようとするドラムの奮闘虚しく意味不明過ぎて忘れられないシュールな1曲になっています。
 8.Self Imposed Death Sentenceはバキバキのベースが耳を惹くグルーヴィーなイントロリフで期待感を煽るも、煮えきらない曲展開と、シャッフルビートという概念を理解していないとしか思えないChrisの凄まじい乗り方がヘッドバンギングを妨害すること請け合い。似たような曲調の10.Drink Blood Get High(酷い曲名)ではそこまでリズムが破綻しているわけではないのも謎が深まります。
 9.Dead Girls Don't Screamはただでさえみっともない曲名を2つのつまらないリフを往復するだけの退屈な楽曲に乗せて連呼しまくる本作らしい駄曲。ただしギターソロは悪くないです。
 最終曲12.Without Your Lifeはオカルティックなリフと終末感に溢れたギターソロがクールな疾走曲。曲が多少良くてもボーカルは例によって酷く、歌い出しの「ミ゛ーーーーーーーーー……(息切れ)」に苦笑。あまりに何も考えてなさそうな単調な歌詞の乗せ方も凄いです。1.のボーカルはまだマシだったのですが……アルバムを通して疲れちゃった?

 総評すると、SFUの中でも屈指の失敗作です。Metal Blade Recordsの関係者はこれに文句をつけなかったのか、これだけのメンバーを飼い殺しにするな、など色々言いたくなります――ただ、かといって聴くのも不快な悪夢か、絶対買うべきでない一作かと言われると、そう断言するのも難しい、しかしそのように評する人がいても全くおかしくない、不思議な仕上がりの作品だというのが私見です。
 というのも、本作はいくらなんでも滑稽すぎるのです。上記の欠点は一周回って愛嬌として感じられるものであり、数分おきに苦笑できる作業用&ドライブ用BGMとしては案外悪くないと思っています。

 本作を肯定的に聴くヒントとして、「ボアードデスメタル」という概念をご紹介したいと思います。初出はおそらくObliteration Records代表の関根氏の提言だと思うのですが、端的に言えば「鬱屈した初期デスメタルに影響を受けた、盛り上がらない、味気ない、地味で退屈なデスメタル」のことです。関根氏自身も体現するバンドとして2021年にGravavgravを結成しています*3
 ヘヴィミュージック専門ファンジン「GUTZiNE」第5号の「ボアードデスメタル五選」では編集長のもつA氏が本作を選出し、「ほぼ同じようなリフを繰り返すような印象を受ける単調な曲は逆に中毒性を見いだせる」「ボーカルも全然ドスが効いてなくてそこもポイント高い」とコメントしています。
 デスメタル/ヘヴィメタルとしては限りなく駄作な本作ですが、単調さゆえの中毒性という意味では隠れた魅力がある作品であり、実はGang of FourKilling Jokeのようなポストパンク系が好きな人のほうが笑って「これはこれでアリ」といえる作品かもしれません。

 

14th.Killing for Revenge(2024予定)

sixfeetunder.bandcamp.com

メンバー
Chris Barnes    Vocals
Jeff Hughell    Bass
Marco Pitruzzella    Drums
Ray Suhy    Guitars (lead)
Jack Owen    Guitars (rhythm)

トラックリスト
1.    Know-Nothing Ingrate
2.    Accomplice to Evil Deeds         
3.    Ascension         
4.    When the Moons Goes Down in Blood         
5.    Hostility Against Mankind         
6.    Compulsive         
7.    Fit of Carnage         
8.    Neanderthal         
9.    Judgement Day         
10.    Bestial Savagery         
11.    Mass Casualty Murdercide         
12.    Spoils of War         
13.    Hair of the Dog (Nazareth cover) 

メンバー続投で制作された2024/05/10リリース予定の14th。本記事作成(2024/03/17)時点では1.Know-Nothing Ingrateのみが公開されています。楽曲自体は単調でつまらない疾走曲ですが、Chrisの声質は若干改善され"Torment"の頃くらいに太さが回復しているように聞こえます。アルバムの出来は果たして……。

 

まとめ

 Six Feet Underは「Obituaryみたいなやつ」「駄作しか出さない」「真のデスメタル」などといった曖昧な毀誉褒貶を多数見かけるバンドですが、具体的かつ冷静な音楽性への言及/作品レビューは日本語圏ではかなり少ないのが実情です(英語圏だとMetallumの各アルバムページで多数の苛烈なレビューが読めます)。本記事をお読みいただき、実際にリンクから音源を聴いていただければ、上記のような表現のどれもが全く的を射ていないことがわかると思います。
 あまり期待できなさそうな新譜が出るまであと2ヶ月ほどありますが、ぜひSFUディスコグラフィーに触れてお気に入りの一作を探してみてください。
 個人的なおすすめは、Obituaryを土台に新たな付加価値が生まれた1st"Haunted"、超ヘヴィでなかなかキャッチーな7th"Commandment"、洗練された攻撃性を堪能できる9th"Undead"、ハイレベルなCannibal Corpseオマージュ作11th"Crypt of The Devil"、そして大穴としてあまりのダメメタルぶりが謎の中毒性を産む13th"Nightmares of The Decomposed"です。

 ありがとうございました。

*1:たとえばこんなブログ記事が荒れたりPsychotic Pulse - Latest Metal Albums & Tour Info: 100 Reasons to Hate Chris Barnes

*2:SIX FEET UNDER Drummer MARCO PITRUZZELLA Recorded All Songs On New Album Torment In One Take - BraveWords

*3:Gravavgravは初期こそGraveからダシを取りきったようなロウすぎるボアードデスを実践していましたが、3作目のデモ音源あたりから人生の退屈さを暗い楽曲で表現するようなコンセプチュアルな方向性に若干変わっています