ウゴガベ

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2023 Album of The Year &良かった旧譜各20枚

2023年ベスト&2023年に聴いた旧譜ベストです。

前提

・新譜と旧譜それぞれ20作選出。
・1アーティスト/バンド/ユニットつき新旧合わせて1作。
・当該アーティストの旧作や文脈、ジャンルのトレンド等を把握しないまま選出している作品も多い一方で「当該アーティストの文脈を踏まえるならば傑作」という作品もある。評価基準は正直バラバラ。
・旧譜については有名無名問わず。伝説的名盤とかも今年始めて聴いてよかったものであれば平気で載せる。
・作品ごとの文章量は当該作品の評価の高低に比例しない。
・順位は無し。順番はただ単にアルファベット順→五十音順。
・アルバムだけでなくEP、スプリットを含む。
・リイシュー作品は今年まで入手がほぼ不可能なものであったとしても旧譜。録音時期が古くても初リリースが今年であれば新譜。
Twitterや過去の日記でレビューした作品の場合はその投稿を要約した文章で済ませている場合がある。
・解釈的な意味でなく、知識的な意味での明らかな誤りがもしあれば教えていただけると大変ありがたいです。

2023年新譜

Church of Misery - Born Under A Mad Sign

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東京ドゥーム/スラッジメタル7thフル。これまで通り、シリアルキラーを題材に、ズルズル引きずるようなスラッジチューンにクラシックハードロック、ブルースのエッセンを紛れ込ませるスタイルは不変。メンバーチェンジがあったようで、初代voが復帰。これが長いブランクからの再合流とは思えないようなハマりっぷりで、やや高めに叫び散らしつつもメロディラインがわかりやすいvoスタイルは、スラッジらしい汚らしさや殺伐さの演出はもちろんのこと、ドゥームメタルがあくまでハードロックの極北であることを再確認させられるような「ロックボーカル感」にも満ちている。Gt、DrもサポートでEternal Elysiumのメンバーになっているらしいが、悪影響は全く無く、むしろいい意味で若干フットワークの軽いフレーズが増えた気がしないでもない。

 

Daemonian - The Frost Specter's Wrath

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日本ブラックメタルソロ2nd。
メロブラ黎明期の、メロデスメロブラ、スウェディッシュデスメタルの名バンドが群雄割拠だった90年代バンドたちをリスペクトしたような雰囲気も感じる作品。スピード感を維持しながらも頻繁なテンポチェンジ、高低使い分けるボーカルでメリハリがついている上で、とにかくギターリフが北欧系メロディの洪水で激しさと聴きやすさが両立している。刺々しいギターサウンドも気持ちいい。最終曲の壮絶さは白眉。

 

Festerdecay - Reality Rotten To The Core

everlastingspewrecords.bandcamp.com

福岡ゴアグラインド1st。これまでEPやSplitで披露していた1stまでのCarcassをリスペクトするピュアゴアグラインドを基本的には踏襲しており、ドロドロ&超ヘヴィな音像でブラスト&ゲボゲボな楽曲が最高に楽しい。アングラ感漂う重苦しい音作りもクール。加えて面白いのは、モッシーな4.「Disintegration of Organs」やラフなコーラスが入る9.「Exposing The Skin Tissue」などの一部楽曲にあるニュースクールハードコア感。Carcass Warshipなスタイルでありながら現代的でかっこいいゴアに仕上がっている。

 

gridlink.bandcamp.com

アメリグラインドコア9年ぶり4th。高速ビートの上にジャパコアとも激情系とも歌謡曲風とも取れぬ個性的な泣きメロディを前面に出すTakafumi Matsubaraの高速ギターとJohn Changの絶叫が乗るメロディックグラインドコアは更に磨きがかかり、SFモチーフの色が強かった旧作に比べてメロディが悲しさ、儚さの方向に超強化された。それでいて攻撃力は一切低下していない。ドラマチックかつ不穏な3.「Pitch Black Resolve」はじめ全曲がハイライトの作品で、トータル20分しかないが情報量はそれどこではない。彼らの最高傑作と言って良いし、個人的には2023ベスト。

 

Ignominy - Imminent Collapse

ignominydeath.bandcamp.com

カナダデスメタル1st。GorgutsとかUlcerateとかの系譜にあるいわゆるDissonant Death Metal(不協和音デスメタル)。ただ、奇怪なフレーズに満ちた楽曲でありながらも、比較的シンプルなリズム構成と、怒号のような力強いボーカルにより、ストレートな暴力感との両立ができているのがとても良い。オールドスクールデスメタルと不協和音デスを直接繋いだような面白い作品。不気味で名状しがたいキモいリフと力強いリズムの組み合わせで不快なんだか痛快なんだかわからなくなる3.Reminisence of Hatred、とにかく厭で壮絶な雰囲気の5.Nightmare Bacteriaが最高。

 

ikd-sj - 死んだ雪白中毒者にキスを

ikd-sj.bandcamp.com

日本のオルタナティヴ/アヴァンギャルドメタル7th。フリーダウンロードor会場の手売り。全く知らなかったが20年近く活動しているバンドらしい。音楽性としてはKORNやStainedなどの病み系Nu-Metal、インダストリアル、激情ハードコア、00年代のDir en grey、10年代以降のヒップホップなどをごちゃ混ぜにしたような、掴みどころのないまま病的な迫力をぶつけ続ける異様な音楽。VoはNu-Metal流儀に則ってラップと図太いスクリームを使い分けるタイプだが、ラップがヘラヘラした口調で苛烈な言葉を吐くのは当時のバンドにはなかったスタイルだと思う。アルバム前半はインダストリアルメタル寄り、後半はNu-Metal寄りだが、ジャンルの類型に100%当てはまっている曲は一曲もない。凄まじい傑作かつ怪作だと思う。

 

In Flames - Foregone

inflamesofficial.bandcamp.com

スウェーデンロディックデス/オルタナメタル14th。モダンメロデスの名盤である2006年8th「Come Clarity」期あたりへの回帰を感じさせる楽曲がどれも素晴らしく、Take This Lifeを凌ぎうる代表曲候補がいくつも生まれている。アルバム全体では別に「メロデス原点回帰」はしておらず、前作の2019年13th「I, The Mask」までの主軸だった、分厚いコーラスが印象的なクリーンボイス主体のオルタナメタル楽曲も多い。ただ前作までと違うのは、後者路線の曲も出来がだいぶ良いこと。彼らが「ナヨい壮大さ」とでも言うべき個性を2011年10th「Sound of The Playground Fading」で獲得して以降バンド自身がその強みを忘れてしまっていたっぽい節があったが、今作でその側面も完全復活と言って良い。1997年3rd「Whoracle」あたりの雰囲気をリファインしたような三拍子ケルティックメタル6.「Foregone Pt.2」や、AndersのかつてのサイドプロジェクトPassengerのグルーヴ感覚を思い出させる10.「A Dialogue In B Flat Minor」など、キャリア集大成の感がある傑作。最後の曲だけマジでクソつまんねえんだよな

 

Kabeaushé - “HOLD ON TO DEER LIFE, THERE’S A BLCAK BOY BEHIND YOU!”

kabeaushe.bandcamp.com

ケニアヒップホップ2ndフル。1st「The Coming of Gaze」も今年、今をときめくNyege Nyege Tapes(メタルファン向けに説明するならDumaのセルフタイトルを出したとこ)のサブレーベルHakuna Kulalaからリリースしている。ヒップホップ、それもケニアとなるとジャンル的なことは全くわからないので下手なことは言えないが、本作は個々の要素は「実験的」「ハイブリッド」と言えるような実験的マテリアルの集合体なのに、曲全体だと「ブチ上げ」「祝祭」「熱狂」などのワードがピッタリのハイテンションなヒップホップになっているのがすごく面白い。ボイスループ主体で作られる中毒性抜群のトラックが祭りの掛け声を連想させるのだろうか?1stはまだ門外漢の感覚としては「Tyler, The Creatorみたいな"アーティスティック系"(なんて雑な表現だ)」の雰囲気なのだが、本作はすべての要素がリスナーを「なんかわかんないけど楽しくなってきた!」の方向に持っていくために使われており、へんてこなのだがとにかく楽しく笑顔になり体が動く。ケニアのヒップホップはみんなこうなのか?と思いいくつか聴いてみたがどうやら違うらしい。

 

Kruelty - Untopia

kruelty666.bandcamp.com

東京のメタリックハードコア2ndフル。いわゆる「極悪ハードコア」などと言われるタイプの音楽性(あってますか?)だが、本作はかなりデスメタル、それもオールドスクールな「デス・ドゥーム」などと呼ばれるタイプの音楽性に接近している。それでいて主軸はハードコアらしいストレートな暴力性で、モッシュもヘドバンも止まらない楽曲ばかり。あとボーカルが個人的にはすごく好みで、メタリックハードコアのvoはエクストリームメタルやハードコアパンクと比べて「グロウルと言うには歪がラフすぎるし、吐き捨てボイスと言うには低すぎる」みたいなことが多いが、このvoは地べたを這うようなグロウルと苦悶の絶叫を使い分けながらも、どちらにおいても日本語歌詞が聴き取れるというバランスが素晴らしい。

 

Macronympha - Unreleased Material 92-93

advaitarecords.bandcamp.com

アメリカハーシュノイズ未発表音源発掘リリース。ザラついた質感のローファイノイズが中心にありつつ、サンプリングはじめとした無数のサウンドソースが左右にパンしつつ縦横無尽に鳴り続ける。図太い低音が常時鳴り響きつつ上モノ(?)のスピード感が凄いので、重厚な迫力と勢いが両立している。「90年代発掘カセットの復刻リリース」というとどうもジャンク、ローファイ、マニア向けの印象があるが、むしろノイズ入門にもおすすめな傑作。

 

Orphalis - As The Ashes Settle

orphalisger.bandcamp.com

ドイツデスメタル4thフル。いわゆるテクニカルデスメタルとブルータルデスメタルを折衷したような音楽性で、ブルデスらしいブラストビート主体の複雑な構成とオカルティック&メロディアス&テクニカルなフレーズが違和感なく融合し、5分以内のコンパクトな楽曲にまとめられている。テクデス要素とブルデス要素の調整がかなり絶妙で、キャッチーな印象、目まぐるしい展開、ストレス寸前の攻撃性、時折見せるスラミングな激重ビートダウン、OSDMの旨味をしっかり残したストレートな攻撃性等がちょうど全部味わえる欲張りな作品になっている。ディスコ調の幕間7.「Moon Supremacy」だけが本当にダサくてマジで最悪なのだが、たった1分なのでギリギリ許容範囲。

 

Parasite Nurse - Life Is Beautiful

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アメリカソロハーシュノイズ3rdフル。切れ味たっぷりの鋭いノイズが左右に細かくパンしまくるカットアップハーシュ。左右同時に音が出ているタイミング殆どないのではないかというくらいのスピード感。そうして脳が揺さぶられたかと思ったら小さな音のパートや聴きやすいノイズ(ホワイトノイズ系)を挟んで小休止を入れるところが小憎たらしい。最終曲は女性の喘ぎ声かすすり泣きをカットアップしただけのトラックがだんだんノイズに侵食されていく不穏なもので、編集手法は他の曲と概ね一緒だが受ける印象が違っていて面白い。scumなどと比べてももっと断片的で、昔shotahiramaが発表したカットアップノイズ作品「Stiff Kittens」をハーシュ化した感覚。刃物みたいなアルバム。

 

People In The Box - Camera Obscura

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福岡ポストロックバンド8thフル。これまでの作品は曲単位で「ニムロッド」「ストックホルム」は聞いたことがあるくらいで、有志によるシャニマスイメソン合同誌を機になんとなく意識していた。うねるようなグルーヴと美しいメロディが際立った楽曲ばかりで素晴らしい。1.「DPPLGNGR」でドヘヴィにぶちかまして驚かせたかと思えば、その後はポストロックらしくたゆたうような楽曲やプログレ風に引っかかりが設けられた楽曲を自在に使い分け、アルバムトータルでリスナーの感覚をかなり厳密にコントロールするような強かさを感じる。バンドサウンド"以外"の使い方も素晴らしく、特に8.「水晶体に漂う世界」のコーラスはあまりに壮大。「現代社会の不快さ」「ループ構造」「ドッペルゲンガー」などの複数のモチーフがアルバムに通底していることを示唆する、一見すると難解な歌詞とアルバム構成も読解欲を掻き立てられて何度も聴いてしまう。複雑で不快なものを美しく聴かせてくる技量に酔いしれながら、コントロールされる感覚に危機感も覚えてしまうような、怪物感のある作品。

 

Session Victim - The Intangibles

sessionvictim.bandcamp.com

ドイツハウスデュオEP(何作目か不明)。昨年のEP「Basic Instinct」と同様の路線の、サンプリングサウンド主体で絶妙なところでダブエフェクトをかます、踊れるディープハウス。たった3曲入りではあるが中毒性があるのでリピート再生すればずっと踊っていられる。たゆたうドローンサウンドのオンオフと永遠に続くようなファンキーリズムが気持ち良すぎる2.「Dromedary Twist」がキラーチューン。実は年末にアルバム「low key, low pressure」リリースしているのだが、そちらはあまりにもリラックスした、クラブ音楽ファンが言うところの「フロアバンガーがない」音楽だったので一気に好みから外れて選外。

 

SPOILMAN - Undertow

spoilman.bandcamp.com

東京ジャンク・オルタナロック5thフル。The Jesus Lizardや初期Nirvanaをスカスカ&キモくしたようなデビュー当時の路線から毎年アルバムをリリースしながらどんどん不気味な個性を確立してきたバンドだが、ここでさらに進化。本作は「Comber」と同時リリース(どちらも5thアルバムという扱いらしい)だが、あちらが短めの楽曲でハードコア感を重視する一方、こちらは気持ち悪さに振り切った印象。暴力的なジャンクロックで組曲をやったような2.「Alterego Overdrive」と、トニー・コンラッド&ファウストによる名曲「Outside The Dream Syndicate」を超えた新たなクラウトロックスターピースになりうる5.「Clock Man」が特に凄い。「Comber」も良かったがこの2曲の存在があまりに大きく、こちらのみ選出。なんと23年末にもう6thが出たが、未チェック。

 

SWARRRM - 焦がせ

swarrrm.bandcamp.com

神戸グラインドコア7th。基本的にはこれまでの唯一無二な"歌モノグラインドコア"の路線上にあり、怒号と絶叫とアジテーションと歌謡が同居するvo、グラインド/激情/マスコア/ブルースを行き来するような旋律、"Chaos & Grind"のスローガンに則りグラインドコアらしさを維持しつつ意外性のある展開を見せる曲構成は不変で、前作から顕著な歪の少ないギターもあるが、本作はメロディアス&エモーショナルな方向にかなり振り切れており、あまりにメロディアスロックとして完成度が高いので聴き終わるたびに「あれ、本作ブラストビートなくない?」と思ってしまうこと多々(実際はクリーントーンの楽曲含め全曲にある)。これだけメロディアスでキャッチーでエモーショナルな音楽性に振り切っていながら、音&世界観ともに重さを損なっていないのが見事なところで、終わり方も再起の物語をドラマチックに演出する9.「青い花」による感動的な大団円よりも、自意識の歪みに向き合うような緊張感ある歌詞の10.「カケラ」のラスト"サヨナラ"を優先するところにヘヴィロックバンドとしての矜持を見る。ちなみにKandarivas、kamomekamomeとのSplitで発表済みの楽曲もアルバムの音色に合わせてリミックスされているっぽいので、そういった音源所持済みの方は聴き比べてみても良い。

 

Warfuck - Dipityque

warfuck.bandcamp.com

フランスグラインドコアデュオ4thフル。後期NxDxやWormrotを彷彿とさせる不穏なコードのリフを多用しつつも曲構成はショートに研ぎ澄まされ、1曲を除きすべての楽曲が1:35未満。実は結構凝ったこともやっており、ミドルテンポ中心の6.「Incognition」、不協和音デスメタルの影響を感じさせる7.「Incognition」、メロディアスな10.「Lavaune」、三拍子ブラストをかなり複雑に織り交ぜる16.「Vermore」ラップメタルのパロディ19.「Grichélisé」など、直球グラインドコアから少しズレた楽曲もじつは多いのだが、聴き終わった時の感覚は芳醇なアイデアへの感心ではなく嵐のあとのような放心と心地よい疲労。多彩な要素を取り入れるくせにそれを遥かに上回るグラインド魂ですべて飲み込んで爆速の音塊にしてしまう、その歪んだ構造が何よりかっこいい。

 

Walking Corpse - Our Hands, Your Throat

walkingcorpse.bandcamp.com

スウェーデングラインドコア2ndフル。Discordance Axis的なひねくれたリフを使うカオティックなグラインドを基調としつつ、オールドスクールグラインドコアの突進力もある。長めの楽曲ではデスメタル的な重みまで完備。ひりついたギターの音作りが楽曲のキレに貢献してるのもあり、とにかく勢いが半端ない。それでいて4.「The Wheel」みたいな曲ではスラッジコアばりに落としまくる。今年のエクストリーム・メタルのリリースの中で最も痛快なものの一つ。

 

Yalla Miku - Yalla Miku

yallamiku.bandcamp.com

スイスミクスチャーポップ/ポストパンク1stフル。多国籍バンドであり、欧米ルーツのメンバーが楽曲の土台を制作し、アフリカルーツのメンバーが自身に根付く伝統音楽に基づいてそれを再解釈するという形で作られたらしい。その結果、リズムや曲構成はポストパンクやクラウトロックっぽいものなのに、そこに乗るメロディも唱法も全く非西洋音楽のものになっているというかなり面白い作品。

 

Zulu - A New Tomorrow

flatspotrecords.bandcamp.com

アメリカパワーヴァイオレンス1stフル。Black Lives Matter運動に共鳴し"Blackpowerviolence"を掲げるバンドが2枚のEPをリリース後発表した本作は、ドヘヴィなメタリックハードコアを唐突かつ急激に展開させる攻撃性と、ソウルやレゲエ等のルーツミュージックへの敬愛が全開。「数秒でリフとリズムがスイッチする支離滅裂なハードコア」というパワーヴァイオレンスの流儀は踏襲しながら、その"スイッチ"の際に突如としてレゲエやソウルになる(その逆もやる)というのが唯一無二の個性。そしてそれが一昔前の個性派マスコアのような露悪、コミカル、衒学っぽいノリではないのも面白いところで、アルバムをトータルで聴くと、ハードコアとメタルとブラックミュージックを楽しみ、ルーツを愛し誇り、政治と差別と分断に怒るというバンド全体の姿勢を提示するために必然的にそうなったような印象を受ける。こんなにメチャクチャな曲展開なのに……。ヘヴィ&ハードなパートのかっこよさはもちろんのこと、7.「Shine Eternally」12.「We're More Than This」のような非ハードコア楽曲をスムースに演奏してのける技量も大したもの。

 

旧譜

Alcatrazz - Disturbing The Peace

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アメリヘヴィメタル1985年2ndフル。Yngwie Malmsteenが脱退し、あまり興味のなかったSteve Vaiが加入した頃の作品ということで、いわゆる"様式美厨"だった思春期に存在は知っていながらスルーしそのまま忘れていた作品。1stより音質が大幅に改善し、Ritchie Blackmore崇拝の前任者とは正反対の、どちらかというとVan Halenへの対抗心を感じさせるフラッシーなプレイを聴かせるVai&パワフルなGraham BonnetのVoという組み合わせが想像以上に良く、6.「Stripper」などスピードメタルの名曲が生まれている。

 

Cretin - Freakery 

cretin.bandcamp.com

カリフォルニアグラインドコア2006年1st。一言でいうと「100%のRepulsionトリビュートバンド」で、2パターンしか無いBPM、3パターンしかないドラム、メタル度の低いリフ、勢いだけのギターソロ、やや低めのだみ声voによるシンプルなグラインドコア。とにかく声が似ている。案外Repulsion直系のグラインドコアは少ないので貴重な作品だし質も高くて嬉しい。

 

Devin Townsend(Ocean Machine) - Biomech

insideoutmusic.bandcamp.com

カナダプログレメタル/インダストリアルメタル1997年2ndフル(Strapping Young Ladから数えれば4th?)。SYLのCity(なんと同年リリースである)で完全体得した轟音インダストリアルメタルサウンドに、プログレロックやメロハーに影響されたような壮大でポップなメロディが乗る、現在の彼のスタイルの原点が確立されたっぽい一作。壮大で、キャッチーで、時折エクストリームに、Devinの内省的歌詞が歌われる楽曲群(ほとんど全曲がシームレスに繋がる)は、今の耳で聴くとかなりポストメタルに近く、むしろ「ポストメタルムーブメントの少しあとにポストメタルをHR/HMを揺り戻す動きがあった頃の作品」と言われたほうがしっくりくる。9.「Regulator」以降の楽曲がとにかく素晴らしい。最終曲ラストの、リスナーを突き放す嫌がらせ的サプライズも面白い。

 

Discharming man - POLE & AURORA

jusangatsu.bandcamp.com

北海道エモ/ハードコア2020年4th。弾き語りとエモバンドの中間を取ったような優しいサウンドを基調としながらときにハードコアになったりポストロックっぽく轟音をぶちまける基本的な路線は2015年3rd「歓喜のうた」までと同じではあるが、本作はもっと切実な空気感があり、蛯名氏の装飾を拒絶するようなむき出しの歌声と硬軟自在のバンドアンサンブルでこれまでより強い怒り・祈りを表現している印象を受けた。入管問題ひいては日本にいまだ根強い外国人差別へ怒りをストレートに叫ぶ1.「future」、11分半ほぼ単一のフレーズが壮大に展開していくポストロック2.「極光」、ダブっぽいエフェクトと破綻寸前の単調なアンサンブルが無力感を掻き立てる5.「Disable music」など、楽曲単位にフォーカスするとかなり息詰まる印象。しかし前述のような楽曲に、反差別を題材にしつつもメッセージも曲調も優しげな4.「February」などをはさみつつ、最後に閉塞感と希望が同居する歌詞と美しく爆発するサビを持つ8.「Discharming man」で終わると、最終的な印象はすごく温かいものになっている。

 

Extreme - Waiting For The Punchline

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アメリカハードロック1994年4thフル。時代に合わせてかつてのグラムメタル路線からグランジを意識したドライでヘヴィな路線に転向した作品だが、HR/HM的派手さを取り去った結果、バンドが持つグルーヴ感覚とファンキーなアレンジセンスが剥き出しになった傑作。ドラム&ベースがブルージーな感覚をうっすら残して現代的(当時)なヘヴィネスを演出し、その上でヌーノのギターがやりたい放題に遊び、ゲイリーのVoがどんな曲も力強く自分の色でハスキーに歌いこなすという独特なバランス感覚があり、現代に再評価されるべき作品ではないか。個性的だがアリーナロックの嫌味がない楽曲を作ろうとした結果RATMに肉薄してしまった1.「There is No God」、グランジ的ヘヴィネスのまま浮遊感を体得できている3.「Tell Me Something I Don't Know」シンプルな楽曲だからこそ全員パワフルに大暴れする8.「No Respect」かなり個性的なヘヴィリフをさらりと弾いてしまう12.「Waiting For The Punchline(何故か隠しトラック)」など佳曲がいっぱい。路線こそ違うし選外にはしたけど今年の新譜もアリーナロックでありながらフラッシーなギターとキャッチーな歌メロが良かった。

 

Harvey Sutherland - Boy

harveysutherland.bandcamp.com

オーストラリアシンセプレイヤー・ハウス/ファンクプロデューサー2022年1stフル。自身のジャンルを"Neurotic Funk"と称しており、なるほどシンセ主体のファンキーなフレーズが、ハウスやクラウトロックの執拗さで鳴り続ける音楽性。個人的にはファンキーなハウス/ディスコと捉えて聴いているが、1.「Jouissance」7.「Type A (Feat.SOS)」のような100%ハンマービートみたいな曲もあるのがアクセントになり楽しい。

 

H.E.R.O. - Alternate Realities

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デンマークオルタナ/ハードロック2022年3rdフル。Loud Park2023にも出演したバンド。音楽性としてはシンセをリードメロディではなくリフとエフェクトを兼ねた位置づけで活用する、ヘヴィでエモーショナルなミドルテンポのヘヴィロック……ということで、That's The SpiritあたりのBring Me The Horizonが近いのだが、このバンドはBMTHに比べもっと潔癖症っぽく聞こえるところがあり、その理由はメタルコアを経由していない曲調と、何より透明感抜群の美しい歌声が大きい。Djent以降のヘヴィネス感覚とBMTH的アレンジ、完全にnotメタルなハイトーンvoの組み合わせはありそうでなかった路線で、このバンドも2ndまでは歌メロを重視したのか若干ポップな路線だったが、コロナ禍を経た本作で一気にヘヴィ化。演奏力も高く、ラウパ出演時は同期音源フル使用でありながら躍動感溢れる演奏、ギターvoとは思えない美しい歌声の絶唱で、非メタルバンドのハンデをものともしないパフォーマンスを見せた。

 

kurayamisaka - kimi wo omotte iru

kurayamisaka.bandcamp.com

東京オルタナ/インディーロック2022年1stミニ。卒業を期に離れ離れになる女子高生二人を描いたコンセプト作。昨年ベストにあげていた人も多かった印象の作品。甘酸っぱく切ないキラーなメロディをシューゲイザー感のあるノイジーサウンドで鳴らす。ちょっと投げやりっぽく(脱力ではないんだよな)かすかに震える声で歌う女性Voが却って涙を誘う。5.farewellは本当に凄い。最後まで聴くたびにジャケットの二人に幸せになって欲しくなる。

 

 

OiDAKi - Sulphur Pusher

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仙台ストーナーロック/スラッジコア2017年1stフル。基本的にはドゥーム/ストーナーの系譜にある、ヘヴィーでブルージーでブギーな、Church of MiseryやEyehategodあたりに通じる長尺楽曲にファストコアバンドのような喚きVoが乗る音楽性なのだが、3.「メズマライズ」など、楽曲によってはブラストビートによる爆速パートが突如出てくるのが個性的で面白い。バンドはジャンルを"ハードロック・ヴァイオレンス"と自称しており、極度にストーナーロックに比重を置いたパワーヴァイオレンスとして聴くのも面白い。そういった個性を抜きにしても、リフのクールさは大御所バンドに引けを取らないクオリティ。23年11月のノルウェーノイズロックMoE仙台公演にサポートアクトとして出演していたが、ライブパフォーマンスがとにかく荒々しく素晴らしいバンドでもあった。というかライブが良すぎて作品を買った。

 

Power Trip - Nightmare Logic

powertripsl.bandcamp.com

アメリスラッシュメタル2017年2ndフル。当時メディアもファンも大絶賛、モダンスラッシュの金字塔としてもてはやされており、当時カスだったので逆張りしてスルー。ハードコアパンクスラッシュメタルを融合したいわゆるクロスオーバースラッシュのスタイル。3.「Firing Squad」のような先輩クロスオーバー勢っぽいフッ軽爆走チューンはもちろん、正統派スラッシュな1.「Soul Sacrifice」、ハードコアミドルテンポモッシュ&シンガロング発生装置2.「Executioner's Tax」など、後発勢ならではの多彩な楽曲が魅力的。Cro-Magsがモダンメタル化したような印象も。Vo存命中にライブ見たかったな……。

 

Sickrecy - Salvation Through Tyranny

sickrecy.bandcamp.com

スウェーデングラインドコア2022年1stフル。voがBirdfleshやGeneral SurgeryのドラムであるAdde Mitroulis。音楽性はもう文句なしの直球グラインドコア。あまりに教科書的すぎてあまり言うことがないのだが、フックまみれながら爆走しまくる楽曲は、Mumakilの2ndあたりが好きだった人に是非おすすめしたい。voの声質もそっくり。

 

Sordid Clot - Raging of Noble Rots

sordidclot.bandcamp.com

ロシアゴアグラインド2022年4thフル。ミドルテンポ主体でブラストは必ずしも重視しない、いわゆるモッシュゴア。ゴアグラインドにありがちな「オタクorエログロorスカトロ」の露悪趣味が一切なく、冗談臭さがないのが好み。メタリックハードコアっぽいヘヴィなサウンドながら音抜けの良いスネアで音像全体はくぐもらないのも個人的にツボ。リフが意外とメロディアスで、モッシュパートとダンサブルなパートが多いので、低めのBPMにも関わらず体感として遅い印象を与えない。ピッチシフトボイスながら結構多彩な声色を使い分けるVoも楽曲の多彩さに貢献している。

 

SpiritWorld - Deathwestern

spiritworldprophet.bandcamp.com

アメリクロスオーヴァースラッシュ2022年2nd。「ウエスタンゾンビ映画」のコンセプトアルバムらしい。God Hates Us All前後のSlayerっぽいオカルト/グルーヴ/スラッシュなリフと、スラッシュメタルにしてはミドルテンポ多めでHatebreedにも近いメタリックハードコアの曲構成を組み合わせたスタイルがめちゃくちゃ面白い。ハードコアっぽくコール&レスポンスを煽るようなサビが多い。全曲が豪快かつノリやすいのが最高。

 

Teething - Help

teething.bandcamp.com

スペインハードコア/グラインドコア2022年2ndフル。基本はグラインドコアではあるものの、NYハードコア~メタリックハードコアの要素を多分に取り入れたマッチョでグルーヴィーなパートがかなり多く、モッシュ感&メジャー感たっぷりの音楽性になっている。3.「Striking Fire」あたりはHatebreedのグラインドコア風カバーだよ、といえば何人かは騙せそう。

 

WIND - かおり EP

windworld.bandcamp.com

アメリカクリスチャンフォークデュオ2020年EP。2019年のフル「Incense」の収録曲の一部を日本語訳した楽曲+新曲という構成。フルアルバムだとPink Froydあたりのプログレ志向も見せるユニットだが、本作では徹底してカーペンターズにも通じる美しいコーラスにみちたフォークロック楽曲のみを抜粋して披露。とにかくサビメロディの必殺力が高く、明るい2.「 あなたは (詩篇145:1-13 & 詩篇40:1-3)」や壮大で感動的な3.「起きよ,眠る獅子よ(ローマ13;12,イザヤ52:1-2,マラキ4:2) 」などは一度聴いたら忘れられないフックを持つ。日本語の発音もかなり自然で美しく、Queenの「Teo Toriatte」あたりと遜色ない。なおタイトルからもわかるように、歌詞は聖書からの引用による。

 

Y - Global Player

(サブスクも動画もbandcampもありませんでした)
ドイツハードコア/グラインドコア2001年2ndフル。猛スピードの2ビートとブラストビートでかっ飛ばすグラインディンハードコアで、メロディアスなフレーズやパワーヴァイオレンス的なスローパートを時折用いるのも好み。キャッチーなハードコアリフと怒号Voがとにかくかっこよく、勢いと聴きやすさが両立している。本記事作成時点で大手ショップの在庫はとうの昔に全滅しているが、死体カセットにCD在庫が残っている。

noisegrind.official.ec

 

Yacopsae - Tanz, Grosny, Tanz…

yacoepsae.bandcamp.com

ドイツファストコア/パワーヴァイオレンス2007年2ndフル。凄まじい速度とヒステリックさで畳み掛ける疾風怒濤のハードコア。ただでさえうるさすぎて目が回るのに、その上で過剰なまでのストップ&ゴー展開を多用しとことん振り回してくる。冷静に聴くとリフに意外と多様性があったり、ブラストも三拍子多用で個性を出していたり、13.「Frost」のようにメロディアスな曲も作れたりと、優れたミュージシャンシップが見えてくるのもかっこいい。

 

スガシカオ - THE LAST

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東京SSW2016年10th。今回の新作「イノセント」発売に合わせて持っていなかった後期アルバムをすべて買い揃えたところ本作の出来が突出していた。初期の「打ち込みの安っぽくて異様な雰囲気のリズム+ファンクを魔改造したようなギター+ざらついた歌声の毒々しい歌詞」の路線にある程度回帰しつつ、2006年7th「PARADE」以降のゴージャスさ、爽やかさ、優しさ、更に新機軸としてのエレクトロ要素をも取り込んだ作風で、聴きやすくポップでありつつ歌詞世界とちょっとした音のフックでしっかり心にしこりを残していく。ヒットシングル11.「アストライド」のあまりにも重いバックグラウンドを示唆する1.「ふるえる手」、キャリア史上最も美しいソウルバラード4.「海賊と黒い海」、シンセファンクに乗せてひたすら気まずい5.「俺、やっぱ月に帰るわ」、人力エレクトロニカ、ノイズ、ヒップホップをごった煮にしつつギリギリまとめ上げる手腕が見事な10.「真夜中の虹」あたりが良い。新譜も良かったけど本作が上回った。

 

スタァライト九九組 - 劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト 劇中歌アルバム Vol.1 & 2

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2021年公開アニメ映画の劇中歌&サントラ集。2枚分割リリースだが一作として扱った。映画も好きだし音楽も好きだしということで購入。劇中歌は台詞パートがなくなることで、印象以上にゴージャスなインストパートを単体で楽しめる。歌唱パートも映像と合わせて楽しんでいた部分を音声だけで聴くことで演技を聞き取るのが面白い。石動双葉が一番好きです。

 

直江実樹 - Solos

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横浜の"短波ラジオ奏者"10年ぶりの2021年2ndフル。エフェクトも何もなく短波ラジオを受信しながら操作するだけの一発録り即興ノイズ演奏を2曲収録。楽器の即興演奏とは比べ物にならないレベルでのぶっつけ本番のはずだが、カットアップノイズ作品としてとてもハイレベルな仕上がりで、受信不良ノイズがハーシュ的ノイズ、番組受信時の断片的音声がサンプリング音声のチョップのようになり、むしろポップさすら感じられる。聞き慣れているはずのラジオノイズを迫力たっぷりに仕上げたミックスも見事。

 

まとめ

・選外にしたけど良かった新譜はExtreme, Sevendust, Skindred, Vomitory, Cannibal Corpse, Cryptopsy, Horrendous, Lunar Chamber, Khanate, Incantion, Incapacitants, UCGM, Desolate Sphere, Meshell Ndegeocello, 泥虎, Riffobia, OGRE YOU ASSHOLE, HAERERE/Herside, Rise of The Northster, ノイズコンピレーション2作(Capture The Wind, The Remains of Wasted World)あたり。
・楽曲単位で言えばMetallicaスガシカオも良かったです。
・自分に全然刺さらないものをせっかくだからと聴いてみて、やっぱりはまらなくて、でもしっかり聴いたおかげで自分の好みが少し明確になる1年だったのも個人的には良かったです。他のサイトでベストに上がっている作品から例を挙げるとLiturgy, 今のCattle Decapitation, WEG, Mandy,Indianaあたり。
・2024年も色々聴きたいですね。

番外

V.A. - THERE IS NO TRUTH -HEAVY METAL COMPILATION 2023

nekram0nsee.bandcamp.com

2023年の個人的音楽活動も紹介させてください。友人主宰のメタル系コンピレーションの22.「NEKRAM0NSEE - 20XX」にvoとして参加しました。ノーエフェクトのガテラル、グロウル、スクリーム、普通声など、かなり頑張りました。ほかの皆さんの楽曲もボカロ、正統派、ゴアグラインド、ブラックメタルなど多彩で面白いのでぜひ。