- はじめに
- 1st. Haunted(1995)
- 2nd.Warpath(1997)
- 3rd.Maximum Violence(1999)
- 4th.True Carnage(2001)
- 5th.Bringer of Blood(2003)
- 6th.13(2005)
- 7th.Commandment(2007)
- 8th.Death Rituals(2008)
- 9th.Undead(2012)
- 10th.Unborn(2013)
- 11th.Crypt of The Devil(2015)
- 12th.Torment(2017)
- 13th.Nightmares of The Decomposed(2020)
- 14th.Killing for Revenge(2024予定)
- まとめ
はじめに
元Cannibal CorpseのカリスマボーカリストChris Barnes率いるフロリダのデスメタルバンドSix Feet Underのオリジナルアルバム全作レビューです。少なくとも日本語メディアでは誰もやってないので私がやります。
日本では大して話題にならず、かといって海外はというとChrisという人自体がネットミームじみた位置づけで、苛烈にいじって良い扱いを受けており、彼に対するアンチ行動自体が一種のミーム化している*1フシがあるので、どうも「えー、結構好きだけどなあ、たしかに駄作もあるけど」くらいの立ち位置の人間による冷静な評価を探しづらいのが実情です。そんな状況において、一旦これまでのアルバムについて情報と評価(主観的ではありますが)をまとめることはそこそこの価値があるのではないかと思っています。
正直デスメタル自体にはそんなに詳しくないので、もしこの記事の知見の浅さに怒りを覚えた方がいれば、ぜひより良い記事を書いてください、煽りとかではなくマジで読みたいので。
基準
・オリジナルアルバムのみ。EP、ライブアルバム、カバーアルバムであるGraveyard Classicsシリーズは除く。
・メンバー、トラックリストはEncyclopaedia Metallumから丸写し。
・各アルバムに貼るリンクはbandcampのみ。購入が最大のミュージシャンサポートだという個人の信仰による。
行くぞ!!!!!!!!!!!!!!!!
1st. Haunted(1995)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Allen West Guitars
Greg Gall Drums
Terry Butler Bass
トラックリスト
1. The Enemy Inside 04:17
2. Silent Violence 03:34
3. Lycanthropy 04:41
4. Still Alive 04:05
5. Beneath a Black Sky 02:50
6. Human Target 03:30
7. Remains of You 03:23
8. Suffering in Ecstasy 02:45
9. Tomorrow's Victim 03:35
10. Torn to the Bone 02:47
11. Haunted 03:09
記念すべき彼らの1stアルバム。Cannnibal CorpseのChris、ObituaryのAllenが中心となり結成されたサイドプロジェクト的バンドですが、ベーシストも元Death,元MassacreのTerryであり、まさにスーパーバンドと言って良い布陣です(GregはTerryの義兄弟らしい)。
アートワークは1990年発表の映画「The Haunting of Morella」のVHSパッケージ上部をトリミングしたもの。
音楽性としてはAllenが作曲していることもありObituaryに近く、デスメタルとしてはシンプルなスロー&ヘヴィ路線。ただし、「当時(World Demiseリリース直後)のObituaryのモダン要素は受け継いでいない」「途中で加速する展開がほとんどない」「John Tardyのクソデカ怨念ボイスとは声質も歌詞の乗せ方も対極のド低音ボーカル」といった諸要素で、そこそこ差別化は出来ている印象を受けます。Chrisの声はCannibal Corpse解雇直前の作品である"The Bleeding"のスタイルをそのまま続けており、「ものすごく低いけど歌詞は聞き取れなくもない気がする」くらいの感じですね。ただし、時折やっていた高音の喚き声(ミ゛ーーーーーーーーーー!!!みたいなやつ)は本作では封印されています。
頻繁なリズムチェンジが印象的な1.The Enemy Inside、2バス連打と刻むリフでグルーヴとおどろおどろしさを両立させた2.Silent Violence、ヘドバン待ったなしのグルーヴメタルチューン5.Human Targetや9.Tomorrow's Victimに11.Hauntedなど、ライブ映えしそうな楽曲がいっぱい。特に5.はのちにリリースされたライブDVD"Live With Full Force"の速めのアレンジが素晴らしいので是非チェックしてみてください。
個人的に、Obituaryはせっかくのドロドロした楽曲がJohnの全力ボーカルでぶち壊しになっているように聞こえてしまうときがあり、曲もボーカルもドロドロなこのアルバムのほうが正直好みなところがあります。総評としては、ObituaryのスタイルとChrisのボーカルスタイルが化学反応を起こして新しい魅力を生んだ作品と言えます。
ただし次作以降、SFUの音楽性はObituaryを離れ、良くも悪くもかなり独特なスタイルへ変化していきます。
2nd.Warpath(1997)
メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1. War Is Coming 03:14
2. Nonexistence 03:34
3. A Journey into Darkness 02:17
4. Animal Instinct 04:48
5. Death or Glory (Holocaust cover) 02:50
6. Burning Blood 03:57
7. Manipulation 02:51
8. 4:20 04:20
9. Revenge of the Zombie 02:48
10. As I Die 03:54
11. Night Visions 03:07
12. Caged and Disgraced 03:33
新曲、カバー、ライヴ音源からなるEP"Alive & Dead"(1996)のリリースを挟んで、1stと同じメンバーで制作された2nd。1stリリース直後にChrisはCannibal Corpseをクビになり(本バンドに入れ込みすぎたからとか、制作における意見の相違が深まったから、などと言われています)、本バンドは今後彼のライフワークとなっていきます。
アートワークは上記リンクの「6のドクロマーク」のモノクロのものの他に、メンバーの写真にこのマークをコラージュしたものがあります。おそらく後者がオリジナルで、筆者が持っている当時の日本盤CDも後者のデザインです。
音楽性は1stから大きく変化し、音作りは若干軽く、楽曲もハードロックやロックンロール、NWOBHMの要素を多分に含むライトなものに変化。それに合わせてかChrisのボーカルもどこかラフなスタイルになり、一部楽曲では明らかに力みを抜いた吐き捨てボイスやノーマルボイスが入るようになりました。1stの項で言及した高音の喚き声(ミ゛ーーーーーーーーーー!!!)も復活したものの、上記のような音楽性の中で出てくるとユーモラスに聞こえますね。ポップとさえ言えるキャッチーな楽曲は印象に残るものの、デスメタルとしての魅力は大きく減退しています。
サイレンのSEとゆったりと刻むイントロリフに導かれる1.War is Comingはドロドロした暗い楽曲で前作に近い雰囲気ですが、グルーヴメタル風のノリの良さとラップメタルっぽく歌詞を詰め込んだヴァースを持つ2.Nonexistenceから雰囲気がライトな方向へ変わります。
ファストチューンである4.Animal Instinctや11.Night VisionsもデスメタルやスラッシュメタルというよりMotörheadに近い雰囲気です。
5.Death or Gloryはカバーで、原曲はスコットランドのメタルバンドHolocaust(MetallicaもGarage Inc.で彼らのThe Small Hoursをカバー)。大したアレンジもしていない愚直なカバーですが、原曲の歌メロが平坦なこともあり、かなりいい感じにハマっています。
6.Burning Bloodや8.4:20は、グルーヴメタル風でなかなかキャッチーなリフが印象に残るものの、ダラけたノーマルボイスが出てくるのが個人的にはキツいです。
9.Revenge of The Zombieはかなりクールなイントロ、スラッシーなリズム、オカルティックなメロディを持つ楽曲で、本作の中で最も(というかほぼ唯一)デスメタル的としてかっこいい楽曲。
総評としては、1stを期待して、あるいはデスメタルを期待して聴くと正直言って捨て曲のほうが多い一作ということになるでしょう。しかし、いわゆるDeath'n'Roll(ロックンロールのノリとシンプルさをフィーチャーしたデスメタル)路線であることや、「Chrisが歌うノリが古いグルーヴメタル」だとわかって聴けば楽しめるアルバムです。
3rd.Maximum Violence(1999)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Greg Gall Drums
Terry Butler Bass
Steve Swanson Guitars
トラックリスト
1. Feasting on the Blood of the Insane 04:32
2. Bonesaw 03:07
3. Victim of the Paranoid 03:05
4. Short Cut to Hell 03:11
5. No Warning Shot 03:04
6. War Machine (Kiss cover) 04:25
7. Mass Murder Rampage 03:10
8. Brainwashed 02:43
9. Torture Killer 02:42
10. This Graveyard Earth 03:26
11. Hacked to Pieces 03:36
コアメンバーだったはずのAllenが前作を最後に脱退。新ギタリストとしてTerryとともにMassacre在籍歴があるSteveが加入します。過去2作の制作体制はAllen作曲、Chris作詞だったようですが、本作では作曲が分業制に。メンバーはこの体制でしばらく安定することとなります。
音楽性は2ndのキャッチーな要素を活かしながらもある程度デスメタルに回帰。スラッシーなデスメタル、デスボイスのグルーヴメタル、ゆるいDeath'n'Rollが混在するアルバムになりました。クリスのボーカルも深みを取り戻し、多用するようになった喚き声も、楽曲の雰囲気や図太いグロウルとの対比である程度のシリアスさを伴う様になりました。
おどろおどろしいイントロからラップメタルのようなヴァースへ移行する1.Feasting on the Blood of the Insane、表打ちのスネア連打で強引に押し切る単調だがパワフルな2.Bonesaw、怒涛の2バス連打とキャッチーな刻みが超クールな3.Victim of The Paranoidでつかみはバッチリ。
ゆるいグルーヴの4.Short Cut To Hellはかなり退屈なものの「Die Motherfucker, Die! Die!」という信じがたい歌詞のサビが最高な5.No Warning Shotで勢いを取り戻します。
ただし後半がどうにもつまらなくなってしまいます。極度にミニマルなアレンジがかっこいいヘヴィチューン9.Torture Killer、流麗なギターソロが入る10.This Graveyard Earth、ザクザクとしたリフが印象的な11.Hacked To Piecesなど聞き所はあるものの、6~8曲目で一気に興をそがれる感があります。6.War MachineはKissのカバーですが、邪魔だと断言できるくらい酷い出来です。
再発盤にはIron Maiden - WrathchildとThin Lizzy - Jailbreakのカバーが追加されていますが、正直言って6.と同じく邪魔です。彼らはどんな楽曲であっても殆どアレンジせずにカバーするため大抵の楽曲は滑稽になってしまいがち。前作のHolocaustカバーがむしろ特殊なのです。
総評としては、どこかヘラヘラした緩さを感じた前作と比べて緩急の付いたアルバムではあるのですが、"緩"を何か履き違えてないか?と思わせる作品です。"急"に当たる楽曲の出来が良いので、スキップしつつ20分弱で聴くのがおすすめのアルバムです。
4th.True Carnage(2001)
メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1. Impulse to Disembowel 03:11
2. The Day the Dead Walked 02:15
3. It Never Dies 02:42
4. The Murderers 02:40
5. Waiting for Decay 02:41
6. One Bullet Left 03:32
7. Knife, Gun, Axe 03:56
8. Snakes 02:44
9. Sick and Twisted 03:52
10. Cadaver Mutilator 02:35
11. Necrosociety 04:09
前作と同じメンバーで制作された4th。作曲分業体制も継続されています。
前作で苦労していたキャッチーなロックっぽさとデスメタルらしさの両立がこなれた感じでできるようになったのが大きな進歩です。90年代のモダンメタルのグルーヴにデスメタルらしいリフを自然に組み合わせたような楽曲が明らかに増え、前作中盤のような気だるさはかなり払拭されました。音質も明らかに向上し、特にギターはローチューニングされたメタルギターとしてはだいぶクリアに聴こえる方でしょう。
ただし上の書き方はかなり好意的な見方で、書き方を変えると、アルバム全体が当時のグルーヴメタルやニューメタル、もっと言えば「90年代にアメリカで流行ったメタルのあの感じ」に接近することを意味します。正直、そういう音楽が苦手な人には厳しいアルバムかもしれません。私は今でもDisturbedとかSevendustとかP.O.D.を聴くタイプなので全然いけます。
そしてもう一つ大きな変化として、Chrisの声質が更に低く、そして水っぽくゴボゴボとした響きを伴う怪物的なものに変化。殆ど歌詞が聞き取れなくなりました。Cannibal Corpseの"Butchered at Birth"や"Tomb of Mutilated"で披露していたものの発展型と言っていいスタイルです。このゴボゴボ声を基本に適宜喚き声を挟むスタイルは、今後の彼の基本となります。
引きずるようなリズムとピッキングハーモニクスが印象的な1.Impulse To Disembowel、Cannibal Corpse風のフレーズも含みながらオカルティックなリフで疾走する2.The Day The Dead Walked、オカルティックなリフを一貫しながら適度にリズムチェンジする5.Waiting For Decayや7.Knife, Gun, Axeは旧来のファンにもしっかり訴求しそうな楽曲。最後の2曲もタイプの違う暗い楽曲が連続して良い終わり方です。
妙にキャッチーなリフがユーモラスな3.It Never Dies、明らかにラップメタルを意識したグルーヴィーな4.The Murderers、タイトさに欠けるProngみたいなリフとシンプルすぎる歌詞が笑いを誘う8.Snakesあたりのキャッチーさ優先の楽曲はかなり微妙なところで、個人的には「気分によっては飛ばす曲」の位置づけです。
本作の目玉の一つに、ラッパーIce-Tが参加する6.One Bullet LeftとエクストリームメタルバンドCrisisの女性ボーカルKaryn Crisisが参加する9.Sick and Twistedという2曲のゲスト参加曲があります。前者はIce-TのラップメタルバンドBody Countに少し合わせたようなアップテンポな曲調で、中盤から入る彼のラップ&スポークンワードの印象度は抜群。ただし本当に彼が目立つのでギャングスタラップが苦手な人は耐えられないかも。後者はJeff Walker(Carcass)風の苦み走ったKarynの濁声がコーラスとして入っていますが、正直Chrisの喚きをオーバーダブすれば良くない?という印象です。
総評としては、「モダンヘヴィネスやラップメタルへの抵抗の有無で評価が大きく変わりそうなアルバム」と言ったところです。アルバム全体としてキレがよく、グルーヴィーに、ヘヴィになり品質は上がっていますが、ピュアなデスメタルのファンからしたら、(音質向上を除けば)前作と対して変わらない評価になる作品でしょう。
5th.Bringer of Blood(2003)
メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1. Sick in the Head 04:11
2. Amerika the Brutal 03:01
3. My Hatred 04:22
4. Murdered in the Basement 02:19
5. When Skin Turns Blue 03:27
6. Bringer of Blood 02:54
7. Ugly 02:58
8. Braindead 03:44
9. Blind and Gagged 03:09
10. Claustrophobic 02:50
11. Escape from the Grave 09:36
同じメンバーの5th。本作以降、Chrisが何作かで自らプロデューサーを務めます。
音圧が更に上がり、前作の鋭いギターサウンドを多少犠牲にしたかわりに、ギターとベースの迫力が大幅に増しました。ただしその分ドラムサウンドが割りを食った印象があります。
音楽性としては、前作からデスメタル感も鋭さも大幅にスポイルし、「もっさりしたどん臭いグルーヴメタルに凄まじいデスボーカルがのっている」という感じの、ヘヴィでキャッチーですがどこかシュールさの漂う作風に。面白い作品ですが、かっこよさという意味では微妙なアルバムです。
1.Sick in The Head、8.Braindeadなど、デスメタルらしいパートを多く含む楽曲もあるにはありますが、中心となるのは3.My Hatred、5.When Skin Turns Blue、6.Bringer of Blood、7.Ugly、10.Claustrophobicなどのグルーヴ楽曲。そういうものだと割り切ってしまえばリフも悪くないので結構楽しめます。
2.Amerika The Brutalは完全にパンクロック。適当なボーカル、今までの露悪&グロ趣味作品群のせいで説得力がなさすぎる反戦歌詞、そのくせ異様に印象に残るキャッチーさがムカつきます。
4.Murdered in The Basement、9.Blind and Gaggedはスラッシュメタル系のリフを持つ楽曲。アルバムの流れの中でいいアクセントになっていますが、曲単体としては演奏も歌唱もリズム感がどんくさいのでちょっと微妙です。
11.Escape From The Graveは終了後に無音時間を挟んでシークレットトラックである(12.)White Widowへ。ギターレスのジャムに即興でボーカルを入れたようなゆったりかつ断片的な曲で、本作制作時の雰囲気を端的に示していると言えなくもないかも。
総評としては、個人的には緩く乗れる楽しいアルバムですが、真面目にデスメタルとして評するならば厳しい作品です。ただし、グルーヴィーな楽曲はそこらのニューメタルよりよほどアッパーで楽しいので、聴くだけ聴いてみると良いのではないでしょうか。
6th.13(2005)
メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1. Decomposition of the Human Race 03:42
2. Somewhere in the Darkness 03:53
3. Rest in Pieces 03:08
4. Wormfood 03:45
5. 13 03:07
6. Shadow of the Reaper 03:39
7. Deathklaat 02:36
8. The Poison Hand 02:58
9. This Suicide 02:21
10. The Art of Headhunting 03:34
11. Stump 03:12
前作と同メンバーかつChrisプロデュースの6th。アルバムタイトルは単にこれまでにリリースされた作品をEP等全て含めた場合、本作が13作めになるからということだそうです。気合いゼロのアートワークがかなりしょぼくて残念。
まず最初に言及したいのは、妙に音量が小さく各楽器のまとまりも感じられないミックス。前作、前々作ともに迫力のあるサウンドだったので、決してこの変な音作りがChrisの趣味というわけではないと思うのですが、スタジオもエンジニアも前作と同じなので原因はわからず。妙にこじんまりして聴こえるアルバムになってしまっています。
気を取り直して内容に話を移すと、前作までと比べてかなりデスメタルへ揺り戻されている印象です。相変わらずブラストビート無しの楽曲ばかりですが、全体として楽曲は速め、リフもグルーヴメタル系のものは減ってデス/スラッシュメタル系のものが増えました。
デスメタルらしい不穏なメロディがフックとして仕込まれた刻みリフはかなりかっこよく、6.Shadow of The Reaperは特にその代表。
その他、1.Decomposition of the Human Race、2.Somewhere In The Darkness、7.Deathklaatなどは、デスメタリックなリフとグルーヴメタル系のリズムを兼ね備えた彼らの個性が出た楽曲。
3.Rest in Pieces、10.The Art of Headhuntingはかなりノリのいいリフが印象的で、前作までに欠けていた勢いの良さがあります。
4.Wormfood、5.13はシンプルな構成に手数の多いフレーズを組み合わせていますが、他の楽曲と比べて単調に聞こえるきらいがありますね。
8.The Poison Hand、9.This Suicideと緩めのDeath'n'Roll曲が続きますが、これくらいだとアルバムのアクセントとしてちょうどいいですね。
11.Stumpはスラッシーなパートでズルズルとスロー化する中盤を挟むシンプルながら攻撃的な一曲で、アルバムを痛快に締めくくります。
総評としては、デスメタルらしさをある程度取り戻した点で評価できる作品です。良い楽曲が増えたのに、音質のせいで他作品よりも地味に聞こえることで損をしている気がします。
一方で、リフがキレを獲得したことによって顕在化した問題があり、それはリズム、特にGregのドラムの切れ味の無さです。速い曲は表打ちスネア4つ打ち一辺倒、2バスもあまり凝った刻みでは連打できず、2ビートもどこかもっさりした印象です。前作までは全パートがそんな感じだったので気にならなかったというか、むしろゆったりしたグルーヴの要となっていたのですが、本作でデスメタルらしい楽曲を志向したことでドラムが悪目立ちしてしまっています。
7th.Commandment(2007)
メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1. Doomsday 03:48
2. Thou Shall Kill 03:07
3. Zombie Executioner 02:52
4. The Edge of the Hatchet 03:55
5. Bled to Death 03:17
6. Resurrection of the Rotten 02:55
7. As the Blade Turns 03:33
8. The Evil Eye 03:26
9. In a Vacant Grave 03:35
10. Ghosts of the Undead 03:58
前作と同様のメンバー、Chrisプロデュースの7thアルバム。
アートワークは前作と同じA.M.Karanitantなる人物が担当していますが、前作と似たような色調で同じくドクロモチーフでありながら、失笑もののチープさだった前作とは違いメタルアルバムらしいものに。
音作りに関しても、前作のしょぼいミックスはどこへやら、超ヘヴィに仕上がっています。ミックスにErik Rutan(Hate Eternalリーダー、後にCannibal Corpseにも加入)が関わり彼のスタジオでレコーディングしたことが大きいのでしょうか。
音楽性はまた前作から若干の変化があり、アルバムの大半を占めるミドルテンポ楽曲のリフからはグルーヴメタル色が更に減退。ノリの良いリズム+不穏なリフという組み合わせが増えたことと上述のヘヴィな音作りとで、アルバム全体が重厚な印象になりました。
そして大きいところとして、これまでアルバムに1曲あるかどうかだったスラッシュメタルらしい2ビートを叩く楽曲が4.The Edge of the Hatchetと6.Resurrection of the Rottenの2曲入っています。3rd以降の作品は0~1曲だったので、「久しぶりにデスメタリックな勢いのあるアルバムだ」と感じさせます。
これらの変化によって、ここ数作のSFUの弱点だった緩さ、気だるさがかなり改善されています。と言っても、2.Zombie Executionerや9.In A Vacant Graveのような旧来のファストチューンもあるにはあり、これらはやはり退屈なのですが。それでもここは、「疾走曲にもバリエーションがでてきた」と肯定的に捉えたいところ。
彼らの真骨頂であるグルーヴデスメタル曲としては、叩きつけるようなスネアとユニゾンするリフがかっこいい1.Doomsday、ノリの良いDeath'n'Rollでありながらちゃんと重苦しい8.The Evil Eye、最高にシンプルで切れの良いグルーヴメタルリフとゴボゴボボーカルの相性抜群な最終曲10.Ghosts Of The undeadあたりがいい感じです。
総評としては、退屈な楽曲もあるにはあるものの、ヘヴィなプロダクションといくつかの優れた楽曲により、この編成で作られたアルバムの中では特に出来の良い一作だと言えます。
8th.Death Rituals(2008)
メンバー
前作に同じ
トラックリスト
1. Death by Machete 03:45
2. Involuntary Movement of Dead Flesh 03:29
3. None Will Escape 03:24
4. Eulogy for the Undead 04:17
5. Seed of Filth 04:58
6. Bastard (Mötley Crüe cover) 03:26
7. Into the Crematorium 03:43
8. Shot in the Head 05:01
9. Killed in Your Sleep 04:37
10. Crossroads to Armageddon 02:09
11. Ten Deadly Plagues 05:10
12. Crossing the River Styx (Outro) 01:16
13. Murder Addiction 03:56
制作体制は引き続き。ただしミキシングエンジニアはErikでなく多くのメタルバンドを手掛けたToby Wrightが担当し、前作に比べ迫力は減退したものの、アングラ感が増幅された、地味ながらもなかなかクールなサウンドでまとめ上げています。
音楽的にはやや地味な出来に仕上がっています。縮小再生産的な楽曲がやや目につき、パート単位で聴きどころのある2.Involuntary Movement of Dead Fleshや4.Eulogy For The Undeadのような曲も、過去の様々な曲のツギハギという印象が先立ってしまいます。
ただし、すべてがそうだというわけではありません。彼らには珍しいクリーントーンのイントロとシャッフルビートの中盤に意外性がある1.Death By Machete、執拗に刻み続けるギターとまさかのハードコア風コーラス入りのサビがキャッチーな5.Seed Of Filth、ザクザクと心地よく刻むリフとメロディアスなギターソロが好印象な8.Shot In The Head(イントロSEは長すぎるけど)など、アルバムの要所要所に耳を惹く要素が設けられています。
本作初の試みとして挙げられるのは10.Crossroads to Armageddonや12.Crossing the River Styx(Outro)といったinterlude曲の存在。前者はアンビエント&しょぼい打ち込みのキックとハイハット&Chrisのささやき声からなる楽曲で、意味不明さとチープさが却って不気味さを演出していい感じ。後者はメロディアスなギターインスト。次にも曲があるのに(Outro)となっている理由は不明です。
あと地味に3.None Will Escapeではごく一部(1:15~,3:15~)にブラストビートが使われています。おそらくSFUの曲として初出ではないでしょうか。ただし曲自体がこれまでどおりの「スネア4つ打ちもっさり速め地味デスメタル」なのであまり印象には残りません。
「本編に組み込まれるカバー曲」としては3rdぶりとなるMötley Crüeのカバー6.Bastardは原曲そのままの明るさがシュールで面白いものの、仄暗い雰囲気をまとったアルバムなので場違いな印象が強いですね。5thあたりまでにやればよかったものを……。
総評として、デスメタルらしい陰鬱な雰囲気とSFUらしさを出そうとしているものの、いくつか導入された新規要素の成果がまちまちであること、旧来路線の楽曲がいまいちなことによって若干チグハグな印象になっています。ただ、楽曲単位で見れば佳曲が複数あり、特に5.はかなり優れた楽曲です。
9th.Undead(2012)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Steve Swanson Guitars (lead)
Kevin Talley Drums
Rob Arnold Guitars (lead, rhythm), Bass
トラックリスト
1. Frozen at the Moment of Death 03:42
2. Formaldehyde 02:47
3. 18 Days 02:40
4. Molest Dead 03:13
5. Blood on My Hands 03:37
6. Missing Victims 03:57
7. Reckless 03:04
8. Near Death Experience 02:56
9. Delayed Combustion Device 03:07
10. The Scar 03:27
11. Vampire Apocalypse 03:54
12. The Depths of Depravity 03:49
オリジナルメンバーであったリズム隊のGreg GallとTerry Butlerがついに脱退。Chris一人だけが残されてしまいました。
新メンバーとして、ドラムにはDying Fetusはじめ多くのバンドを渡り歩いたKevin、リズムギターとしてChimairaのギタリストRobが加入しベースも兼任。作曲はRob一人のようです。
プロデューサーもChrisではなくMark Lewisという人物へ。The Black Dahlia Murder、Trivium、Devildriverといった、当時の最前線バンドの作品を数多く手掛けたエンジニア/プロデューサーです。
音楽性はこれまでのどの作品とも似ていない、誰にも予想できなかったであろう路線となりました。
ドラムはこれまで極々稀であったブラストビートや変拍子含めた複雑なリズムチェンジを頻繁に行い、楽曲は一気に高速&複雑化。スネア4つ打ちのファストパートも殆どなくなりました。
ギターリフは更にデスメタリックになると同時に、その演出方法もトリルでドロドロしたメロディを頻繁に差し込む、George加入以降(正確には"The Wretched Spawn"以降あたり)のCannibal Corpse風な手法を使うようになりました。
全体的な印象としては不気味度とモダン度が大幅に上昇。一方で、トリガーっぽいベチベチしたサウンドのドラムや、キレよくテクニカルなギタープレイなどによって、ズルズルと引きずるような重苦しい雰囲気はかなり減退しました。
1.Frozen at the Moment of Deathから始まる3曲は新しいスタイルのSFUを存分に聞かせてくれます。楽曲の質が高くChrisの声も健在なので、前作までの個性が弱くなったことよりも新しい音楽性を歓迎する気持ちになりますね。
4.Molest Dead以降の中盤はスローな曲多め。と言ってもこれまでのDeath'n'Roll楽曲はほぼ無く、スローなリズムの隙間を手数の多い不穏なリフやフィルインが埋める不気味で情報量の多いスタイルです。各楽曲のリズムチェンジも旧作に比べるとかなり多く、スロー一辺倒の曲や単調な速いだけの曲はなくなりました。
数少ないDeath'n'Roll楽曲が7.Recklessですが、ホラー風のフレーズをユニゾンするベースとギター、かつてのようなコミカルさは見せないChrisのボーカルで旧作とはしっかり差別化出来ています。
最終曲12.The Depths of Depravityはグルーヴィーなリフもブラストビートもクリーンパートも盛り込りつつ最後はヘヴィなスローパートでガッツリ落とす欲張りな1曲で、本作の音楽性を総括しています。
総評として、バンドの強みだけを上手く抽出してゼロ年代デスメタルと融合させた会心作と言えます。新メンバーの作曲力とキレの良い演奏、Steveがだんだんと身に着けてきたオールドスクールデスメタルらしいセンス、Chrisの唯一無二のボーカルが絶妙に噛み合ったからこその作品です。
旧作のどこかどん臭い雰囲気に愛嬌を感じていた向きとして寂しい気持ちもなくはないのですが、これだけ出来が良ければ満足感が上回ります。
10th.Unborn(2013)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Steve Swanson Guitars
Kevin Talley Drums
Jeff Hughell Bass
Ola Englund Guitars
トラックリスト
1. Neuro Osmosis 03:10
2. Prophecy 03:19
3. Zombie Blood Curse 04:08
4. Decapitate 02:50
5. Incision 02:48
6. Fragment 02:56
7. Alive to Kill You 03:17
8. The Sinister Craving 02:16
9. Inferno 02:53
10. Psychosis 03:47
11. The Curse of Ancients 04:37
まるで前作のアウトテイク集のようなタイトルとアートワークですが、れっきとしたフルアルバムです。他にも似たような作品があり少しややこしいので、ここで少し整理しておきましょう。
(左)Undead…2012年リリースの9thアルバム。
(中央)Unborn…2013年リリースの10thアルバム。
(右)Unburied…2018年リリースのアウトテイク集。クソつまらないので聴かなくていいです
前作で加入まもなく優れた作曲センスと演奏を披露していたリズムギター兼ベースのRobがあっという間に脱退(一部楽曲でゲスト参加)。
後任ギタリストとして加入したのはメタルバンドFearedのリーダー&機材系YoutuberであるOla。後のThe Hauntedギタリストであり、ギターブランドSolar Guitarsを立ち上げる人物です。今ではYoutubeチャンネル登録者数80万人を超え、モダンエクストリームメタルのリスナーやギタリストに広く知られる人物ですね。
そして専任ベーシストとしてバカテクデスメタルバンドBrain Drillの1stに参加していたJeffが参加。正式なツインギターバンドになりました。プロデュースはSFU名義となり、前作プロデューサーのMarkはドラムのレコーディングエンジニアを担当。作曲は分業制。また、一部楽曲の作曲と演奏にWhitechapelのBenjamin Savageが参加しています。
ゼロ年代メタルを土台とするテクニカルな二人が加入、ゲストも壮絶デスコアバンドから招聘しているわけですが、何故か本作の音楽性は前作に比べて若干シンプルでヘヴィな、"Death Rituals"に近い路線に。ただし、前作時のメンバー交代による切れ味の良いドラミングと手数の多いリフはそのままなので、聴いていて退行した印象はありません。
1.Neuro Osmosisはスローなデスメタルですが、前々作までの彼らのスロー曲とは全く趣を異にしており、ヘヴィなパートのバックで鳴り響く不協和音や、クリーンなロングトーンのハーモニーやアコースティックギターを使用することで、プログレデスやDemilich以降のアヴァンギャルドデスからメロディセンスだけを拝借したような独特の雰囲気があり面白いです。
3.Zombie Blood Curseはノリの良いスラッシュ系の楽曲。現メンバーだとかなり切れ味のいい演奏になり、Power Trip - Executioner's Taxのような印象になってかなりかっこいい。
4~6,8~10曲目は「旧路線のリファイン版」という感じのミドルテンポが中心の楽曲。あまり印象に残らないものの、演奏とアレンジが優れているのでかつてのように「つまんね~飛ばそうっと」とはならないですね。
7.Alive To Kill Youはブラストから始まって度重なるリズムチェンジで飽きさせない佳曲。
最終曲11.The Curse Of Ancientsは1.のようなメロディセンスをグルーヴィーなデスメタルに落とし込んで絶望的な雰囲気でアルバムを締めくくります。
総評としては、旧作のノリの良さや重苦しさと、前作の現代的なキレの良さをいいとこ取りしたアルバムであると言えます。どちらもバランスよく味わえる一方、器用貧乏で地味な印象も。特に前作から続けて聴くと「前作を地味にしたアルバム」という印象が強く残ってしまいます。
個人的には"Death Rituals"の上位互換っぽい印象で結構好きなアルバムですね。
11th.Crypt of The Devil(2015)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Phil Hall Guitars (rhythm), Bass
Brandon Ellis Guitars (lead)
Josh "Hallhammer" Hall Drums
トラックリスト
1. Gruesome 03:06
2. Open Coffin Orgy 04:22
3. Broken Bottle Rape 03:02
4. Break the Cross in Half 03:35
5. Lost Remains 03:25
6. Slit Wrists 03:54
7. Stab 03:52
8. The Night Bleeds 04:09
9. Compulsion to Brutalize 03:17
10. Eternal in Darkness 04:12
バンドからKevinとOlaが脱退。しかし他のメンバーも本作には参加せず、ChrisのサポートとしてCannibal CorpseのパロディバンドCannabis Corpseの3人が参加しているというなんとも不思議な編成で制作された11th。ChrisがCannabisのアルバムに客演したことがきっかけで実現した編成のようです。PhilはIron LeaganやMunicipal Waste、BrandonはThe Black Dahlia Murderの活動でも知られています。
ちなみに、某有名メタル系ブログでは本作からMarco Pitruzzellaがドラムをプレイしたような表記がありますがそれは誤りで、本作の制作に前後して加入しているものの、この時点ではライブツアーメンバーとしての参加です。
音楽的な路線はズルズルしたデスメタルをかっちりしたモダンな演奏で聴かせるスタイルです。こう書くと前作と同様のスタイルに聞こえますが実際はちょっと違います。
本作はCannibal Corpseを連想させる楽曲が多く、良くも悪くもオマージュバンドらしさが強くにじみ出ています。特にドラムは、Cannibal CorpseのPaulに激似のプレイスタイル(ブラストビートが似すぎ)が楽曲の力強さに貢献しています。ただしその分楽曲の雰囲気が前作より若干どんくさくなってしまった気がしないでもないですが。また、本作はギターソロの出来がいいのも特徴です。Brandonの流麗でキャッチーなリードセンスは、SFUともCannibal Corpseとも違った個性があり、本作のレベルを引き上げています。
一つ気になるのは、Chrisのボーカルパフォーマンスに陰りが見えてきたことです。低音があまり出なくなり、吐息が微かに混ざったような声質に変化したことで迫力が減退。リズム感も悪くなり、明らかに乗り遅れているように聴こえる部分が出てきました。真偽不明ですが、海外のメタルファンの中では「マリファナをやりすぎたせい」が通説となっているようです。
楽曲単位に話を移すと、"Kill"以降のCannibal Corpseっぽいうねるリフにメロディを加えたようなリフでストップ&ゴーを繰り返す曲展開と、かなり出来の良い妖艶なギターソロが耳を惹く1.Gruesome、マーチング風/超スロー/荘厳メロディアスと印象的なパッセージをツギハギしたような2.Open Coffin Orgy、テンポチェンジが印象に残る5,6曲目、Cannibal Corpseのハイレベルな模倣となっているスラッシーな7.Stab、ゴリ押しミドルテンポと美しいギターソロの対比がクールな10.Eternal In Darknessなど面白い楽曲が多くあります。
上述の通り楽曲の出来を底上げしているのがBrandonのギターソロで、8.The Night BleedsのようなかつてのSFUなら捨て曲になっていたような地味な楽曲をも上手く盛り上げています。
総評としては、ここ最近の数作が気に入っているファン、そしてCannibal CorpseとCannabis Corpseのファンなら楽しめる作品です。ただし、Chrisのパフォーマンスの弱さを許せることが前提。
また、一部の楽曲がかなりCannibal Corpseに似ているので、却って「これなら本家を聴くかなあ……」と思ってしまう人もいそうですが、上記の通りギターソロはマジで全全違います。
12th.Torment(2017)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Jeff Hughell Guitars, Bass
Marco Pitruzzella Drums
トラックリスト
1. Sacrificial Kill 03:55
2. Exploratory Homicide 02:45
3. The Separation of Flesh from Bone 04:52
4. Schizomaniac 03:54
5. Skeleton 03:43
6. Knife Through the Skull 03:40
7. Slaughtered as They Slept 04:55
8. In the Process of Decomposing 03:50
9. Funeral Mask 03:28
10. Obsidian 04:14
11. Bloody Underwear 03:41
12. Roots of Evil 04:02
前作は収録メンバーとしてCannabis Corpseのメンバーを招き、ライブツアーはギターのSteve Swanson、ベースのJeff Hughell、新メンバーであるドラムのMarco Pitruzzellaと行っていました。その後、長年のパートナーであったSteveとは袂を分かち、ベースのJeffはギター兼任で前々作に引き続き参加、Marcoが新しいドラマーとして加入しています。作曲はすべてJeffが担当。MarcoはJeffとともにBrain Drillの1stに参加したメンバーですから、前作の「実質Cannabis Corpse」の次は「実質Brain Drill」な編成になっています。
まず言及したいのが酷いアートワーク。真っ白な背景に一昔前のCGで吊るされた異形のゾンビ。異形ぶりはともかく絵面がショボすぎます。裏ジャケットにはバンドのアイコンの一つである「鏡文字の6」をモチーフにドクロと鳥を重ね、背景に程よく血痕を散りばめた厨二病感たっぷりのイラストが、ブックレット内には不気味なイラストや凄惨な拷問&殺人のひとコマが(ダサいのもあるけど)てんこ盛り。これらのどれかをジャケットにしたほうが流石に多少マシではないでしょうか。
音作りはまた少し変化しました。ベースが低音よりもアタック感重視の音作りをしていることでオールドスクールデスメタル感が薄れている点は好みが分かれそう。個人的にはややマイナスです。
ドラムはトリガーを使わない太いサウンドで大変いい感じです。Marco、本作のドラムを全編ワンテイクで録音し、編集もクオンタイズも無しで終えたそうです。怪物だ。*2
気を取り直して楽曲に言及したいところですが、正直なところこれがあまりよろしくありません。"Undead"から前作まで、多少の違いはあれど「ドロドロした楽曲をかっちりとした演奏で聴かせる渋いデスメタル」という方向性は共通していましたが、本作は不気味さがあまりなく、「ドロドロ」の部分が「かったるい、退屈、それでいて前期の愛嬌もない」に置き換わったような雰囲気になってしまいました。
疾走パートもそれなりにあり体感速度もかなりのものなんですが、スローパートが無味乾燥すぎてその良さを潰していることもしばしば。
「かっちりとした演奏」という点ではChris以外の二人が流石のパフォーマンスを見せていますが、楽曲が地味すぎて宝の持ち腐れ感があります。
Brain Drillといえば、2008年の1st"Apocalyptic Feasting"リリースでメタル界に激震を起こし「演奏がうますぎる、何をやっているのかさっぱりわからない」という絶賛と「演奏がうますぎるだけ、何をやっているのかさっぱりわからない」という罵倒を浴びつつも「脳ドリ」の愛称で親しまれたバンドです。そんなメンバーを招くのであれば、ブルデス/テクデス化とは行かずとも、"Undead""Unborn"あたりのスタイル、あるいはその先の進化を聴きたかったところです。
Chrisの声質は更に悪化。深みはさらに無くなり、「ものすごく声域の低い老人がクッキーモンスターのものまねをしている」みたいな声になりました。リズム感の悪さも相変わらず。
1.Sacrificial KillはCannibal Corpseっぽくおどろおどろしくうねりながらユニゾンするイントロリフと中盤の強烈なブラストビートの対比が印象的。
2.Exploratory Homicideはかっこいい疾走曲ですが滅茶苦茶Cannibal Corpseっぽくてちょっと面白いです。
暗いスローパートで溜めに溜めてからヘドバン誘発必至のミドルテンポスラッシュに突入する7.Slaughtered As They Sleptは素直にかっこいい。
9.Funeral Maskはイントロ/アウトロがかなりドゥームメタルやストーナーロックっぽい楽曲で、サビもルーズなグルーヴがあり、2nd~5thあたりに入っていそうな感じです。
総評としては正直退屈なアルバムです。パワフルなサウンドと上記のようないくつかの佳曲のお陰で、全編通してつまらないわけではありませんが、8曲目以降は特にずっと退屈で、聴き終わったときの疲労感が大きいです。
また、つまらない曲についてはボーカルパフォーマンスの劣化のせいで、かつてのように「曲は退屈だけどこのすさまじい声が乗るだけで聞けちゃうんだよな~」という感覚もないので、余計アルバムの評価を上げづらくなっています。
13th.Nightmares of The Decomposed(2020)
メンバー
Jeff Hughell Bass
Ray Suhy Guitars
Jack Owen Guitars
Chris Barnes Vocals
Marco Pitruzzella Drums
トラックリスト
1. Amputator 03:43
2. Zodiac 02:53
3. The Rotting 03:15
4. Death Will Follow 02:51
5. Migraine 04:20
6. The Noose 04:29
7. Blood of the Zombie 03:21
8. Self Imposed Death Sentence 03:02
9. Dead Girls Don't Scream 03:15
10. Drink Blood, Get High 04:25
11. Labyrinth of Insanity 04:19
12. Without Your Life 03:38
Jeffがベース専任となり、ツインギター体制で制作された13th。
加入したギタリストは”Crypt of The Devil”に客演もしていた元Cannabis CorpseのRay Suhyと、なんとChrisとともにCannibal Corpseを結成し2004年まで在籍、脱退後もDeicideで活躍したデスメタル界のカリスマギタリストJack Owen。SFUではおとなしいもののテクニック自慢なJeffとMarcoも引き続き在籍しています。作曲はJack。
この豪華な布陣に「"Undead"レベルとはいかずとも、SFUらしさと高品質デスメタルが融合した作品が聴けるかも……!」という期待、「『なんでこのメンバーでこういう作品になる?』という作品をしばしば出してきたSFUだ。今回もどうせ前作の延長線だよ」という諦めの両方を世間から受けながらリリースされた本作は、なぜかとんでもない問題作&賛否両論(9割否)作でした。
一番の変化はやはり音楽性。殆どの楽曲はストーナーロックに近い気だるいグルーヴに支配され、デスメタルらしいおどろおどろしさも、モダンメタルの鋭さもなく、かといってストーナーのような気持ちの良い酩酊感もなく淡々と進行するばかり。1~3つ程度のリフを機械的に組み合わせただけの、AC/DCの魅力を履き違えたような単調なミドルテンポ曲が延々と続きます。
本記事を通読していただいた皆様にはこの説明だけで察しがついたかもしれませんが、要するになぜか今更"Warpath""Maximum Violence""Bringer of Blood"の捨て曲だけを集めたような音楽性になったのです。初期作も把握しているファンは懐かしのつまらなさに苦笑、中期以降のリスナーは「気だるさのあるバンドだとは思っていたがここまで堕ちたか!」と絶句、Metallumのアルバムレビューでは全オリジナルアルバム中最低評価の、平均満足度18%を記録しました。
Metallumのレビューは賛否両論が極端になりがちですが、それでもJudas PriestのDemolitionが57%、CryptopsyのThe Unspoken Kingが31%、Metallica&Lou Reed のLuluが19%といえば本作の低評価ぶりがわかるでしょうか。音質も「しょぼくなった"Bringer of Blood"」と言った感じの、もっさりしている上に圧もない感じに。
そしてひどいのがChrisのボーカル。前作でかなり厳しいパフォーマンスを見せていた彼ですが、本作でその声質は更に悪化。明らかに無理をして出しているような、低さも太さも足りない声で、迫力の欠片もありません。リズム感も前作同様の怪しさですが、本作が気だるい楽曲ばかりなことでその欠点が若干隠れているのは皮肉なものです。
新境地として、時折ピッグスクイール(デスボイスの中でも、こもった高音と強い倍音を出すことで豚の断末魔のように聞こえるもの)を披露していますが端的に言ってとてもレベルが低く、単に喉を潰すようにして声量を抑えた喚き声にしか聞こえず、みっともなさと滑稽さが際立っています。
↑格好良く決まっているピッグスクイールの例
1.Amputatorは本作随一の佳曲にして真面目な意味でのハイライト。おどろおどろしいリフでスラッシーに爆走するクールなデスメタルです。Chrisのボーカルは酷いものですが、ここまで曲が攻撃的だと雑な発声もスラッシュメタルっぽく聞こえ許容範囲。
2.Zodiacはずっしりと重く気だるく単調で退屈な、本作の雰囲気を象徴する楽曲です。ヴァースにボーカルだけのパートがあるのですがそれがあまりにも聞き苦しく、「なぜChrisの声のヤバさをさらすだけのアレンジを……?」と困惑してしまいました。
3.The Rottingは小節の頭に「ミ゛ー!」と叫ぶだけのサビでさえズレまくるChrisに戦慄。この曲は本作にあるまじきことに途中でリズムチェンジしかっこいいギターソロが入ります。
4.Death Will Followはなかなかノリの良いリフが好印象。
6.The Nooseはヤバい意味で本作のハイライト。一切変化しない単調なリズム、ほぼ1リフを押し引きするだけのギター、言わずもがなのボーカルによる虚無の楽曲で、フィルインで変化をつけようとするドラムの奮闘虚しく意味不明過ぎて忘れられないシュールな1曲になっています。
8.Self Imposed Death Sentenceはバキバキのベースが耳を惹くグルーヴィーなイントロリフで期待感を煽るも、煮えきらない曲展開と、シャッフルビートという概念を理解していないとしか思えないChrisの凄まじい乗り方がヘッドバンギングを妨害すること請け合い。似たような曲調の10.Drink Blood Get High(酷い曲名)ではそこまでリズムが破綻しているわけではないのも謎が深まります。
9.Dead Girls Don't Screamはただでさえみっともない曲名を2つのつまらないリフを往復するだけの退屈な楽曲に乗せて連呼しまくる本作らしい駄曲。ただしギターソロは悪くないです。
最終曲12.Without Your Lifeはオカルティックなリフと終末感に溢れたギターソロがクールな疾走曲。曲が多少良くてもボーカルは例によって酷く、歌い出しの「ミ゛ーーーーーーーーー……(息切れ)」に苦笑。あまりに何も考えてなさそうな単調な歌詞の乗せ方も凄いです。1.のボーカルはまだマシだったのですが……アルバムを通して疲れちゃった?
総評すると、SFUの中でも屈指の失敗作です。Metal Blade Recordsの関係者はこれに文句をつけなかったのか、これだけのメンバーを飼い殺しにするな、など色々言いたくなります――ただ、かといって聴くのも不快な悪夢か、絶対買うべきでない一作かと言われると、そう断言するのも難しい、しかしそのように評する人がいても全くおかしくない、不思議な仕上がりの作品だというのが私見です。
というのも、本作はいくらなんでも滑稽すぎるのです。上記の欠点は一周回って愛嬌として感じられるものであり、数分おきに苦笑できる作業用&ドライブ用BGMとしては案外悪くないと思っています。
本作を肯定的に聴くヒントとして、「ボアードデスメタル」という概念をご紹介したいと思います。初出はおそらくObliteration Records代表の関根氏の提言だと思うのですが、端的に言えば「鬱屈した初期デスメタルに影響を受けた、盛り上がらない、味気ない、地味で退屈なデスメタル」のことです。関根氏自身も体現するバンドとして2021年にGravavgravを結成しています*3。
ヘヴィミュージック専門ファンジン「GUTZiNE」第5号の「ボアードデスメタル五選」では編集長のもつA氏が本作を選出し、「ほぼ同じようなリフを繰り返すような印象を受ける単調な曲は逆に中毒性を見いだせる」「ボーカルも全然ドスが効いてなくてそこもポイント高い」とコメントしています。
デスメタル/ヘヴィメタルとしては限りなく駄作な本作ですが、単調さゆえの中毒性という意味では隠れた魅力がある作品であり、実はGang of FourやKilling Jokeのようなポストパンク系が好きな人のほうが笑って「これはこれでアリ」といえる作品かもしれません。
14th.Killing for Revenge(2024予定)
メンバー
Chris Barnes Vocals
Jeff Hughell Bass
Marco Pitruzzella Drums
Ray Suhy Guitars (lead)
Jack Owen Guitars (rhythm)
トラックリスト
1. Know-Nothing Ingrate
2. Accomplice to Evil Deeds
3. Ascension
4. When the Moons Goes Down in Blood
5. Hostility Against Mankind
6. Compulsive
7. Fit of Carnage
8. Neanderthal
9. Judgement Day
10. Bestial Savagery
11. Mass Casualty Murdercide
12. Spoils of War
13. Hair of the Dog (Nazareth cover)
メンバー続投で制作された2024/05/10リリース予定の14th。本記事作成(2024/03/17)時点では1.Know-Nothing Ingrateのみが公開されています。楽曲自体は単調でつまらない疾走曲ですが、Chrisの声質は若干改善され"Torment"の頃くらいに太さが回復しているように聞こえます。アルバムの出来は果たして……。
まとめ
Six Feet Underは「Obituaryみたいなやつ」「駄作しか出さない」「真のデスメタル」などといった曖昧な毀誉褒貶を多数見かけるバンドですが、具体的かつ冷静な音楽性への言及/作品レビューは日本語圏ではかなり少ないのが実情です(英語圏だとMetallumの各アルバムページで多数の苛烈なレビューが読めます)。本記事をお読みいただき、実際にリンクから音源を聴いていただければ、上記のような表現のどれもが全く的を射ていないことがわかると思います。
あまり期待できなさそうな新譜が出るまであと2ヶ月ほどありますが、ぜひSFUのディスコグラフィーに触れてお気に入りの一作を探してみてください。
個人的なおすすめは、Obituaryを土台に新たな付加価値が生まれた1st"Haunted"、超ヘヴィでなかなかキャッチーな7th"Commandment"、洗練された攻撃性を堪能できる9th"Undead"、ハイレベルなCannibal Corpseオマージュ作11th"Crypt of The Devil"、そして大穴としてあまりのダメメタルぶりが謎の中毒性を産む13th"Nightmares of The Decomposed"です。
ありがとうございました。
*1:たとえばこんなブログ記事が荒れたりPsychotic Pulse - Latest Metal Albums & Tour Info: 100 Reasons to Hate Chris Barnes
*2:SIX FEET UNDER Drummer MARCO PITRUZZELLA Recorded All Songs On New Album Torment In One Take - BraveWords
*3:Gravavgravは初期こそGraveからダシを取りきったようなロウすぎるボアードデスを実践していましたが、3作目のデモ音源あたりから人生の退屈さを暗い楽曲で表現するようなコンセプチュアルな方向性に若干変わっています