2024年新譜ベスト&選外にした新譜から良かった曲ピックアップ&2024年に聴いた旧譜ベストです。
前提
・新譜と旧譜それぞれ20作、選外新譜の良かった曲を15曲選出。
・1アーティスト/バンド/ユニットつき新旧合わせて1作。
・個人的な振り返りとしての意味合いが強いので、旧譜については有名無名問わず。客観的には今更ピックアップする意味がないような伝説的名盤とかも、今年初めて聴いてよかったものであれば平気で載せる。
・作品ごとの文章量は当該作品の評価の高低に比例しない。
・順位は無し。順番はただ単に数字順→アルファベット順→五十音順。
・アルバムだけでなくEP、スプリットを含む。
- 前提
- 2024年新譜
- Another Dimension - Worship Death
- Baron - Beneath The Blazing Abyss
- Dunwich Ritual - The Weird Tapes Sessions
- Februus - Surveillance Orgy
- Grand Magus - Sunraven
- Indication - Ataraxia of The Phoenix
- Judas Priest - Invincible Shield
- Officium Triste - Hortus Venenum
- OGRE YOU ASSHOLE - 自然とコンピューター
- Pestilength - Solar Clorex
- Shuta Hiraki - Lyrisme Météorologique
- Spectral Wound - Songs of Blood and Mire
- Torturers' Lobby - Deadened Nerves
- Viva Belgrado - Cancionero de los Cielos
- Zenocide - Ashes Asylum
- キンモクセイ - 洋邦問わず
- ツンベルク管 - ナットとボルト
- 仲村宗悟 - carVe
- ユウレカ-AltX
- 綿菓子かんろ - リサージュの風景 - Landscape of Lissajous
- 選外作の良かった曲(順不同)
- 旧譜
- and more... - proof of existence
- Cryptae - Capsule
- Embody The Chaos - Awakening of Chaos
- fishbowl - 王国
- Infernal Gates - From The Mist of Dark Waters
- Isole - Anesidora
- Liiek - Deep Pore
- Morbid Stench - The Rotting Ways of Doom
- Mortual - Evil Incarnation
- Nashgul - Oprobio
- Nirriti -অসূর্যস্পর্শা(Asuryasparsha)
- Purified in Blood - Reaper of Souls
- Rapture - Malevolent Demise Incarnation
- Rêvasseur - Talisman
- Reversal of Man - This is Medicine
- Sissy Spacek - Sissy Spacek
- The Stools - R U Saved?
- Tales of Murder and Dust - Fragile Absolutes
- Toxic Piss - Toxic Piss
- Wildfire - Summer Lightning
- まとめ
- 番外(自分の2024年音楽活動)
2024年新譜
Another Dimension - Worship Death
日本のメロディックデスメタル2nd。Pagan Orphans Recordsからのリリース。
メロデスバンドIntestine BaalismのメインコンポーザーにしてGt&voを務めるNonakaがGtと作曲、スラッシュメタルバンドTerror SquadのVoを務めるUdagawaがVoと作詞という、日本のエクストリーム・メタルファンに取ってドリームチームと言えるバンドだが、その期待に違わず、古き良きメロデスを彷彿とさせるアグレッシヴな曲展開、その中でここぞというときに炸裂する過剰なまでにドラマチックなギターメロディ、全編デスラッシュ的に鋭く叫びまくるvoが最高に気持ち良い。IBはOSDMに突如歌謡曲的メロディが切り込む事による異様さとキャッチーさ、TSはクロスオーヴァースラッシュを基調としてジャパコア的メロディやアヴァンギャルドな展開を取り入れる個性をそれぞれ持っているが本作は、IBと比べると切れ味が鋭いメロデスラッシュに振り切れているようでいて、TSと比べると叙情性に振り切れているように聴こえるという、まさしくいいとこ取りの絶妙な塩梅で個性が組み合わされている印象。両バンドのファンだけでなく、Edge of SanityやJohan期のArch Enemyのような「ギターフレーズを歌えるくらいキャッチーだけど全体的に暗くてメジャー感はない」くらいのメロデスがいける人には全員おすすめできる。
Baron - Beneath The Blazing Abyss
フィンランドのデスメタル/デスドゥームメタルバンドデビュー作。 Transcending Obscurity Recordsからのリリース。
音作りはアタック音が際立つモダンな音作りだが、楽曲はスラムデスのようなミドルテンポ、メタリックハードコアのようなモッシュパート、デスドゥーム系の陰鬱さの両立が特徴的な、いそうでいないスタイル。日本のKRUELTYをデスドゥーム/ゴシックドゥームのメロディで味付けしてちょっとだけスラムデスに寄せた感じとも言えるかも。
アルバム全体としてはグルーヴィーな印象が強いがメロディアスな楽曲もちゃんとあり、特に5.「Bound To The Funeral Pyres」は陰鬱なメロディのデスドゥームを基調とした良曲。
特筆すべきはグロウルとスクリームを使い分けるvoで、デスメタルらしいかっちりさと獰猛さを持ちつつ歌詞が聞き取れるキレの良さがある。特にブラックメタル感もある高音スクリームはかなりかっこいい。
Dunwich Ritual - The Weird Tapes Sessions
jawbreakerrecords.bandcamp.com
フランスのスピードメタルバンドデビュー作。タイトルからは分かりづらいがフルレングスアルバム扱いでいいらしい。Jawbreaker Recordsからのリリース。
アートワークはかったるいC級ストーナー・ロックにしか見えないが、実際はラフな女性voと、パンキッシュでメロディアスなSpeedtrapあたりと系統の近いリフが特徴の猪突猛進型スピードメタル。
本作の良さはとにかく曲が熱くて速いというただ一点に尽きる。欠点も多く、音質はローファイで「デモテープやリハーサル音源だとしたら高音質」といったレベル。3回に分けて録音されたそうだが毎回録音環境が異なるようでアルバム中盤はクリッピングが目立つ。voは野暮ったく声量コントロールが全くできておらず端的に言って下手。そういった欠点を、幼稚なまでにハイテンションな楽曲によって「熱さ」「初期衝動」といった印象に還元していく魔力があるアルバム。voも下手なりに個性を出しており、3.「The Sinking City」では今後の成長を期待させる多彩な声色を使い分ける。オールドスクールなメタルヘッドに大推薦。
Februus - Surveillance Orgy
スウェーデンのAndreas Karlssonなる人物によるプログデスメタルソロ・プロジェクトデビュー作。 Horg Recordings/Transcending Obscurity Recordsからのリリース。
2024年のプログデスといえばBlood Incantation一択という気配も感じなくもないが個人的にハマったのがこれ。
ソロプロジェクトとは思えない高密度のバンドアンサンブルが聴ける。ハマったポイントとしては、"プログレッシヴ"の構成要素にアトモスフェリックな空気感をほとんど持ち込まず、伝統的なエクストリーム・メタル像の緻密な組み合わせを軸にしていること。パッセージ単位に着目すると90年代のデス/テクニカルスラッシュあたりが源流と思われる部分が殆どで、1曲除き7分以上、最長14分超の全5曲という構成でありながら常にメタル的キャッチーさを維持している。
例外かつ面白いのがラストの5.「Resignation Syndrome」で、前半は3+3+3+3+4の拍子をベースにMorbid Angelや90年代テクニカルスラッシュあたりからつまみ食いしたようなフレーズを乗せるデスメタル、中盤に本作唯一と言って良いフューネラルドゥーム風の静かなパートを挟んでからハイスピードの目まぐるしいデスメタル(12:17~の「ブラストするCoroner」といった風情の激キモ高速リフはかっこよすぎ)で締めくくる。
全体的に「気持ち悪くキャッチーなフレーズを奇怪に組み合わせる」というやり方を貫いている感があり、Necroticism期Carcassを今世紀のプログデス/テクデスの隆盛を踏まえてアップデートしたようにも聴こえる。パートによっては「GorodとExhumedの中間」なんていうヘンテコな例えも思い浮かぶ。
前人未到の音像を追い求める向きには合わないだろうけど、「かっこいいデスメタル」を念頭に置いた作曲は刺さる人には刺さるはず。
Grand Magus - Sunraven
スウェーデンのヘヴィメタル/ドゥームメタルバンド10th。Nuclear Blast Recordsからのリリース。
初期はドゥームメタルとして扱われていた気がするバンドだが、本作の路線は中期以降の路線を継続した、ドゥームっぽくミドルテンポ主体で鈍重な雰囲気が支配的なヘヴィメタルといった趣。
勇壮でありながら一切のエピックな装飾を排除した、シンプルかつドラマチックな楽曲が素晴らしく、Gt&VoのJBの、かつてSpiritual Beggarsでも披露していたソウルフルで暑苦しい中音域主体の歌声との相性が抜群。SB在籍時も思っていたけれど、彼は現代メタルボーカリストの中で技量・個性ともにトップランカーの一人だろう。メタル的記号がないスタイルなので「超絶ハイトーン」「人外レベルのガテラル」みたいなわかりやすい語り口はないけれど。
ドゥーム系のベテランバンドということでリフの素晴らしさとリズム隊の力強さが突出していることは言うまでもないが、本作中のベスト級ギターソロが聴ける3.「Sunraven」や9.「The End Belongs To You」など、メロディ面も充実。3分台の曲が殆どを占めトータル35分で終わるコンパクトさにエピックメタル/トラディショナルドゥームの魅力を詰め込んだ傑作(もう15分くらいあってもいいとは思うが)。
Indication - Ataraxia of The Phoenix
日本のメタリックハードコア1st。Dazeからのリリース。
Crystal Lakeの初代フロントマンVeronなどシーンで名の知られたメンバーによる新バンドによる、ゲスト多数のデビュー作という触れ込みだが、そういった部分を抜きにして非常によくできた作品(にしてもHSBのMarcusはびっくりしたが……)。
基本的にはヘヴィなニュースクールHCで厳つくあってほしくて、でもメロディアスなリフは出し惜しみせず使ってほしくて、でも軟弱にならずここぞというときはしっかりブレイクダウンとしてほしくて……という、とにかくゼロ年代以降主流のメタルコアとは違うタイプの「メタリックハードコア」の美味しい部分を全部やってくれる作品。唯一の例外5.「Renaissance」もファストな2ビートにサビではシンガロングという、これまた別タイプのハードコアでやってほしい要素を完全にやってくれる楽曲。8.「Dusk Falling」は「ずっとヘヴィでずっと叙情的」という絶妙なバランスを見事達成した、アルバムのフィナーレに最適な良曲。
Judas Priest - Invincible Shield
イギリスの超大御所ヘヴィメタルバンド19th。Sony Music Entertainmentからのリリース。
これまでにいくつもの名作・人気作をリリースし、2005年のVo.Rob Halford復帰後も精力的に活動し「偉大な先達」としてちょうどいい位置に収まりつつあった平均年齢66歳の彼らがリリースしたのは、キャリア屈指、Rob復帰後だとぶっちぎりのNo.1と断言できる傑作だった。
音楽性としてはここ2作と大きくは変わらず、コンパクトにまとまりつつ程よくモダンで、ノリの良さとドラマチックさを両立させた正統派のヘヴィメタル。だが本作は、そういった要素をすべて追求したもののすべてがちょっとずつ物足りなかった「Redeemer of Souls」、コンパクトなキャッチーさを追求したものの楽曲ごとの差が大きすぎた「Firepower」の課題を克服し、アップデート版と言える質の高さに満ちている。
まず、優れたリフをアップテンポに叩きつけ要所要所でRobのハイトーンシャウト(なんとここ数作より明らかに力強い)が突き刺さる冒頭3曲のインプレッションが最高。特に3.「Invincible Shield」のリードギターなんか、彼らの中でベストリードギターを選んだらかなり上位に入るんじゃないか。それ以降はミドルテンポ曲が増えるが、程よくひねりの効いたギターリフとドラムパターンのお陰で、退屈にならずねちっこいグルーヴとしてプラスに昇華されているし、全体的にエピックメタル系のメロディ(ギターも歌も)が多いのでフックがある。比較的若手のGt.RichieやプロデューサーAndy Sneapの影響だろうか。
メタルの暑苦しさをシンセポップのような流麗さとポップさに落とし込んだ5.「Gates of Hell」、美しいメロディが印象的なパワーバラード6.「Crown of Horns」、前作っぽい直線的な10.「Sons of Thunder」などバラエティにも富んでいるし、RobのVoは先程称賛したハイトーンシャウトだけでなく、中音域についても加齢もあってか渋みと深みが段違い。本編ラスト11.「Giants in The Sky」は先人を追悼する泣ける歌詞を渋く太い中域と血を吐く勢いのハイトーンで歌うエピックメタルチューンでアルバムラストに相応しい。
個人的にオッと思ったのがAndyのプロデュース。正直、ゼロ年代に彼が関わった作品の、モダンで平坦な音作りがマジで嫌いだったのだけれど、本作はモダンな迫力を持ちつつ音の分離が良く、特にギターはラフなニュアンスもある程度残しているのがかなり好みで、彼の手腕も20年かけてかなりハイレベルなものになっていると感じた。
Officium Triste - Hortus Venenum
オランダのデス・ドゥームメタル7th。Transcending Obscurity Recordsからのリリース。
初期ゴシックメタル勢やNovembers Doom、Draconianあたりとの共通も見出せそうな、ミドル~スローなテンポのドゥームメタルでリードギターが泣きまくり、voが低音グロウルで吠えまくりの渋いスタイル。
暗いアートワークに反して、楽曲のメロディは陰鬱というよりは切なく郷愁を誘うようなものばかりなのが良い。感覚としてはメロディアスなデスドゥームというよりものすごく遅いメロディック・デスとしても聴ける。ただし歌詞は徹底的に暗く、魔女狩りの犠牲者、戦災孤児などどれも絶望的なテーマを歌っている。
サビ?のリードギターが必殺級の印象度を持つ1.「Behind Clossed Doors」が好みなら外さないアルバムで、3.「Anna's Woe」6.「Angels With Broken Wings」などは食傷寸前のメロディの洪水に感激。
アルバムのランニングタイムが41分とこの手のジャンルにしては短いのも好印象で、こちらが疲れ始める寸前でアルバムが終わる絶妙な塩梅。
OGRE YOU ASSHOLE - 自然とコンピューター
日本のサイケデリックロックバンド8th。Office ROPEからのリリース。
2011年のアルバム「homely」以降クラウトロック系のミニマルな反復を主軸とする音楽性を主とするOYAだが、本作ではその路線を押し進めつつ、2023年のEP「家の外」でチラ見せしていた「昔のテクノ/ジャーマンロックっぽいアナログシンセリフをバンドサウンドに組み込む音楽性」「徹底的に『ない』『起こらない』という虚無を描写することで虚無や不安を表出させる、着地点のない歌詞世界」2要素をアルバム全編にわたって導入。心地よく体が揺れながら脳の言語野に延々と空虚な不安がなだれ込んでくる異様な経験ができる。
特にアルバム前半はアナログシンセを全面的にフィーチャー。それでいてあくまでバンドの人間らしいゆらぎのグルーヴが感じられる楽曲群が並び、テクノ感はない。
後半も方向性は同様だが若干毛色が変わる。7.「熱中症」のシンセの間抜けさは凄い。熱中症になったときの周囲を認識できているのに関与できないもどかしさを描いているような歌詞と相まって凄まじい虚無感がある。8.「家の外」はEPのどこか緊張感のあるアレンジから変更され、テンポを落とすとともにシンセを一気に前面へ。Kraftwerk感のある仕上がりになり延々と待たされる退屈さ/虚無感だけが残る。最終曲10.「たしかにそこに」は骨格こそ名バラード「夜の船」(アルバム「100年後」収録)に近いのに、調子外れなシンセや気持ち悪いコーラス等によって叙情性が完全に剥奪され、アルバムアートワークのような"何か"を説明しようとして失敗するだけの進展のない歌詞で意味性も剥奪され、「メロウなのになんでもない」という新境地に達している。
とにかく、褒め言葉として「何でもなさすぎる」と言いたい作品。
Pestilength - Solar Clorex
スペインの二人組デスメタルプロジェクト3rd。Debemur Morti Productionsからのリリース。
音楽性としては、海外だとCavernous Death Metal(洞窟デス)、日本だと暗黒デスメタルと呼ばれるタイプの、ドゥームデス系の引きずるようなどす黒くくぐもった雰囲気と複雑なリズムチェンジによる複雑さを併せ持つスタイル。近年流行り(多分)のDissonant Death Metal(不協和音デス)とも近い雰囲気だが、抽象性を追求していると言って良い当該ジャンル群と比べると、こちらはクトゥルフ神話感のあるアートワークにも通じる暗く不気味な雰囲気を志向しており、ある意味でのわかりやすさがある。
旧作ではブラックメタルっぽい要素も取り入れたドゥーミーなデスメタルをIncantation系の暗黒感で包み込むスタイルで、有無を言わせず威圧的に押し切るような雰囲気があったが、本作は少し余裕が出てより多様な手法を展開。全編を通して歪みの少ないファジーなギタートーンが支配的で、それによる歪な雰囲気が良い。旧作で印象的だった水っぽい中~高音のVoは迫力面で更に進化し、沸騰するドブみたいなゲロゲロのグラント/ガテラルボイスに。これがあまりに気持ち悪く素晴らしい。
楽曲もいい意味でこなれてきており、静かなパートを多く含む4.「Enthronos Wormwomb」はポストメタルのような印象すらある。と思えば6.「Dilution Haep」なんかはほとんどCovenant期のMorbid Angelで、「こんなに歪でもやっぱり根っこはデスメタルなんだなあ」という感じ。
白眉は10.「Suhbem Legm」で、クリーントーンも交えた不穏な前半からメロディの輪郭を完全に失い不協和音デス系の雰囲気で進行する後半へ至る曲展開、全く疾走感のない引きずるようなブラスト、下劣極まりないVo、すべてが完璧。
Shuta Hiraki - Lyrisme Météorologique
音楽ライター「よろすず」としても活躍する日本のアンビエント/ドローン奏者の何枚目か不明のアルバム。時の崖からのリリース。
ハーモニウムを小型化したようなインドのドローン楽器・シュルティボックスをメインとしつつ、その音をシンセサイザーの発音や変調のトリガーにもしているらしい。
調律等に関する理論的アプローチは全くわからないので特に言及はできないのだが、絶えず変化し続けるハーモニーの聴き応えが抜群で、おそらく一般的に想起されるドローン音楽の数倍の速度で展開する。シュルティボックスの音の変化に絶えずシンセがレスポンスしているのだろう。2023年にShuma Ando氏と共作でリリースしていた「idiorrythmie」でもシュルティボックスを使用した即興演奏を収録していたが、本作はそれを電子音楽と融合させさらに進展させた印象。変化し続ける和音が心地よく、ずっと聴いていられる。
Spectral Wound - Songs of Blood and Mire
カナダのブラックメタルバンド3rd?4th?アルバム。Profound Lore Recordsからのリリース。
現行オルタナティブ・ミュージックの重要な位置を占めているブラックメタルだが、本作はそういった潮流とほぼ無関係と言ってもいい、Immortalのような王道ブラックメタルとDissectionのような90年代メロディックブラックを純粋に突き詰めて洗練させた正統派ブラック。「洗練」といえる要素はいくつかあるが、まず安定した演奏と優れたサウンドプロダクション。単にハイファイなのではなく、ブラックメタルの様式の一つであるトレモロリフ+喚き声+ブラストビートによる飽和の美学が味わえる平坦さとくぐもりをある程度残しつつ、その上で荒々しい演奏の粒度が聞き取れる絶妙なバランス。
スラッシュメタルの発展型としてのブラックメタルという本来の立ち位置を尊重したアグレッシヴさとメロブラ名作群に勝るとも劣らない旋律が両立している(激しい曲とメロディアスな曲が別れていない)事が嬉しい。全くもって捨て曲なし。
「旧来のブラックメタルを継承」と言うと必ずついて回るのがネオナチ思想問題だが、彼らが反ファシズムを明言している*1のも個人的にはとても好ましい(一応言っておくがもし彼らがナチ信奉者だとしても「NSBMってマジでカスなんだけど悔しいかな、本作の質だけは名作と認めざるを得ない」と悔しがっていただろう)。そういった点も含めて、現代において王道Black Metal入門編の定番に位置づけて良い、欠点なしの快作。
Torturers' Lobby - Deadened Nerves
アメリカのデス/スラッシュメタルバンドデビュー作。Caligari Recordsからのリリース。
「デス/スラッシュ」というと、初期PestilenceやDeathのようなジャンル黎明期の先駆者、あるいはそれらのリバイバル系を指すことが多いが、本作はむしろ現代だからこその路線で、複数メタルジャンルの要素を的確に取捨選択し複合させている。実質的なオープニング2.「Barbaric Alchemy」はグルーヴィーなクロスオーヴァースラッシュ系のリフをOSDMを遅くしたようなひねりの効いたリズムに乗せて意表をついたかと思えば、4.「Captured Pieces」はRepulsionみたいなイントロから爆走するデスグラインド、5.「Reaper's Impunity」は完全にブラックメタル、と見せかけてインストパートはメロデスのような泣きのギターソロ――と、とにかくオールドスクールなエクストリーム・メタルを一通りこなす器用さ。それでいてキッチュさやこなれた感じはまったくなく、あくまで硬派な印象を残す。
前半はPower Trip「Executioner's Tax (Swing of the Axe)」風の最強リフを備えたクロスオーヴァースラッシュ、後半は爆走でスラッシュになる8.「Re-education」、Revocationのような前半からどんどん荘厳なメロディを帯びていく10.「Reptilian Hide」のように、実はかなりモダンで洗練された楽曲も多いのだが、それでも初期デスメタルっぽいアングラ感に満ちているのは、ボーカルの野蛮な中音域グロウルも大きな要因か。
Viva Belgrado - Cancionero de los Cielos
スペインのスクリーモ/ポストハードコアバンド4th。Tokyo Jupiter Recordsと自主レーベルFueled by Salmorejoの共同リリース。
スクリーモとは書いたが、いわゆる激情系やSkramzというよりは、シューゲイザーやエモ、ポストロックをベースとしたロックに時折スクリームやハードコア由来の激しさを加えていくスタイルに聴こえる。
メロウなフレーズを奏でる美しいギターと、その対角線上にいるような生々しく感情的にスペイン語を乗せるvo、冷静なベースラインの対比が心地よい。
静かなポストロックが突如激情ハードコアに展開し美しいギターリフの上をどこか弱々しいvoが叫びまくる構成を基本としながら中盤にフラメンコを挿入するなどひねりも効いている5.「El Cristo de los Faroles」、ドリーミーな浮遊感に溢れ、Voと児童合唱団のコール&レスポンスに驚かされる9.「Jupiter and Beyond The Infinite」、今敏監督作品『パーフェクト・ブルー』を題材に疾走感のあるエモの直球勝負に出ているキラーチューン11.「Perfect Blue」あたりが耳に残る。
アートワークが音楽性を象徴している、普遍的で美しいロック作品。
Zenocide - Ashes Asylum
日本のハードコア/ノイズコア/ドゥームメタル2nd。Daymare Recordingsからのリリース。
ギターレス時代のライブ音源編集盤「Veronica Puts On Silk」しか知らなかったので、てっきりCorrupted的スラッジメタルを常軌を逸した低周波ノイズが完全に覆い尽くすノイズドゥーム系のバンドかと長年思っていたのだが、本作で聴ける音楽はアナーコパンクやKilling Jokeのようなスローなポストパンクにキリキリとした高音ノイズとスラッジっぽい喚きVoを絡ませるハードコアで、まずそこのイメージの違いに驚かされた。
1.「Blood of The Others」は、Killing Jokeの1st収録曲のリフの刻み方をメタル系に置き換えて再構築したような響きで、コーラスだがリバーブだかがかかったポストパンク風ギターサウンドとの食い合わせが奇妙で面白い。3.「V/0/1/d」も同様の路線だがよりドゥームメタル的アプローチで、アウトロがBlack Sabbathの「Black Sabbath」オマージュなあたり意図的だろう。6.「She.」のように完全にドゥームメタルな曲もあるのだが、こんな曲でもギターの音処理は完全にポストパンク、ときにシューゲイザー的ですらあり、そういった一見いびつな融合がしっかり個性として決まっているのがかっこいい。合わなそうな具材をミキサーにかけたペーストを未調味で飲まされているのに美味い、みたいな不思議な感覚がある。
なんとなくハードコア/デスメタル等の界隈のバンドなのでそういう界隈(服装がクラスティーな方々の集団など)意外にはあまりリーチしていないバンドだと思っているが、上述した通り「邪悪なポストパンク」というのがおそらく正確な表現なので、もっと多くの人に聞かれてもいい作品に思える。
CDの装丁も見事で、プラケースへの直接印刷とブックレットの代わりに入っているアクリルボードを組み合わせたレイヤー表現のあるアートワークがかっこよすぎ。
キンモクセイ - 洋邦問わず
「二人のアカボシ」「さらば(アニメ『あたしンち』OP)」などのヒットソングで知られる日本のポップ/ロック/フォークバンドの6thアルバム。グレースプロジェクトからのリリース。
メジャーリリースだった1stアルバムしか知らなかったのだが、当時にしても時代錯誤だったフォークサウンドをベースに青臭い熱を歌ったあの頃から、楽曲も歌詞もいい意味でやや落ち着いてムーディーな方向に発展している。
YUKI、星野源あたりが似合いそうなゼロ年代風J-POPに乗せて2020年代を生きるおじさんだからこそ歌える時代性と穏やかさを帯びた愛を歌う2.「君のくしゃみ」、超テクニカルな演奏に乗せて中年の悲痛な諦念を歌うヒトリエ系高速ダンスロック4.「モラトリアムからサナトリウム」、「4人はアイドル」みたいなタイトルや突如劣化する音質など完全にThe Beatlesな6.「4人はキャンドル」、爽やかなボサノバ7.「いつもの朝」、80年代ヒット洋楽っぽいキーボードと桑田佳祐やマキシマムザ亮君のような英語発音風日本語の組み合わせが面白すぎる8.「強引にLOVE」、辛くうまくいかない人生を視点を切り替えさせずに「本当のあなたが見えたのならそれでいい」と肯定する歌詞とドゥーワップ・コーラスが美しすぎる10.「この世の果てまで」など、アルバムタイトル通り時代を超えた様々な洋楽/邦楽のロック/ポップスを彷彿とさせる。それらの膨大な要素を彼らの歌謡フォークロック色に優しく染め上げる力量はさすが。
音楽に詳しい人はインスパイア元を考えるだけで楽しいだろう(私は全然わかりません)し、そうでなくても単純にポップミュージックとして凄まじくできが良い。
ツンベルク管 - ナットとボルト
日本のオルタナティブロック系ボカロP(voは初音ミク)の1st。セルフリリース。
正直オルタナロックに全く明るくないのでどういうバンドと比較しうるのかよくわからないが、ふた昔前のOGRE YOU ASSHOLEあたりも連想するような、クリーントーンのギターを多用した楽曲に朴訥とした歌詞が乗る。
前半はメロウな雰囲気が心地よく、特に切ないロックバラード5.「電球(Naked.)」はOYA「夜の船」あたりと比肩しうる美しさ。
前半も良いのだが凄まじいのが後半3曲。このまま消えてなくなるのではというくらいスカスカな7.「千葉都市モノレール」を経て迎える10分弱のタイトルトラック8.「ナットとボルト」が、クラウトロックのごとく淡々と続くミニマルなリフ2つを背骨にして、ディストーションギターも交えつつドラマティックに展開する良曲。この大曲が終わったあとにラストに置かれた9.「月に帰るわ」が初期スガシカオがやっていたような、素朴で、寂しくも前向きなポップソングなのも良い。
仲村宗悟 - carVe
声優(『アイドルマスターSideM』天道輝役など)としても活躍するシンガーソングライターの3rdアルバム。Lantisからのリリース。
ここ数年のシングルを中心とした、半ばコンピレーション的構成だが、暑苦しいファンクと爽やかなポップロックの強力な二本柱でまとめられており寄せ集め感は無し。
ほぼすべての楽曲が、仲村宗悟自身の作詞作曲と、GLAYのサポートメンバーとしても活躍する村山☆潤による編曲というバディ体制の楽曲をバンド編成で演奏するスタイルを採用しており、「オケ」にとどまらない躍動感ある演奏が聞ける(特に3.「fist of hope」とか)。仲村の歌唱は彼のよく通るややハスキーな声質を全面に押し出しており、ときにENDLICHERI時の堂本剛っぽく聞こえるときも。
ライブ映えしそうなシンガロングを備えた新曲1.「僕らのうた」、メロウなジャズ/ソウル風の楽曲でつかの間の休息を歌う4.「WINNER」(アニメ『ブルーロック』ED)、暑苦しいファンクに乗せて実体験っぽいイライラを歌う9.「Oh No!!」など、キャッチーな楽曲がアルバムのポジティブな印象を作り上げるが、そんな中で大事な役割を果たすのが中盤の2曲。
マイナー調のメロディーを凝ったアレンジで仕上げた、どこか残響系の雰囲気がある8分の6拍子の5.「流転」(アニメ『最遊記 RELOAD』ED)がアルバムの印象を一旦グッと陰鬱に切り替え、6.「壊れた世界の秒針は」(アニメ『RE-MAIN』ED)がその陰鬱さを引き継いだイントロ~ヴァースで始まるも、ドラマチックな曲展開で大団円を迎えてアルバムを仕切り直す流れは、無関係なタイアップ2曲のメドレーとは思えない素晴らしさ。この曲は2:58あたりから入るファズとコーラス?がかかった至極シンプルなギターソロの使い方も素晴らしい。
仲村はアイドル声優的な側面があり無数のキャラソンを歌っている人物で、私も天道輝の楽曲はかなり聴いていたけれど、本作は「彼という歌手を最も使いこなせる作曲家は彼自身だろう」と確信させる一枚。
ユウレカ-AltX
徳島のノイズロック/インダストリアルロックバンド2nd。Deaf Touch Recordsからのリリース。
X(旧Twitter)で彼らのライブがバズっていたのを機に知ったが、54-71のようなスカスカのグルーヴ感やgoat(日野浩志郎)のような複雑なリズム構成を、よりによってShellacのような刺々しいサウンドでまとめ上げ、その上にスポークンワードとハードコア系スクリームを行き来するvoが乗るユニークなスタイル。
これでもかとシンコペーションを多用するリズムに半ばメタルパーカッションと化したノイズギターが絡む楽曲は、一聴すると「確かにユニークだが流石に難解過ぎる」と思わせられるが、どの楽曲も必ずドラムがシンコペーションをなるべく排除した、いわば「ノリ方の答え合わせ」のようなパートがあるのが面白い。
日本でアルビニ系ノイズギターサウンドの継承者というと個人的にはSPOILMANやTorrが思い浮かぶが、ここまで難解な形で仕上げたバンドは初めて知った。
voスタイルも「ややテンション低めにずっと激怒している」といった風情の威圧感がありグッド。
綿菓子かんろ - リサージュの風景 - Landscape of Lissajous
いわゆる「個人勢」Vtuberの1st。Alliaria Recordsからのリリース。作曲家Talich Helfenとのタッグでの制作。
vo、コーラス、正弦波のみで構成された作品で、多分ジャンル的にはアンビエントポップや歌もののエレクトロニカなどに分類されるもの。
とにかくひたすらに美しく、優しいメロディの絡み合いが心地よい。当初はリズムパートすら無い(アタックを強調してパーカッシブに鳴らされるベースくらいはあるけど)ことに面食らったが、聴き込んでいると、彼女のVoと変調した正弦波に「かすかなざらつきを伴っていながら透明な印象を与えるよく通る音」という共有点があることが見えてきて、本作の構成が本作の楽曲を演奏するうえで形成する「一体感」の最小構成単位であることが納得できるようになっている。この「最小構成単位」という点では弾き語りのフォークソングなんかとも共通点が見いだせて、一種の素朴さがあるところも味わい深い。
クライマックスはやはり聖歌的な神々しいボーカルハーモニーが印象的な6.「邂逅」から正弦波、Voともに開放感のあるメロディを優しく高らかに歌い上げる
7.「連奏」の流れ。
実は同年リリースした2ndアルバム「クヴェールと貼箱 - Couvert et Cartonnage」も年間ベスト級の素晴らしさで、本作とは全く異なったワールドミュージック、ミニマル、プログレのハイブリッドポップなのだが個人的に同一ミュージシャンから2作あげたくないので泣く泣く1stのみ選出。
選外作の良かった曲(順不同)
米津玄師 - さよーならまたいつか!(「LOST CORNER」収録)
すべてが完璧な日本語ポップス。この100億点の曲を超えてない曲ばかりという贅沢な理由で「LOST CORNER」は選外に。
綿菓子かんろ - シャッター(「クヴェールの貼箱」収録)
本当は本作もベスト級。ライヒを引用したイントロから鮮やかにプログレポップに移行する多幸感に満ちた一曲。
Linkin Park - The Emtiness Machine(「From Zero」収録)
新voの顔見世楽曲でありながら1番はMikeが歌って焦らす演出が憎い。あの頃の熱さを現代に蘇らせるオルタナメタル。
The Velvet Eclipse - Tripping Through Daisies(同名作収録)
アメリカの日本語シューゲイザー。イントロから続く9mmが耽美化したような印象的ギターリフ、疾走感のある楽曲、叫ぶような女性Vo、低音質、すべてが最高。
Dos Monos - QUE GI(「Dos Atomos」収録)
曲はかっこいいもののギターの音作りがつまらなかった本作において、大友良英のターンテーブルノイズによる圧倒的に鋭いトラックで突出していた曲。
Bring Me The Horizon - Kool Aid(「POST HUMAN: NeX GEn」収録)
ゼロ年代リバイバルと現代のトレンドが融合した本作においておそらく最もライブ映えしそうな楽曲。このクラップもコールも絶対にライブでやってみたい。
Wolf Creek - Alpha Comae Berenices(UNCIVILIZED GIRLS MEMORY /Wolf Creek「ANGELIC CONVERSATION(Split)」収録)
多様なノイズ像を提示する本作において最もクールなハーシュノイズ。当初現れたメロディにWolf Creekの壮絶ハーシュノイズが完全勝利する実況録音。
9mm Parabellum Bullet - 叫び-The Freedom You Need-(「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」収録)
相変わらず高湿度でハイテンションな9mmの新譜から、最もラウドな楽曲のひとつ。インストパートがこれまでなかった雰囲気で、3:20あたりからはデスメタル的ですらある。
Morgan Garrett - Alive(「Purity」収録)
ポストパンクやスカムなブルースなどをインダストリアルロックのセンスで再構築したようなアルバムの1曲目で、ブッチギリで重くて怖い「Swansの存在しない曲のRemix」みたいなジャンクロック。
Coffins - Sinister Oath(同名作収録)
うねるリフと地を這うVoによる国産オールドスクールデスドゥーム。重いまま疾走するパートもかっこいい。
Warlord - Conquerors(「Free Spirit Soar」収録)
2021年に死去したギタリストへの追悼作。クサくてドラマチックなギターがたまらないエピックメタル。
SEGUE-4 - 無態河(「LAYER:ASYL」収録)
日本のインダストリアル/ゴシックユニットの新作から。BUCK-TICK、平沢進、ソフトバレエあたりを参照したような意欲作から、最もVoの素晴らしさが伝わる楽曲。
Dark Tranquillity - Unforgivable(「Endtime Signals」収録)
ベテランメロデスの疾走曲。切れ味のよいイントロ~ヴァースで高揚したところにサビの切ないギターで完全にノックアウト。サビをアレンジしたギターソロも最高。
Viscera Infest - Teratoma(同名作収録)
大分瞬速ゴアグラインド。常軌を逸したスコココココココココなブラストとデスグラインドなリフのせめぎあいがクール。下品を極めたVoも相変わらずの良さ。
The Messthetics and James Brandon Lewis - Emergence(「The Messthetics and James Brandon Lewis」収録)
元Fugaziメンバーを含むバンドとサックス奏者のコラボ。ポストパンク風サウンドとサックスが絡み合う、疾走感とグルーヴに満ちたインストジャズロック。
旧譜
and more... - proof of existence
日本のハードコアパンクバンド2022年1st。
ユーモラスなノイズグラインドバンド・西之カオティックとのSplit発表、フライヤー表記をおちょくりたいとしか思えないバンド名などから、勝手にジョーク風味の強いバンドだと思っていたが、出音はこれがもう完全無欠のD-Beat(Dischargeみたいなハードコアパンク)。Disorder系ノイズコアっぽいジャギジャギしたギター、ドカドカとやかましいドラム&ベース、裏返る寸前の高音Voが楽曲の体感速度を引き上げる。
Cryptae - Capsule
オランダのアヴァンギャルドデスメタル2022年2nd。
実はリリース時に意味不明すぎてスルーしていた怪作。パンク的軽い音作りのギターが無調っぽいシンプルなリフを執拗に繰り返すコンパクトな楽曲が並ぶ。
当初は聴き方がわからなかったが、ミニマルテクノやポストパンク、インダストリアル等の無機質反復音楽の視点で聴くと凄まじく面白いことに気がついた。執拗なリフはエクストリームメタルのカタルシスを放棄し、単調さで不安感を煽るように作られているが、かろうじてデスメタルっぽい曲展開とドラミングによって強制的に「デスメタルだったこと」にされている。不協和音も多用されるが、いわゆる「不協和音デス」とも一切リンクしない。
1曲目のデスメタル版「あんたがたどこさ」みたいなリズムからして斬新すぎ。ドラムとリフのユニゾンでミニマル音楽とデスメタルの中間で暴れる4.「Billow」や8.「Sessile」、チープなエレクトロ系サウンドも加わり更に意味不明な5.「Salt」など聴きどころ多し。
アートワークの「何だこれは」感が音にも全開の怪作かつ快作。
Embody The Chaos - Awakening of Chaos
markmywordsrecords.bandcamp.com
日本・山形のメタルコア2017年1stミニ。
いわゆるミリタント/エッジメタルとも言われる、ニュースクールハードコアが根底にあるタイプのメタルコア。ハードコアリフに悲壮な旋律を仕込むHeaven Shall Burn系の楽曲に、Cancer Batsあたりにも近い高音スクリーチ主体のVoが乗る。HSBと違い、わかりやすくためて落とすブレイクダウンやコールパートを随所に用いており、「おっここからモッシュパートだな」と分かる感じがあくまでハードコアという感じがして楽しい。特に終盤2曲は4.「Conviction」がニュースクールHC系、5.「I Heard The Calls of Blood」は叙情メタルコア系とバンドが持つ二面性をうまく分担させていて良い。
fishbowl - 王国
静岡を拠点に活動するアイドルグループの2023年2ndアルバム。
ディスコやファンク、エレクトロポップの楽曲が中心。特に前半の出来が凄まじい。
粘着質なファンクに熱いシンガロングを乗せる1.「開幕」から"ねっ?(パッパラッパ)"という洒落た歌詞でタイトルを回収するサウナ・ディスコ2.「熱波」へ続く流れが最高に盛り上がる。ファンクポップ4.「完食」、爽やかで切ないシスターフッド讃歌("君と僕は「今までなかった、よくある仲」になろうね/それでも説明できないとこにいこうね"あたりが個人的に好き)のレゲエチューン5.「茶切 cute side」、同曲と同じテーマをほの暗くリメイクして宇多田ヒカルっぽい歌メロを乗せたエキゾチックなEDM7.「茶切 dope side」と名曲揃い。後半は好みから外れるのだが爽やかな雰囲気は良いので前半の熱気を爽やかに冷まされるようでなかなか悪くない。
ジャケットがDeep Purple - Fireballのパロディなのは静岡が「サッカー王国」を自称しているかららしい。
Infernal Gates - From The Mist of Dark Waters
スウェーデンのメロディックデス/ドゥームメタルバンド1997年唯一作。
英語圏メディアではデスドゥームと扱われることも多いようだが、実際の音楽性としては遅くて長いメロデス。Peaceville系ゴシックドゥームの雰囲気もなくはないが、最大の特徴はIn FlamesやAmorphisのように北欧の民族音楽の旋律をゆったりとしたメタルギターに落とし込むセンス。1曲目の三拍子スローメロデスがハマる人ならおすすめできる。バンドは25年前に解散、メンバー全員が音楽活動停止しておりCDはプレミア化。ロシアで海賊盤的リイシューがされているが、サブスクで普通に聴ける。
Isole - Anesidora
スウェーデンのエピックドゥームメタルバンド2023年8th。
これまでと変わらずCandlemassをゴシックに大きく傾けたようなクリーンボーカル主体のドゥームメタルをやっているが、今までよりかなり洗練されてB級っぽさが完全に抜けた印象。ドゥームメタルなのでもちろん暗くて重いのだが、スラッジドゥームやデスメタル的に聴こえるような荒々しい要素を徹底排除し、印象としてとにかく上品。旧作ではときに平板な印象があったVoも、メタル的抑揚を排した丁寧で優しく、それでいて朗々とした歌唱でアルバムの雰囲気にマッチしている。個人的キラーチューンはドラマチックなリフと美しくどこか爽やかであるvoが印象的な1.「The Songs of The Whales」と、作中最もヘヴィでグロウルとのツインボーカルと壮大なサビが素晴らしい5.「In Abundance」あたり。
Liiek - Deep Pore
ドイツのポストパンクバンド2022年2nd。
シニカルで中毒性のあるリフ、淡々としたリズムセクションがGang of Fourを彷彿とさせるスタイルで、Voがむやみやたらに情熱を込めてヘロヘロと叫んでいるのも良い。その妙な熱さのせいで、2.「Object」等、一部楽曲で初期Black Flagを想起させる瞬間もあるのが個性的。パーカッションを導入して最近のトリプルファイヤーっぽさもある3.「Constructed」、各曲にちょっとしたひねりが効いていて楽しく聴ける。2020年のセルフタイトルもおすすめ。
Morbid Stench - The Rotting Ways of Doom
エルサルバドル/コスタリカのデスメタルバンド2022年2nd。
音楽性としては根底にオールドスクールデスメタルがあるタイプのどろどろとしたデスドゥーム。特徴的なのは陰鬱さをまとったまま大量に導入されるフューネラルドゥームっぽいメロディアスなギターで、どの曲も6~8分と長めだがダレずに聴ける。それでいて低域で刻むデスメタルらしいリフと邪悪なグロウルボーカルが通底しているので弱さもない。3.「Ekleipis」では数少ないファストパートが聴けるが、荘厳なリフで爆走するかっこいいデスメタルになっている。7分半ずっと絶望的な空気が支配する5.「Iconoclast Reverberations」は格別の重さ。
あまり詳しいシーンではなけどここ数年のデスドゥームの中でも目を見張る快作ではないか。
ちなみにこの作品は「米沢エクストリーム*2」の物販でAnatomia/田中商店の田中氏に「最近だとTransgressorの新作とか良かったんですけどおすすめありますか」と聴いてレコメンドしていただいたもの。マニアにおすすめしてもらうマイナーデスメタルが一番いい!
Mortual - Evil Incarnation
コスタリカのデスメタルバンド2023年2ndEP。
オールドスクールなデスメタルを追求する、いわゆるリバイバル勢の新星。リバイバル勢らしくタイトな演奏と聴きやすい音作りでありながら、モダンなメロディやグルーヴを注意深く避けた楽曲とくぐもったロウなVoがアングラ感を担う。
一曲目は昔のCannibal Corpseっぽいうねるリフから始まるが、全体的にはSadistic Intent的な腐敗臭を湛えたまま高速で展開。ちょっとしたリズムのひねりが単なる先人の模倣からは一線を画している。遠目で見るとなんとなくNecrot新作っぽいアートワークも含め、これぞ現代のOSDMという感じでかなりおすすめ。
Nashgul - Oprobio
スペインのグラインドコア・バンド2023年3rd。
あまりコメントすることがないくらいド直球の超かっこいいグラインドコア。メタル度も低めでリフもほぼハードコア系。Rotten Soundや324、最近のバンドで言うSickrecyとかが好きな人に大推薦。
Nirriti -অসূর্যস্পর্শা(Asuryasparsha)
インドのブラックメタルバンド2020年デビューEP。
インドの祭祀と思しき不穏なサンプリングSEを時折挟みながらグシャグシャの音質、高速ブラストビートが延々と続き音の塊と化したいわゆるノイズブラックメタルスタイルの楽曲が延々と続く。voもリバーブのかかった喚き声が遥か彼方から、グロウルがやや近くから聴こえるツインボーカルだが掛け合いにもユニゾンにも聞こえずただ騒音の補助をするのみ。ブラックメタルっぽいギターは聴こえるが音が潰れすぎてメロディは聞こえるような聞こえないような塩梅。ただ壮絶で不気味な何かが駆け抜ける20分がかっこいい。ラスト数分のSEの使い方も不気味で良い。
Purified in Blood - Reaper of Souls
ノルウェーのメタルコア/メロディックデスメタルバンド2006年1st。ハードコアの、それもストレートエッジ界隈を出自としているバンドだが、本作はRunning WildやIron Maidenのような直線的バンドロゴや死神ジャケからもわかるようにほぼメタル。スラッシーまたはアップテンポな楽曲、メロディアスなリフ、高低デスボイスのツインボーカルで、ハードコアっぽいパートも含むメロデスと言った趣。楽曲の質は高く、正直Darkest HourやUnearthあたりの傑作群と同列で語られていいバンドのように思える。
なお2025年に新作を出す予定だが、そちらは歪みの少ないギターでMastodonっぽい雰囲気を導入したり、ゲストボーカルによる喉歌が使われたりと、メロデスとかメタルコアと言うよりなんだか10年代以降のプログレメタルっぽい雰囲気。
Rapture - Malevolent Demise Incarnation
ギリシャのデスメタルバンド2021年3rd。
Deathや初期Pestilence等に代表される、スラッシュメタルからの正統進化のさなかにあったタイプのデスメタルをプレイ。アルバム全体がスラッシュメタル由来の凄まじいスピード感に満ちているが、その上でデスメタルらしいヘヴィネスと複雑なリズムチェンジもあるので、Malevolent Creation的な雰囲気もあるというバランスが良い。6.「Birthrape...」や7.「Herald of Defiance」あたりは90年代のプログレッシヴ/テクニカルスラッシュの香りもする複雑なリフが出てきてひねりが効いている。
今年Obliteration Recordsから再発された2018年2ndも素晴らしい出来で必聴。
Rêvasseur - Talisman
ベトナムに赴任したGt福田悟司(日本ではFrostvoreのメンバーとして活動)が現地ミュージシャンと結成したメロディックデスメタルバンド2023年1st。
クリーンボーカルなし、基本的にはヘヴィでところどころの流麗なリードギターで魅せるタイプの硬派なメロデス。In Flames - Whoracleあたりの路線を洗練させた感じで、爽快感も抒情性も高い。2.5.7.9曲目あたりが好み。福田氏は日本のDoom Metal系レーベルDoom Fujiyamaをベトナムに招聘するなど、日越のメタル隆盛に尽力されているようで凄い。
Reversal of Man - This is Medicine
アメリカのスクリーモ/エモヴァイオレンスバンド1999年唯一作。
界隈ではOrchid、Combatwoundedveteranなどと並んで伝説的な扱いらしい。
速い、速い、超メロディアス、絶叫一辺倒と、「スクリーモ(Skramz)/グラインドコア/パワーヴァイオレンスの融合」と聴いて思い浮かぶそのままの音が出てくる。メタルとの直接的関連性は見られないが、エモ的なギターのかき鳴らしをグラインドコアの速度でやって絶叫を乗せると必然的にブラックメタルの雰囲気を帯びるのが個人的には興味深く、City of Caterpillarやenvy、heaven in her armsみたいなポストロックっぽいスクリーモ、ConvergeやCave inみたいなカオティック系メタルコア、Coholみたいな直接的ブラックメタルハードコアと並べて収斂進化的なものの見方もできるのかなと思った(またエモがオルタナロックと関連性が深いことを踏まえるならブラックゲイズも加えて良いかも)。
Touché Amoréのメンバーがフェイバリットに挙げている*3のもわかる、オリジネイターであることを抜きにしても理想像的アルバム。
Sissy Spacek - Sissy Spacek
アメリカのノイズ/ノイズグラインドバンド2001年EP。
広義のノイズグラインドに該当することであれば大抵なんでもやっているこのバンドだが、極初期のリリースである本作はカットアップハーシュの手法でハーシュノイズ、グラインドコア、サンプリングをごちゃ混ぜにしたスタイル。
目まぐるしく切り替わるノイズは痛快の極みなのだが、単に目まぐるしいだけでなくパワーバイオレンス的ストップ&ゴーのセンス、不良品のCDのようないびつなループを適材適所に配置してキャッチーさも生み出すなど、すでにベテランの貫禄がある。
リリースごとに全く音楽性が変わるバンドだが、ハーシュノイズやノイズグラインドファンなら最初に聴くべきはこれ。
The Stools - R U Saved?
アメリカのガレージロック/パンクロックバンドの2023年1st。
キャッチフレーズの「Nuggets(有名なガレージロックコンピ) Vs. Killed by Death(有名なパンクロックコンピ)」ですべての説明がついてしまう、Stoogesやギターウルフ系のサウンドをハードアパンクの攻撃性を加えて勢い良くプレイするスタイルの超ガサツなロック。
元気で荒くて最高!以外にあまり言うことはない。バンドの個性としては、Voの歌声が本当にものすごく汚い。MotÖrheadオマージュなのかもしれない。
Tales of Murder and Dust - Fragile Absolutes
talesofmurderanddust.bandcamp.com
デンマークのゴシック/ポストロックバンド2020年3rd。
クリーントーンのギターが陰鬱なリフを爪弾き、ときにシンセかストリングスのドローンが加わり、ドラムは音数とベロシティを抑えて淡々と叩き、Voはゴシック/ニューウェーブ系の低音というどこを切り取っても寒々しく陰鬱な音像。氷か水面に写った曇天というアルバムアートワークはピッタリ。
スネア/バスドラ/ハイハットが同時に使用されるような、ロック/パンクらしいビートを形成することは稀で、ゴシックロック大御所やニューウェーブが持つ一種のダンサブルさとは無縁。アンビエントやフューネラルドゥームを聴く気持ちでいたほうが楽しめる。バンドはDarkwave/Post-Punkと称しているけど一般的な感覚ではポストロックが一番近いと思われる。
かなり大きな括りで「雰囲気モノ」が好きなら楽しめると勧めたい作品だが、自分が雪国在住で、この選評を冬に書いているということがバイアスになっている可能性もありそう。
Toxic Piss - Toxic Piss
スウェーデンのハードコアパンクバンド2020年EP。
「毒しょんべん」という最悪のバンド名、それを体現するフィジカルが欲しくなくなるアートワークとは裏腹に、音楽性は超真面目なハードコアパンク。ヒステリックと言っていいくらい勢いが凄まじく、最速曲2.「Autopilot」はブラストビート主体でほぼグラインドコア。切れ味よく歪みきったVoの声質もかなりよく、スラッシュメタルを歌ってほしいタイプ。
Wildfire - Summer Lightning
イギリスのヘヴィメタルバンド1984年2nd(最終作)。
NWOBHMムーブメント末期の短命バンド。Voはデモテープも出していない極初期のIron MaidenのメンバーだったPaul Mario Day。
音楽性としては、Praying Mantis系の哀愁と爽やかさが同居したド直球のHR/HMに、当時のラジオヒットも視野に入れてか80年代売れ線HRっぽいポップさを加えたもの。当時ヒットを試みたメタル作品は今聞くと失笑ものなことも多いが、本作はメロディのセンスが良いのでむしろかなりハマっている。Earthshaker「Radio Magic」みたいで愛嬌がある3.「Summer Lightning」、当時のメジャーバンドに引けを取らないメロハー6.「Nothing Lasts Forever」など。
ポップさを志向しない曲の出来も素晴らしく、激熱スピードメタル2.「The Key」、Manowar的硬派なリフにパワー・メタル系の歌メロ、最後に炸裂するギターソロが完璧な11.「Screaming in The Night」が特に良い。
まとめ
俯瞰するとデスメタルやや多めか。私生活がバタバタしてスルーした音源も多かった。
様々な音楽の特徴を一歩引いて捉えることで、自分がどんな音楽をどんな要素でもって好いているのか仮説を立て、理屈上好き/嫌いになるはずの音源を聴いて検証する……みたいな遊びを通じて、自分の趣味趣向が以前より少し明確になった一年のように感じる。
今年もメタルを中心にいろんな作品を聴こうと思います。
番外(自分の2024年音楽活動)
16.「欲望の樹」でVo。Johan Liiva風に感情的に喚いたりマキシマムザホルモンのダイスケはん的にリズミカルな早口をやったりと頑張った。
「アカペラのノイズグラインド」の可能性を模索すべくデモ音源作成。Napalm Death、Mr.Big、ヤンデレCD等のカバー収録。
ハーシュノイズソロで数年ぶりにライブ出演。